異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル

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第一章 グローリア大陸編

第22話 刀匠の孫

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 俺は自分の無力を噛みしめながら、宿屋から出て、宛もなく村を歩き回った……。
 誰かを慰めたこともない……こんな時、どうしたらいいか分からなかったのだ。

 どれぐらい歩いただろうか? 気がつくと村の外れの方まで来ていた。

 ──カン! カン! 

 今のは……聞き慣れた鉄を叩く音だ。何処から響いているんだ?
 音のする方を見ると、長い煙突のある、こぢんまりとした建物が見えた……。──そう言えば彼女の剣、ダメになっていたな。

 こんな時なのに、自然と……いやこんな時だからこそ、自分に出来る事をするしかない……心がほんの少しだけ、何もする事が出来ない無力な自分に、彼女の為になることをしろ……と、命じた気がした。

 俺は鍛冶屋の前に立ち、扉を開き中へと入った。
 扉の中から、熱気が俺の体をすり抜けるよう外へと逃げ去っていく。
 店内で一番存在感のある、火炉かろの前で、背の低い男が一人農具を打っている姿があった。

「──中が冷える……早く閉めてくれ」

 目の前の男は、作業中の為か手を止めずに、冷たい口調でそれだけ口にする。
 俺は「すみません」と、一言謝罪の言葉を述べ、室内に入り扉を閉じた。

 その男は、俺が入ってきたこともお構いなしに、つちを振るう。
 しばらく槌を振るうと、農具を火炉中に入れ込んだ。

「何か用なのか?」

 作業のきりがついたのだろうか? 男はこちらに、振り返り俺を見た……。

「──ドワーフ!」

 その顔は少年のような体に相反し、立派なひげたくわえた貫禄のある老け顔であった。──驚いた……まさか人と違う種族がいるのか?

「なんだ? 小僧。ドワーフで何か悪いか?」

「い、いやそう言うわけじゃ……」

 そういう訳じゃないけど正直珍しかった……今まで見たこともない、ファンタジーの中だけの産物。驚かない方が無理だろう。

「用が無いなら帰れ! ワシも暇じゃないんじゃ!」

 ぶっきらぼうにそれだけ言葉にすると、再び農具を打ち始めた。──ドワーフって、こんなに無愛想なのかよ?

「お願いがあります」

 ドワーフは農具が一区切りしたのか、手を止めて片付けだした。──もしかしたら。来客である俺がうっとうしかったのかもしれないな……。
 突然の事で悪いとは思うが、このオッサン……無視しやがって。

 片付けもきりがつき、目の前のドワーフは椅子に深く腰を掛けた。
 しかし、こんなことで引き下がってられるか! 俺は彼女に、トゥナの為に剣を打たなければならないんだ!

「お願いします!俺に一振りだけ、剣を打たしてください!」

「小僧が……剣を打じゃと?」

 俺の言葉を聞き、更に不機嫌そうな顔つきになる。

「笑わせるな! 出て行け!」

 ドワーフは俺の言葉に腹が立ったのか、手元にあった槌を俺の方に向かって投げつけた。
 動かなければ当たらない位置に投げられた槌を、俺はあえて左手で受け止めた。ぶっちゃけると痛いってものじゃない……。

