異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル

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第一章 グローリア大陸編

第78話 賛美と木箱

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 木製のベットの上に座り、ハーモニーとミコと一緒に二人の帰りを待ちながら駄弁だべっていた。
 すると、木造の床が軋む音がし部屋のドアが開かれた。

 入ってきたのは言うまでもない。満面な笑みのトゥナと、何故か落ち込んだ様子のティアだ。

「ただいま。カナデ君、今戻ったわ。どう? 起き上がっても大丈夫そうなの?」

「あぁ、おかえり。全然平気だよ、走り回っても問題ない」

 そう言いながら俺はベットから降り、その場で立ってピョンピョン跳ねてみせた。

「それなら、ちょうどよかったです。今し方、ギルドの方に船の出港準備が出来てる、カナデ様の容態はどうだ? っと催促の連絡がありました。カナデ様が船に乗るのを待ってくれてるのですよ?」

「ふふふ、カナデさんが頑張ったことが評価されてるんですよ~? 所で、何でティアさんはそんな浮かない顔をしてるんですか~?」

 それは俺も思っていた。
 今後、堂々とトゥナと一緒に入れるから喜びそうなものだけど……。まさか! また厄介事じゃないだろうな?

「それがですね……事情説明の為に、ギルド本部連絡を入れたんですよ。お前の本業は何だ! 忘れてるんじゃないよな!? って、カナデ様のせいで無茶苦茶怒られましたよ!」

 あ~なるほど、そりゃそうだよな。

 本業がギルド職員であって、トゥナのストーカーは言わば副業。
 本業を疎かにして、副業優先したらそりゃ怒られるわ……お気の毒に。

 でも組織って、多少偉い人が一人抜けても意外と普通に回るもんなんだよ。
 むしろ、一人が居なくて回らない企業はもう崖っぷちだよな。

「だから気にすんな」

「──何が、だからですか! 脳内で私はどんな励ましを受けてるんですか!」

 あれ? 声が漏れてたかな。
 それしても、これ程取り乱すティアは珍しな……かなりこってりやられたようだ。

「そんな顔してますけど、減給も受けたんですよ? この前の馬車の返却依頼も給料から差っ引かれてるんですからね! 聞いてますか? カナデ様!」

 そう言いながらも俺に詰め寄るティア。──顔、顔近いから!
 折角気を使ったつもりなのに……さっきから文句ばかりだな?

「じゃぁティアさんは、俺の申し出は嫌だった訳ですね?」

 俺の発言でティアは注目の的になる。
 周りもメンバーも、彼女の発言を食い入るようにして見守る。

「い、嫌な訳ないです……。何だかんだ、カナデ様には感謝しっぱなしですよ?」

 照れながら言う彼女に、皆で温かい視線を送る。それに耐えられず両手で顔を覆い「そんな目でみないでください!」っとティアは懇願こんがんした。

  何はともあれ、無事にエルピスに新たな仲間も加わった事だ。 早速、リベラティオ国に向かう為、船に向かうか!

「じゃぁ丸く収まった事だし、船に向かって出発だ!」

 俺の掛け声に皆が「おぉ~!」っと手をあげる。──やっと……やっとこの国から出ることが出来る! これで意味のわからない指名手配ともおさらばな訳だ!

 部屋をでると、目の前にはギルドのカウンターがあり、その奥には多くの職員と冒険者が目の前にいた。
 どうやら、俺が運ばれていたのは、ギルドの医療室だったみたいだ。

 廊下を進み、カウンターの横からギルドのロビーに出ると「おい! あれって!」「間違いない……彼だよ!」っとギルドが騒然そうぜんとした。

 そんな中、俺達の道を塞ぐように一人のギルド職員が現れた。
 そして彼は「この町を救っていただき、誠にありがとうございました!」っと深々と頭を下げたのだ……。

 彼の感謝の言葉に、周りの職員……冒険者までもが次々と頭を下げて行く。
 皆が「ありがとうございました!」っと口々にお礼の言葉を述べていった。

 ──こ……これは一体どう言う事なんだ?

  うろたえる俺の背中を、うちの集団クランメンバーが無理やり押して、俺を歩かせる。

「彼が、今回港を守った立役者ですよ!」

「自らをかえりみず、体を張って港を守ったんですよ~」

「名実共に、この港の英雄様です。道を開けてください、お通りになりますよ」

 コ……コイツら俺を売りやがった!
 そろいも揃って俺を盾に使いやがったな?

 俺の背中からは、三人の嬉しそうな笑い声がした……。
 別にこの港を守りたいから頑張った訳では無いのだが。

 あ~くそう! こんな風に、大勢に感謝さるなんて地球でも当然未経験だから、恥ずかしさと気まずさで顔が熱をもっちまう……。
 
 ギルドにいる人々が「オォォォ!」っと声を上げ花道を作り出す。
 俺達エルピスは、ソコを通りギルドの外へと向かって行く。
 英雄と呼ばれもてはやさたり、触れようとしてくる冒険者もいた。──恥ずかしいが……たまにはこんなのも粋……かな?

 俺達が外に出ると、ギルドスタッフがドアを閉めギルドの出口を封鎖した。
 その為か、流石に外までは追って来る者も居なかった。
 嫌な気分では無いが……普通俺を前面に押し出して、強行突破するか? トゥナやティアの方が、人前に出るのは絶対に慣れてるだろ?

 三人は俺の前に回り込み、顔を覗いてきた。

「どう? カナデ君。これは全部、カナデ君が頑張った結果よ?」

「そうですカナデ様、貴方は町一つ守ったのですよ? それは誰にも出来ることでは無いのですから……もっと堂々としてくださいね!」

「カナデさん、本当の英雄みたいでしたよ? 似合わないですけど集団クランのメンバーである私達も鼻が高いです~」

 どうやら、彼女達は俺をおだてて、先ほどの事をうやむやにしようとしている様だ?──確かに嬉しいが……面白くはないな。

「そもそも、今回の件で褒められるべきは、俺だけじゃないだろ? 皆で頑張ったっ結果な訳だし、お前らも同じぐらい賞賛しょうさんされるべきだろ!」

 嬉しい反面、そこだけが納得いかなかった!
 今回の事がどう伝わっているのか分からないが、どうせ言われるなら均等に英雄達がいい──皆で苦労したんだから、恥ずかしさも人数分するべきだろ?

「カナデ様、何に怒ってるんですか? こう言った時に、リーダーが特に賛美さんびされるのは当たり前ですよ? それより、船が見えて……カナデ様! 隠れてください!」

 ティアはそう言葉にすると、思いっきり建物の影に俺を追いやったのだ。

「──グフッ!」

 偶然にもそこにあった、木製の入れ物の角が、俺のみぞおちに強打する。
 先ほどのハーモニーの頭突きと同じ場所……激しい痛みに、ちょっと泣きそうになった。

「──ティア、何する……ング!」

 苦情を言う為に開かれた口を、トゥナが手で塞ぎ俺の耳元で「静かに!」っと声をかける。──い、息が耳に……。

 俺達は建物の影から船を覗き込むと、そこにはグローリア国の兵が船に乗る人間の検問を行っていたのだった……。

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