異世界での異生活

なにがし

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95話 馬車で送る理由

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「えらく疲れているねぇ、カミルくん。何かあった?」

 昨日、教会から荷車が届きバナナが納品された。そのことを聞きつけた街の人達が開店前から行列を作っていた。この事態に開店時間を少し早め、少し前まで販売していた。店内は混雑し、1刻半ときはん程で売り切れたらしく、その忙しさに疲れ果てていた。カミルと話をしていると、ヤスオの声が聞こえたセルジュが奥から現れた。

「ヤスオ様。薬品の納品ですか?」
「はい。どうです、不足している薬品はありますか?」
「ソフィア様のおかげで、売れ筋の治癒小薬が安定して納品できていますから問題ありません。ただ次によく出る治癒中薬が、ヤスオ様からしか納品されないので、在庫が心配です」
「今日、たくさん持ってきましたから、安心してください」
「これで、当分は安心ですが、ソフィア様では、治癒中薬の調薬は無理ですか?」
「技術の問題ではありません。問題なのは材料です。子供達が採ってくる薬草では小薬しか作れないのです。ラン茸があれば、ソフィアさんでも作れます」
「ラン茸ですか。分かりました。探してみます」

 ヤスオは、馬車引きのレオについてセルジュに聞いてみた。名前だけは聞いたことがあるようで、悪い噂があるわけではない。むしろ真面目で面倒見の良い人のようだ。最近、何か不幸な出来事があったらしく、何日か仕事を休んでいたそうだが、詳しくはセルジュも知らなかった。ただ、方向が同じだからといって、ただで乗せることはないようで、何か企みがあるのは間違いない。

 治癒薬の納品を済ませ、懐が温かくなりアントの夢を後にする。アントの夢でバナナの事を思い出した。前回、地下室に置いたのが、マリナを送り届けた日だから、1週間くらい前。という事は、明日か明後日には納品される。そうしたら、地下室の在庫がなくなる。急遽、次の予定を東の森に変更し、バナナを収穫する事にした。

 東門に向かって歩いていると、背後から蹄の音が近づいてくる。ヤスオは立ち止まり、振り返って声をかけた。

「レオさんでしょう」
「ひっ。な、なんで分かった」

 意表を突かれ、レオは怯む。かなり動揺しているので、畳みかけることにした。

「これだけ、偶然が続いたら、さすがに気持ち悪いです。そろそろ、狙いを聞かせてくれませんか。何か頼みたい事でもあるのですか?」
「た、頼みがあるわけじゃねぇんだ。俺はただ、……その」
「その、何です?」
「娘の恩人に、礼がしたいだけだ」

──恩人?

 レオは、ヤスオの背中を押し、三度みたびヤスオを馬車に乗せる。目的地が東門と聞き、それに向かって歩き出す。その道中、理由を説明した。娘の名前はクレア。以前ヤスオがゴブリン共から奪い返し、冒険者組合に預けた子の名前だ。
 レオは使いの者から、ゴブリンから救い出されたと聞き、引取りに行くのに相当な覚悟をした。自分一人で行こうとしたが、妻も覚悟したと言うので夫婦で迎えに行った。冒険者組合で娘の姿を見た時、度肝を抜かれた。
 ユキナが見間違えたように、レオ夫婦もまた、見間違えた。寝ているだけではと思い、何度も肩を揺さぶり起こそうとした。だが、決して起きることはなく、その冷えきった身体が夫婦に現実を教えた。夫婦は現実を受け止め、その美しい服に下着、そして靴下と靴に化粧まで、まるでどこかの美しいお姫様を扱うような丁寧な対応に涙した。レオ夫婦はその恩人の名前を教えてほしいと聞いた。しかし、本人が名乗り出ない以上、組合からは教えられないと断られた。謝礼なら、組合から渡すと言われた。ただ、人助けは冒険者なら当然の義務。被害に遭ったのに無理に謝礼を出す必要はないと念を押された。そして、被害者なのだから、今回は冒険者の気持ちに甘えればいいとも言われていた。

 そんなある日、レオは雑貨屋のトラブルの話を聞いた。コメット団長が店主に言った言葉。褒賞が追い付かない困った奴、G級ヤスオ。レオは耳を疑った。あの悪名高きG級ヤスオが恩人?組合が正体を明かさなかったのはこれが理由なのか?俺が妙な勘繰りをしないよう?噂と功績があまりにも違い過ぎる。レオはヤスオの人柄を知るため、正体を隠して接触した。

 レオの出した結論は、まず名前がG級ヤスオではなくヤスオだった。温厚な性格に丁寧な口調。偉ぶる素振りもなく、人を見下すこともない。なんといっても、馬車に乗っている間その口からは景色を楽しむ発言しかなく、出歩く女性の容姿や風貌を語ることなど、なかった。
 それを受け、噂が嘘だと確信し、ヤスオを恩人だと認めた。

「あの時のお嬢さんの、お父さんでしたか。この度は、まことに残念です」
「娘が花摘みに出かけて、かなりの時間が経っていましたから覚悟はしていました。どのような姿になっても、帰ってきてほしいと願っていましたが、予想以上で、ありがとうございます」
「組合も言っていたようですが、あなた方は、被害者です。感謝の鎖に縛られることがないよう、気にせず前向きでいてください」
「はい。あなたがそういう人だから、嘘だと確信したのです」

 さらに、ヤスオはその子を清めた時、風が吹き月明かり乱反射して、微笑んだように見えた話をした。すでに神からのご加護により、その子からの気持ちをもらっているので、これ以上は必要ないとレオに告げた。
 馬車のおかげで、疲れることもなく、予定より早く東門に到着した。ヤスオはレオと別れ東門を抜ける。門番はヤスオの桜色の冒険者証に驚き、そして、あの珍しい白色がもう見られないのかと嘆いていた。桜色になってから、北門や南門でも、いちいち門番は驚き嘆いてくれたので、面白く思っていた。だが、これで出入りできる3つの門をすべて通ったので、終わりかと思うと今度はヤスオが寂しくなる。

 ヤスオとサーチェがたくさんの魔物を討伐したので、西の森の西森湖の東側は魔物を見なくなっていた。ましてや、東の森での魔物の目撃情報は、聞かなくなっていた。
 ヤスオは目的地の甘蕉かんしょうが群生する場所に、何ものとも遭遇する事なく到着する。その場所から、さらに奥に行った柿の群生地の方から人の声が聞こえる。何を話しているのか分からないが、女性の声だと分かる。女性が大きな声で話せるのだから、この森は平和なのだと改めて思う。
 収穫を始め何房かもぎ取った時、何者かが近づいてくる足音が聞こえる。音からして複数いるようだ。音を立てて近づいてくるのだから襲う気はないようだが、念の為、警戒する。
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