異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル

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第一章 グローリア大陸編

第28話 傍観

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 盗賊との戦闘はトゥナに任せて、今回は馬車とハーモニーの身辺警護、後は馬車の修理が俺の仕事になるかな?

 俺は悩むような仕草をしながら周囲を見渡した。──周りに程よい木がないかな……。生い茂っている木々を切って使ってもいいんだけど水分が多すぎて加工や実用性にかける。大きさも変わるし、変形の可能性もあるからな。
 
 林道を外れた森の中に、倒れている大木があるな? アレなんか使えるんじゃないか。

 キャンプで薪を作るために使っているなたをマジックバックから出し、大木の枝を切り中身を確認していく。──うん……。中が空洞くうどうですっからかんだ……これじゃだめだな。

「オイオイ! 偉いべっぴんさんの嬢ちゃんが、一人で出てきたじゃねえか!」

 親分と呼ばれていた男の声がしてそちらを振り返ってみると、盗賊たちは馬を降りトゥナを囲むようにして何か言っているようだな……。

 親分は「何だ? 嬢ちゃんが俺らの相手してくれるのかい?」と言いながらまるで大根役者の様な笑い声をあげた。
 それにつられるように、周りの男達もわざとらしく笑い出す。──なんて言うか……台詞の割に迫力が足りないな。

 興味を無くし自分の仕事を優先することに……。──お? あの木なんて比較的良さそうだ。まぁ、緊急時の繋ぎとしてなら十分かな? もって戻ろうか。

 一応俺は、トゥナと盗賊の様子を赤く光った瞳ごしに見ながら、木を引きずって馬車に戻る。

「トゥナさん……大丈夫ですか~? 男達に囲まれてますよぉ~?」と、馬車の荷台からハーモニーが心配しているが……。──まぁ、それが普通の反応だよな? 

 そんな事を考えながら木を大まかなサイズで切っていく。楔なんかはガタがあったら抜けちゃうからな。大き目に切らないと。

「カナデも協力しないのカナ? トゥナん危ないカナ……」

 どうやらミコも心配しているようだな。彼女達はステータスが見えないし、心配して当然か?

 チョイチョイっと先ほど確認したが、親分は普通男性の平均並み……。残りの四人に関しては、この前のファーマの坊主の方が強いぐらいじゃないか?

「大丈夫、何にも心配ないよ。トゥナの方が強いから」

 周りは心配しているようだが、俺は彼女がピンチにおちいるまでは、このスタンスを崩す気はない。
 彼女が納得している以上、無用な手出しも失礼だしな……。

 下っ端盗賊達は次々と武器を抜き、トゥナを威嚇しているようだけど……。──得物が農具って……しかもよく見たら、生まれたばかりの小鹿みたいに足が震えてないか?

「オイ、お前らは手を出すんじゃねぇ。俺が遊んでからだ!」と、親分は前に出ながら、下品に舌なめずりをした。

 おいおい……。トゥナは大丈夫だろうか? あの実力差のわからないバカを、俺が打った剣で刺し殺さないよな? 人間のスプラッターなんて見たくないぞ?

「カナデさん~カナデさん~」と言いながら、ハーモニーが俺の服の袖を掴まえる。

「ん? なんだ?」

「これって……普通~担当逆なんじゃないんですか~? 最前線は男性の方がするイメージが~……」

 なるほど……言いたいことはよく分かる。よく分かるんだけど……。

「よそはよそ、うちはうちなんで」

 どこかの家庭のオカンの様な説明でハーモニーを納得絶句させることに成功した。どうだ? 見事なものだろう。

「カナデ最低カナ……」

 冷たい言葉を俺に投げかけるミコ……。──今まで見てこられてるから文句いいずらいけど、露骨に辛辣しんらつな態度が増えたな? 否定しにくい事実ばかりだけど。

 しかし、上下関係はハッキリしておこう、後でマジックバックに詰めたまま、グルグルの刑だ。

「一対一……。決闘ですか? 盗賊にしては殊勝しゅしょうな心がけですね」

 彼女の様子をうかがうに、今回のトゥナはまだ冷静そうだ。──よかったスプラッタは逃れそうだ……。

「女が、冒険者や騎士の真似事なんてするから痛い目見るんだぜ? ただ俺様は寛大だ。食料を置いていけば今なら見逃してやる! 歯向かえば……分かってるよな? その体に思い知らせることになるぜ? ヒッヒッヒ」

 彼のその一言を聞き、トゥナの表情は明らかに険しいものへと変わった。

 どうやらあの盗賊の親方さん、貧弱なステータスのくせに、見事なまでのフラグ回収力を持ち合わせているようだ。
 俺は作業の手を止め、彼の冥福を祈るように合掌をした。

 トゥナはいつ攻められてもいいように、半身にレーヴァテインを構え臨戦態勢をとった。

「ば、バカなやつめ! 余程死にたいようだな!」

 盗賊の親分も腰から剣を引き抜く……。形状を見ると幅はそこまでは広くないが全体的に湾曲している片刃、タルワールのような感じだな……。

 レイピア対タルワール。

 使い手の実力、武器の性能はともかく、国を越えた武器のぶつかり合い……まるでゲームの中の世界のようじゃないか!
 これは、刀鍛冶として見逃せない展開になってきたな……。

 楔も大体作り終わったし、少し真剣に観賞……もとい、護衛をしようか!

「お、親方! やっちまってくださいでヤンス!」

「え、え~っと。あ、後で、うちらにも遊ばせてくださいッス!」

 盗賊の子分達から聞こえる下手くそなヤジが全くもって鬱陶うっとうしいな……。まぁでも、俺も不謹慎だがこの対決、楽しみで仕方ない。

 邪な意味ではなく、自分が打った剣が本来の用途、戦闘で使われるわけだ。
 鍛冶職としてテンションが上がらないわけがない……! かといって、それで怪我人が出るのもヨシとしないが……。あぁ~! 複雑だ!

 そんな事を考えていると、盗賊の親分が動き出した。
 ただ真っ直ぐにトゥナに向かって走っていき、上段からタルワールを振りかぶった。──あんなモーションのデカイ一撃、誰が当たるんだよ? 簡単に避けれるぞ……。

 ──しかしその俺の考えに反し、ガキンッ! と大きな音を鳴らしながらも、トゥナはレーヴァテインの刃の根本で盗賊の一撃を受け止めた。

「どうしたよ? 嬢ちゃん! そんな非力じゃー全然楽しめないぜ?」

 盗賊はそのまま鍔迫り合いに持ち込み、力任せにトゥナを押し込んだ。──剣道などではよく見る光景だけど……実戦でもなるものなのか…?

 能力を見ても力だけは、盗賊に多少だが分がある……。わざわざトゥナが、このような状況に持ち込んだ意図がわからなな……。もしかしたら、引き面のような技に移るのだろうか……?

 そんな事を考えた次の瞬間、トゥナはレーヴァテインを持つ手をクルンっと捻り、相手の刃を曲線鍔スウェプトヒルトの部分で絡めるようにして、それと同時に勢いよくバックステップをした。

 盗賊はトゥナの急激な動きの変化に対応できず、目の前につんのめり転びそうになり、その瞬間、タルワールが宙を舞う。

 何とか転倒を堪え、トゥナに向き直るが、いち早く動いていたトゥナに足払いをされ、盗賊は勢いよく尻餅をついたのだ……。──お、お見事……。

「はい、これで勝負ありね」と、トゥナは手に持っているレーヴァテインを盗賊の親分にに向かって突き刺した……。

「「お、親分!」」
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