104 / 469
第二章 海上編─オールアウト号─
第92話 レクス・オクトパス 上
しおりを挟む
ここからじゃ、状況の確認が出来ないな……。
先ほどの揺れの感じからするに、船尾の方で何かあったのか? 船の速度も、明らかに落ちている。
「船に取りつかれたのかもしれないわ、船上なら私達も協力できることがあるかもしれないわね」
確かにトゥナの言う通り、自分達の命が掛かっている以上、知らないふりって訳にもいかないか……。
「あぁ、もう! 行きたくないけど様子見にいくぞ!」
ヤケになった様に上げる掛け声と共に、皆で船長のいる場まで移動を始めた。
しかしこの時は、この判断があんな凄惨な事件の引き金になるとは、誰も想像することはできなかった──。
俺達は甲板に上がり、船尾に向かった。
そこにはすでに、船長と複数人の船員がいる。
表情が曇っている……彼らの様子を見る限り、余り状況が良くなさそうだな……。
「──船長様! すごい衝撃がしましたけど、状況はどうなのでしょうか?」
ティアの質問に、親指を立て「非常に不味いな、このままだと……」それだけ言うと船の後ろを指さした。──見て見ろって事なのか?
──うぉ! で、でかいな。
船の裏を見ると、レクス・オクトパスの足のうちの一本の吸盤が、船の後部に辛うじて張り付いている状態だ。
そのさらに奥には、巨大な赤い物体が一定距離を保ち、水面に引きずられている。──やっぱり、減速の理由はこれか。
船員たちはレクス・オクトパスに向かい、交代交代で随時バリスタで撃ってはいるものの、奴は船から離れる素振りが見えない。
「今は水中を引きずってる様な状態だが、何とか引き離さないとこの船に取りつかれるのも時間の問題だな……どうしたものか」
この船で一番強力な武器がバリスタなのだろう。
船長はこの状況に頭を悩ませている様だ。──これはまた、絶望的な状況だな。
足一本でも、タコの吸盤の力なら簡単には剥がれないだろう。
しかも、あのサイズのタコ、吸盤もかなり強力なはずだ。
「──あの~? カナデさんなら、あの足を切ることが出来るんじゃないですか~?」
ハーモニーの何気ない一言で、俺に注目が集まった。
一瞬、彼女の発言の意味が理解できなかった。
足を斬るって事は、つまりここから奴の足が付いてる船の最下部まで降りないと行けないって事だよな? しかもこの大雨の中外から……。
「──っておい! 飛び降りて斬ってこいって言うのかよ、流石に死ぬわ!」
彼女の言う通り、確かに斬って斬れない事はないと思う。
じいちゃんの無銘なら、タコ足ぐらいスッパスパだろう。
でも流石に、周りのために自分が死ぬ勇気はない。それは勇猛とは言わない、ただの無謀だ。
「い、いえ。死んでこいって言ってる訳じゃないですよ! ロープとかで落ちないように縛って飛び降りてですね?」
な、なるほど……。バンジージャンプみたいにって事か。
……ん? 船の上に人の体重を支えれるほどの、ゴムの様なロープなんてあるのか? もしかして普通のロープを言ってるか?
「いやいや……この高さから普通のロープで飛び降りてみろよ。関節おかしくなるか、骨が折れるわ!」
下を覗くと、日本の建物で言う所の軽く二、三階程の高さがある。
この高さから自由落下で飛び降りるとしよう……。
体に固定したロープの命綱、一本で飛び降りるのを想像してもらえばわかると思う。
縛ったところに一気に衝撃が掛かり、洒落にならない事になるだろ!
「そ、それなら、上からゆっくり下ろすのはどうですか~?」
「それも良くないな。風に煽られて、縛られたところにかなりの負担が掛かるはずだ。長時間は危険な上に、レクス・オクトパスの足の上に下ろすのも困難だろう。そして何より、彼が奴に捕まる可能性も考えられる」
俺達の会話に、まさかの船長の助け船が出た。──船長だけに助け船……って言ってる場合じゃないか!
話は平行線のまま先に進まない。
俺達が悩んでいる最中も、バリスタでの攻撃は続いているが……これと言った効果は見られない。
しかしその最中、レクス・オクトパスは自身の足に、他の足を絡めるようにしながら、徐々に船へと足を近づける。
くそ! それなら水圧の中でも足が流されず、接近できるわけだ! タコって頭もいいのかよ!
「あのね? ……ううん、やっぱり何でもないわ」
トゥナはハッとした表情をすると、その後すぐに表情を曇らせ口を噤む。──何かしら考えがあったのだろうか?
「トゥナ、今は少しでも対策になるアイデアが欲しい! 思いついたなら何でもいい、教えてくれ!」
解決策のない暗い雰囲気中「もしかして、なんだけど」と、トゥナの口が開かれた。──奴が近づいてくる! 対策も時間も無さそうだ……彼女の案にすがるしか。
「──カナデ君、空飛べたりしないかしら?」
ハーモニーの次は、トゥナの口からとんでも発言が飛び出した。
どうやら彼女達の俺に対する信頼は、とうとう人間離れ扱いするところまで来てしまったらしい。
「あのな、トゥナ。確かに俺はこの世界の人間では無いかもしれないが、それでも普通の人間なんだぞ?」
俺は頭を抱えため息をついた。言うまでもないトゥナの真似だ。
「えっとね、そうじゃなくて……あれとか使えないかしら?」
彼女の発言を聞き、トゥナの指差す方を見た。──あれ? 雨のせいかな……ちょっと目が霞んで見えないぞ?
