異世界での異生活

なにがし

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87話 パン好きの鳥人に玉子サンド

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 サーチェの嬉しい言葉に、では失礼して、と触りたがったが、今はアリアドネに監視されている状態だ。そんなことができるはずもなく、昨夜の空中戦に勝てなかった悪魔を呪った。
 それとは別に、ハーピーとはいえ、女性にそんなことを言われ、心が躍った。嬉しくて将来的なことを少し考えてしまう。ヤスオの妄想は膨らみ、かなり飛躍した内容になっているようで、口元から大量のよだれがこぼれ落ち、とても幸せそうな顔になる。

「でも、わっちではヤスオっちの子孫は生めねぇさぁ。残念さぁよ」
(ヤスオ、ハーピーとヒューマンは無理だから)

 二人はヤスオの妄想を察知し、考えを改めさせた。ヤスオの将来計画は、数秒で崩壊した。でも、振られる事には慣れている。ならば、友として長く付き合えばいいと、簡単に気持ちを切り替えた。
 
 朝食に、調理パンをサーチェに振る舞った。前回のパンが好感触だったので、今回も用意していた。実は前回の朝食でパンが大好物になっていたサーチェは、手を止める事なく、この機会に食べ置きをしようと無理をした。ヤスオはそんなサーチェをなだめ、いくらでもあるからと、パンが入った紙袋を、3つ出して見せた。サーチェは歓喜し、ヤスオに抱きつき、顔の至る所に、尖らせた唇を押しつけた。
 ヤスオの顔と胸には嬉しい感触が伝わり、当初は鼻の下の面積を拡張させた。だが、物凄い力で抱きしめられ、体中の骨がきしみ両足は完全に宙に浮いていた。

──こ、これはもしかして、ベアハッグ。

 熊ではなく、ハーピーハッグを浴び、ヤスオの意識が遠のき、口から泡が出ていた。

「ヤスオッち。すまんさぁ。またやっちまったさぁ」

 ヤスオは自身に治癒魔法を唱え、回復していた。

「サーチェ、大丈夫だ。こんな時の為に、治癒魔法を習得している」
「本当に大丈夫かさぁ。良かったさぁ」

 サーチェは喜び、安堵してか、紙袋からパンを出すと頬張った。

(ヤスオ、あれ、たまごサンド)

──しまった。卵も鶏だ。

 ヤスオはサーチェの反応をうかがった。サーチェは怒る事も、機嫌が悪くなる事もなく完食して見せた。罪悪感に見舞われたので、正直に話し謝罪する。

「サーチェすまない。俺の不注意で、鶏の卵を君に食べさせてしまった。なんとお詫びをしてよいのか」
「それが、どうしたさぁ。何を気にしているさぁ?」
「君に、同族食いをさせてしまったのでは?」

 サーチェは呆気に取られ、ヤスオを見つめた。ヤスオの真剣な表情に、吹き出し笑い始めた。

「アハハハハハハ。何の冗談だ。面白過ぎるさぁ、ヤスオ」
「いや、冗談のつもりはないのだが」
「ヤスオは、何を言っているさぁ。確かに同じ鳥類に見えるかもだけど、鷹や鷲だって同じ鳥類の鳩や雉を食べるさぁ。そんなの関係ないさぁ」

──確かにぃぃ。

「ちょっとぉ、アリ姉様。どういう事ですか?」
(ごめん。でも昔、鶏肉を食べさせられ、怒ったハーピーがいたのよ)
「ああ、ヒューマンにも菜食主義者がいるように、ハーピーにも偏った主義者がいても不思議はないわさぁ」
(そっかぁ。私は間違った認識を持っていたのね。あれ?サーチェ、私の言葉に反応した?)
「サーチェ。アリ姉様の声が聞こえるのか?」
「ヤスオの中に、別の人格があるのは、昨日、薬草を採りながらの独り言を聞いていたから、知っているさぁ。それから、聞こえるわけではねぇが、なんとなく分かるさぁね」
「ちょっと待て。昨日、薬草採取で時間を潰していたの、知っているのか?」
「もちろんさぁ。ヤスオの気配は森に入った時から気づいていたさぁ。ずぅぅと見ていたけど、洞窟にきてくれた時は、心臓が破裂するかと思ったくらい嬉しかったさぁ」

 サーチェがヤスオに気がつきながらも、気安く声をかけてくれなかったのは寂しかった。だが、森に入ってからここまで、見ていてくれたのは嬉しかった。何とも言えない複雑な気持ちになったが、とりあえずサーチェが人でないことを、心の底から残念に思った。
 楽しい時間が過ぎたが、そろそろ別れが近づいていた。まだ、ゆっくりしていてもいいのだが、ヤスオには気になる事があった。それは、昨夜のサーチェの予言に近い反応だ。それが気になって、どうしても確認したい事があった。サーチェには、また会いに来ると約束して、別れを惜しみながらその場を去った。

 ヤスオは、強化魔法を自身にかけて先を急いだ。途中、野生動物や角ウサギに遭遇したが、すべてやりすごし、とにかく先を急いだ。

(ヤスオ、何を焦っているの?それに、森を出るには方向が反対よ)
「森は北から、抜けます。一昨日、チャーフィーさんが、討伐隊を見送ったって言っていましたよね」

(ええ、そんなことも言っていたわね)
「一昨日からサーチェが寝不足になったと考えれば、色々納得しませんか?」

(確かに。という事は、討伐隊がミノタウロスと接触し、サーチェが寝不足になったという事かしら)
「多分、そうなのだと思います」

(だとしたら、討伐隊はミノタウロスと交戦していると考えていいわね)
「で、昨夜のサーチェの反応。あの時間帯に討伐隊が、行動しているとは考えにくい」

(そっかぁ、討伐隊が寝込みを襲われた可能性の方が高いわね)
「マチルダさん。無事だといいのですが」

 ヤスオは先を急いだが、森の木々が行く手を阻み思うように走れない。せっかく強化魔法をかけたのだが、意味がなかった。西森湖に出たので、障害物がなくなった。再び、強化魔法を唱えて湖畔を走る。そして、森に入り木々が邪魔をする。ヤスオは、はやる気持ちを抑えながら、先を急いだ。
 何とか、陽が真上にくる前に森を抜けることができた。さらに先を急ぎ街道を目指す。街道に出ると、街とは反対方向に進む。しばらく進むと、街道から少し外れたところに、たくさんの残骸が転がっていて、それらには乾いた多くの血痕らしきものが、付着していた。
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