異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル

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第三章 リベラティオへの旅路

第137話 同時刻 鋳造

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「──初めてですが本日は、よろしくお願いします」

 朝早くからハーモニー用の武器を作るべく、ルームとそのお母さんと共に鋳造技術を活用し、今から【ジャマダハル】の刀身部分を作らせて頂く。

「あらあら? 初めてなのかしら……? 大丈夫ですよ? 心配しなくても……私達に任せて欲しいかしら?」

「そうやで兄さん。あんま力入れはると、直ぐにバテてんで? 力抜き~や」

 そんなこと言われても、今日はこの作業をとても楽しみにしていたんだよ。
 力むなって言う方が無理な話だろ?

「あらかた準備わ終わってるかしら……。カナデさん? それでは早速ここに触れてもらっていいかしら?」

 ルームの母は、粘土を固めたような物で作られた鋳型を取り出した。──残念だ、本当はこれから作ってみたかったんだが……。

「こ……こうですか?」

 事前に受けていた説明に従い、寝かせてある鋳型を起こし、溶けた鉄が入れやすいように専用の台に縦向きに乗せた。

「あかんあかん! もっと優しくしな。なんでも初めが大事なんやで? そうそう……兄さん上手やで……その調子や……」

 ルームの指摘に内心あせるものの、少しずつ鋳型が倒れないよう、台と鋳型の間に詰め物をしていく……。──溶けた鉄をいれてる最中に、倒れないようにしなければ……。

「ど……どうですか? これぐらいで……」

 炉に火が入っている室内での作業のためか、もしくは緊張のせいかもしれない。
 目に入る汗を拭いながらも確認をとった。

「もう……慌てないのかしら。ほら……ここがまだかしら?」

「す、すみません!」

 確かに少し緩いな……グラついている。早く次の行程に行きたいための焦りが出てしまったようだ。

「兄さんこっちもやで……忘れたらあかんよ? しっかり奥まで……そうや! 上手やないか~」

 ルームの指示でさらに反対側もしっかりと……。
 よし、これで完璧だろう。

 二人の顔を見ると、彼女達は満足げな笑顔で頷いた。──よかった、どうやらおが眼鏡にかなったようだ。

「それじゃ~次は温めるかしら……? カナデさんの手で、一番奥までいれて欲しいかしら?」

 事前に俺が使う分の金属を、耐火素材で作られている入れ物に入れてくれてある。何から何まで、至れり尽くせりだな……。

 炉は熱く、当然素手では触れない。その為俺は、火箸巧みに使い扉をつかんだ。

「ん……開くのはこんな感じで……? うわ……こんなに熱くなるんですね……? なんかドキドキしてきました……」

 炉の扉を横にずらし、金属の投入口から中を覗き混む。
 ほとばしる炎は、赤と言うよりは、白く輝きを見、せ同時に激しい熱気が炉の投入口から俺の肌を焼く……。──これは、テンションが上がってきたぞ!

「さぁ、奥に入れるかしら……?」

「は、はい……」

 俺は、火箸を巧みに使い金属の入った入れ物を、炉の奥へと入れた……。

 確か、鉄の融点は純鉄で1538度。

 炭を使うと600程から1000度、コークスは2200度まで温度を上げることが出来ると、何処かで聞いたことがある。
 そして空気を送り込むことで、それ以上にも……。
 
 耐火煉瓦を用いた専用の炉に、ふいごを使いどんどん空気を送り温度を上げていく。
 立ち上る炎が、まるで銀色に輝いて見えるようだ……。
 炉内の温度が上がっている証拠なんだよな。

 この反射炉は熱を発する燃焼室と、金属が置かれている炉床が別となっている。
 ただ今回、俺が使うぶんは極少量のみ。
 その為炉床ではなく、直接燃焼室に入れているわけだ。

 手をちょいちょいと動かし、ルームが俺を呼んでいる。
 鞴を扱う手を休めて、彼女の隣までいくとルームが炉の小窓を指差した。

「凄い……こんなにもトロトロになるんですね……」

 その中では、自分の作業とは別に彼女達が仕事で使うぶんの金属が、炉床に置かれていたはずだ。
 でもそこに見えるのは、まるで溶岩の様に煮えたぎっている、液状化した赤く輝く金属の姿であった。

 刀鍛冶では形状が無くなるまで熱することはない。
 だからこの光景は俺も始めてみる……感無量だ!

「そうやで……まぁ、もうそろそろいいんちゃうか?」

 俺は火箸で燃えさかる炎の中、入れ物をつかんだ。

「じゃぁ、ゆっくり引き抜いて……ここからが本番かしら?」

 彼女の指示にしたがい炉の手前へと引きずって来る。

「そうやで! ウチが手伝ってやるさかい。そろそろ入れようか?」

 ルームは、俺が炉から引き抜いた金属の入った入れ物を、対面に立ち別の火箸で掴んだ。
 そしてルームの母は、入れ物をいつでも取れるよう火箸を構える。

「それじゃぁ~せーのでいれるさかい。準備はええか?」

 さぁ、今から溶けた鉄を鋳型に流し込む作業だ……緊張するな!

 ──その時だ 、突然鍛冶屋の自動ドアが開き「──だめぇぇぇ!」と、声をあげながら誰かが部屋に飛び込んできたのだ。
 あまりにも突然の出来事で、自然と視線がその人物に吸い寄せられたのだが……。

「──って! ハーモニーか!?」
 
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