「ドワーフの方は一流の職人の方ばっかりだと噂で聞いていたんですが……道具をこんな風に扱うなんて大したこと無いようですね、がっかりです」

「……何じゃと?」

 俺のじいちゃんが良く言ってたな……。道具を愛せないものに良いものは作れないって……それに……。

  周囲を見渡すと、酒瓶の様なものが辺りに転がっている。酒を飲みながら作業して一流は無いな……。折角の設備が勿体ない。

 もしかしたら俺の発言に、多少なり思う事があったのかもしれない、今まで俺に興味を示さなかったが、初めてドワーフのおっさんが、まともに話しかけてきたのだ。

「小僧、貴様剣一本いくらかかるか知ってんのか? それに一人でやれるつもりでいるのなら、自惚れるじゃないわい!」

 先ほどクエストで得た、等分した俺の分の報酬を取り出しドワーフの目の前の机に置いた。

「これじゃぁ……足りないか?」

「い、いや……十分じゃ……」

 鍛冶屋は儲からないのを俺は嫌ってほど十分に知っている……目の前のドワーフも喉から手が出るほど欲しいだろう。

「でも、おっさんの言う通り、剣を打つのには人手が足りない……誰か一流の職人に手伝って貰いたいが?」

 俺は一つの提案と共に先ほど投げられた槌の頭を持ち、柄をドワーフへと向けた。

「小僧め……分かったワシが手伝ってやろう、その代わり小僧がどんな情けない仕事をしようが一振りだけじゃ……いいな?」

 今の状況で不謹慎かもしれないが、つい顔がほころんでしまう。──久しぶりに……久しぶりに槌が振える!

「あぁ、わかってる。よろしく頼む。手を抜かないでくれよ?」

「ちっ、生意気な小僧だ……」

 それだけ言うとドワーフは、俺が向けている槌の柄を握り、道具置き場に向かい大槌に持ち変た。

 俺に向き直り「お手並みを見せてもらおうか!」っとふんぞり返って初めての笑顔を俺に向けた。──やれるもんならやってみろとでも言いたげだな……?

「勉強させてやるよ!」

 俺は、笑顔でそれだけ言葉にして、作業の準備に取り掛かることにした。──ドキドキが止まらない! 粋な展開じゃないか!

 マジックバックから、トゥナが使っていた折れた剣と欠けた剣を取り出す。
 この剣を、元の状態に直すことはもう叶わないが……。──材料には、この折れた剣と曲がった剣を一度溶かして、鉄塊にしてこれを素材として使うか。

 外部の刃の部分は、トゥナが長年使っていた固い素材を。中心部分には柔軟性がありそうな曲がった剣が素材になる予定だ。

 こうすることで細くても折れにくく、曲がりにくい物に仕上がる。造込みと呼ばれる技術だ。
 本来この手法は基本的に刀に使うことが多く西洋剣に用いられることは少ないが……。しかし、俺が培った技術で最善のものを作るとすれば、この行程は絶対に外せない。

 火のついている火炉かろふいごを使い、空気を送り込み、炭をくべの作業を繰り返すと。火炉かろ内の温度が徐々に上がっていく。──周囲の水分が蒸発していくのが分かるな。懐かしい感覚だ……肌がピリピリしてきた。まるで体が焼けている様だ……この部屋の空気が乾燥するのが感じ取れる。

 この世界に来て初の鍛冶だ……。しかも、失敗できないときたもんだ。
 緊張と室内の熱気の為か、汗がしたたり落ちる。そしてそれは、地面に触れたと同時に蒸発して消えていった……。

 俺は睨み付けるように火炉内の立ち昇る炎を見続ける……温度は低すぎると叩けず、逆に高すぎると柔らかくなって金属が脆くなってしまう……。

 二種の素材を赤熱せきねつするまで熱し溶かしてまとめた。二種の金属をまとめた卸鉄おろしがねを作る。
 さらに火炉かろを用いてソレを加熱し槌で薄くのばし準備していた水につけた。

 赤熱された卸鉄は水に入れると、水分が一気に沸騰する音と共に、付け込んだ水の水分を蒸気へと変えていく……。そして、乾燥した部屋に溶け込んでいった。

 冷やした卸鉄を砕き、いくつかのパーツに分ける。断面、割れた感触などを参考にし選別を行う……。
 硬い卸鉄がトゥナの長年使っていた剣の物、粘りがある鉄が、トゥナがロック鳥戦で使っていた、市販の鉄の剣から抽出されたものだ。

 ここまで作業を行い「ふぅ~」と一息つきながら、ふいに隣を見るとドワーフのおっさんと目が合った……。

「なかなか手際がいいじゃねぇか……。だが、もうバテちまったのか? 口ほどにもねぇな! さっさと続きをやるぞ! 時間が勿体ない!」

 嫌味の様な発言の後、俺と視線を逸らすかのようにそっぽを向くドワーフのおっさん……。──カチンっときたぞ……!
 
「──上等じゃねぇか! しかと見とけよ!」

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