先ほどの揺れの感じからするに、船尾の方で何かあったのか? 船の速度も、明らかに落ちている。
「船に取りつかれたのかもしれないわ、船上なら私達も協力できることがあるかもしれないわね」
確かにトゥナの言う通り、自分達の命が掛かっている以上、知らないふりって訳にもいかないか……。
「あぁ、もう! 行きたくないけど様子見にいくぞ!」
ヤケになった様に上げる掛け声と共に、皆で船長のいる場まで移動を始めた。
しかしこの時は、この判断があんな凄惨な事件の引き金になるとは、誰も想像することはできなかった──。
俺達は甲板に上がり、船尾に向かった。
そこにはすでに、船長と複数人の船員がいる。
表情が曇っている……彼らの様子を見る限り、余り状況が良くなさそうだな……。
「──船長様! すごい衝撃がしましたけど、状況はどうなのでしょうか?」
ティアの質問に、親指を立て「非常に不味いな、このままだと……」それだけ言うと船の後ろを指さした。──見て見ろって事なのか?
──うぉ! で、でかいな。
船の裏を見ると、レクス・オクトパスの足のうちの一本の吸盤が、船の後部に辛うじて張り付いている状態だ。
そのさらに奥には、巨大な赤い物体が一定距離を保ち、水面に引きずられている。──やっぱり、減速の理由はこれか。
船員たちはレクス・オクトパスに向かい、交代交代で随時バリスタで撃ってはいるものの、奴は船から離れる素振りが見えない。
「今は水中を引きずってる様な状態だが、何とか引き離さないとこの船に取りつかれるのも時間の問題だな……どうしたものか」
この船で一番強力な武器がバリスタなのだろう。
船長はこの状況に頭を悩ませている様だ。──これはまた、絶望的な状況だな。
足一本でも、タコの吸盤の力なら簡単には剥がれないだろう。
しかも、あのサイズのタコ、吸盤もかなり強力なはずだ。
「──あの~? カナデさんなら、あの足を切ることが出来るんじゃないですか~?」
ハーモニーの何気ない一言で、俺に注目が集まった。
一瞬、彼女の発言の意味が理解できなかった。
足を斬るって事は、つまりここから奴の足が付いてる船の最下部まで降りないと行けないって事だよな? しかもこの大雨の中外から……。
「──っておい! 飛び降りて斬ってこいって言うのかよ、流石に死ぬわ!」
彼女の言う通り、確かに斬って斬れない事はないと思う。
じいちゃんの無銘なら、タコ足ぐらいスッパスパだろう。
でも流石に、周りのために自分が死ぬ勇気はない。それは勇猛とは言わない、ただの無謀だ。
「い、いえ。死んでこいって言ってる訳じゃないですよ! ロープとかで落ちないように縛って飛び降りてですね?」
な、なるほど……。バンジージャンプみたいにって事か。
……ん? 船の上に人の体重を支えれるほどの、ゴムの様なロープなんてあるのか? もしかして普通のロープを言ってるか?
「いやいや……この高さから普通のロープで飛び降りてみろよ。関節おかしくなるか、骨が折れるわ!」
下を覗くと、日本の建物で言う所の軽く二、三階程の高さがある。
この高さから自由落下で飛び降りるとしよう……。
体に固定したロープの命綱、一本で飛び降りるのを想像してもらえばわかると思う。
縛ったところに一気に衝撃が掛かり、洒落にならない事になるだろ!
「そ、それなら、上からゆっくり下ろすのはどうですか~?」
「それも良くないな。風に煽られて、縛られたところにかなりの負担が掛かるはずだ。長時間は危険な上に、レクス・オクトパスの足の上に下ろすのも困難だろう。そして何より、彼が奴に捕まる可能性も考えられる」
俺達の会話に、まさかの船長の助け船が出た。──船長だけに助け船……って言ってる場合じゃないか!
話は平行線のまま先に進まない。
俺達が悩んでいる最中も、バリスタでの攻撃は続いているが……これと言った効果は見られない。
しかしその最中、レクス・オクトパスは自身の足に、他の足を絡めるようにしながら、徐々に船へと足を近づける。
くそ! それなら水圧の中でも足が流されず、接近できるわけだ! タコって頭もいいのかよ!
「あのね? ……ううん、やっぱり何でもないわ」
トゥナはハッとした表情をすると、その後すぐに表情を曇らせ口を噤む。──何かしら考えがあったのだろうか?
「トゥナ、今は少しでも対策になるアイデアが欲しい! 思いついたなら何でもいい、教えてくれ!」
解決策のない暗い雰囲気中「もしかして、なんだけど」と、トゥナの口が開かれた。──奴が近づいてくる! 対策も時間も無さそうだ……彼女の案にすがるしか。
「──カナデ君、空飛べたりしないかしら?」
ハーモニーの次は、トゥナの口からとんでも発言が飛び出した。
どうやら彼女達の俺に対する信頼は、とうとう人間離れ扱いするところまで来てしまったらしい。
「あのな、トゥナ。確かに俺はこの世界の人間では無いかもしれないが、それでも普通の人間なんだぞ?」
俺は頭を抱えため息をついた。言うまでもないトゥナの真似だ。
「えっとね、そうじゃなくて……あれとか使えないかしら?」
彼女の発言を聞き、トゥナの指差す方を見た。──あれ? 雨のせいかな……ちょっと目が霞んで見えないぞ?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる