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第三章 リベラティオへの旅路
第173話 匂い
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「雨が……降ってきたな?」
俺達は、マールのギルドで受けた調査任務をかね、ラクリマ村に向かっている最中だ。
ギルド間で取られていた定期連絡が今は途絶え、音信不通になっているらしい……。──面倒事にならなければ良いのだが。
「もう少しで到着するはずですが……。ついてないですね、ハーモニー様は大丈夫でしょうか。体を冷やされていないなければいいのですが……」
「そうだよな。御者席で雨ざらしだしな……」
温かい気候とは言え、濡れれば体温は奪われる。確かにハーモニーにとって、雨の中での移動は酷かもしれないな。
「──そんなこともあろうと、作っておいたで!」
そう言葉にしたルームは、何処からともなく白い外套を取り出した。
「えっと……それは?」
「ウチが作ったアイテムや。マジックアイテムや無いけど、ワイバーンの皮膜で作った雨よけの外套やね。コイツは水を通さへんからな」
なるほど、異世界版のカッパみたいなものか? それより気になることが……。
「所で……二枚あるように見えるんだけど」
こっれはつまり、そう言う事なのだろうか? まさかな……。
「兄さん察し悪いな! まさか雨ん中、あんな幼女一人で御者させる気かいな! 可哀相や……可哀想やわ!」
ルームの発言で、みんなの視線が俺に集まった。──幼女って、本人に聞かれでもしたら無茶苦茶怒られるぞ?
「分かった、分かったからそんな目で見ないでくれ。喜んで行かせて貰うよ……」
雨に打たれたい訳じゃないけど、確かにハーモニーだけを雨ざらしというのは紳士として放っておけないな。
『カナデのどの口がソレを言うカナ……。本音は、みんなの視線に耐えかねてだってモロ分かりカナ』
──ミコ、今はそっちにいたのかよ!
今日も格好がつかないまま幌を捲り、御者席に乗り移る。
今は微雨の様だが、空を見上げると今にも落ちてきそうな重い色の雨雲が見えた。──これは、近いうちに強く降るだろうな……。
「カナデさん~! 雨が降ってるから、中に入っていて下さい。風邪を引いてしまいますよ~?」
ハーモニーが俺が出てきたことに気づいたのか、中に入るように進めてきた。──お言葉に甘えたいところだけど、ここまで出てきて戻ることもできないだろ? よけい格好つかないしな。
「いいんだよ。ハーモニーこそ女の子なんだから、ほら手綱貸せよ? 何なら町に着くまで、中で休憩しててもいいんだぜ?」
俺は、そう言いながらハーモニーの隣に座った。──少し見栄を張ってしまったが、正直一人だとちょっと不安だぞ……。
「そう言う訳にも行きませんよ~? これは私のお仕事ですからね、いくらカナデさんのお願いでも、譲ることは出来ません!」
確かに御者は、メンバーの中ではハーモニーが一番上手いしな。
もしかしたら、その事に誇りを持ってるのかもしれない……助かった。
「じゃぁこれ着ろよ、雨を通さないんだってよ。ルームが作ってくれたんだぞ」
俺はそう言いながら、自分が身に付けているカッパ擬きのサイズ違いを、ハーモニーにも手渡した。
それを受け取ったハーモニーの顔が、何故か緩んでいくように見えた。
「ふふっ、こ…が巷で…う所…、ペ……ックで…か~」
「なんか言ったか? 雨風が強くなってきて聞こえなかったんだけど!」
つい先ほどまでパラパラ程度の雨だったが、徐々に強さを増し、風まで出てきている。
それなのに、ハーモニーの表情はコロコロと変わって、今では緩みきっているようにも見える。──やっぱり、一人で寂しかったのか?
「べ、別に! 何でもありませんよ。それよりカナデさんは、どうしてそれを着てるんですか~?」
「気を使ってもらって悪いけど、俺もここに残るからだよ。この天気じゃハーモニーが心配だからな?」
俺の発言にメスコーンから「ヒヒーン」と……おそらく苦情だと思われる声が聞こえた。
しかしそれは、とてもにこやかなハーモニーが、ユグドラシルを抜くことにより沈静化に成功した。──や、役に立ってるようで何よりだ……。
「気を使って貰ってありがとうございます。でも、ラクリマまでは本当、目と鼻の先ですよ~?」
そうなのかよ! 濡れ損とは言わないけど……このタイミングで出てくるとか、ただのお節介みたいじゃないか。
まぁ、カッパを渡せたし、よしとするか?
「──ねぇ……カナデ君。何か、おかしくない?」
俺とハーモニーが話をしている中、荷台の幌から、生首の様に顔だけを出すトゥナの姿が。
「うぉビックリした! べ、別に。今回は何もおかしいことはしてないぞ! 脱いだりとか……見せつけたりとか……」
顔を出しているトゥナと、無銘の中にいるミコが同時に深い溜め息をついた……。──これはやらかしたやつか?
「何をいってるのよ、カナデ君。むしろハーモニーに何をしていたのか、余計に気になったわ……。私が言いたいのはそうじゃなくて、臭いよ。何か焦げ臭くない?」
「い、言われてみれば、臭わなくもないかもな……」
雨の中なのに、ほんのり何かが燃えた跡の様な臭いがしないことも……。
「風上はラクリマの方ですね。オスコーン、メスコーン急いでください~!」
ハーモニーが手綱を強く叩くと、ユニコーン達は車輪を激しく鳴らし、速度をあげラクリマ村に向かった。
俺達は、マールのギルドで受けた調査任務をかね、ラクリマ村に向かっている最中だ。
ギルド間で取られていた定期連絡が今は途絶え、音信不通になっているらしい……。──面倒事にならなければ良いのだが。
「もう少しで到着するはずですが……。ついてないですね、ハーモニー様は大丈夫でしょうか。体を冷やされていないなければいいのですが……」
「そうだよな。御者席で雨ざらしだしな……」
温かい気候とは言え、濡れれば体温は奪われる。確かにハーモニーにとって、雨の中での移動は酷かもしれないな。
「──そんなこともあろうと、作っておいたで!」
そう言葉にしたルームは、何処からともなく白い外套を取り出した。
「えっと……それは?」
「ウチが作ったアイテムや。マジックアイテムや無いけど、ワイバーンの皮膜で作った雨よけの外套やね。コイツは水を通さへんからな」
なるほど、異世界版のカッパみたいなものか? それより気になることが……。
「所で……二枚あるように見えるんだけど」
こっれはつまり、そう言う事なのだろうか? まさかな……。
「兄さん察し悪いな! まさか雨ん中、あんな幼女一人で御者させる気かいな! 可哀相や……可哀想やわ!」
ルームの発言で、みんなの視線が俺に集まった。──幼女って、本人に聞かれでもしたら無茶苦茶怒られるぞ?
「分かった、分かったからそんな目で見ないでくれ。喜んで行かせて貰うよ……」
雨に打たれたい訳じゃないけど、確かにハーモニーだけを雨ざらしというのは紳士として放っておけないな。
『カナデのどの口がソレを言うカナ……。本音は、みんなの視線に耐えかねてだってモロ分かりカナ』
──ミコ、今はそっちにいたのかよ!
今日も格好がつかないまま幌を捲り、御者席に乗り移る。
今は微雨の様だが、空を見上げると今にも落ちてきそうな重い色の雨雲が見えた。──これは、近いうちに強く降るだろうな……。
「カナデさん~! 雨が降ってるから、中に入っていて下さい。風邪を引いてしまいますよ~?」
ハーモニーが俺が出てきたことに気づいたのか、中に入るように進めてきた。──お言葉に甘えたいところだけど、ここまで出てきて戻ることもできないだろ? よけい格好つかないしな。
「いいんだよ。ハーモニーこそ女の子なんだから、ほら手綱貸せよ? 何なら町に着くまで、中で休憩しててもいいんだぜ?」
俺は、そう言いながらハーモニーの隣に座った。──少し見栄を張ってしまったが、正直一人だとちょっと不安だぞ……。
「そう言う訳にも行きませんよ~? これは私のお仕事ですからね、いくらカナデさんのお願いでも、譲ることは出来ません!」
確かに御者は、メンバーの中ではハーモニーが一番上手いしな。
もしかしたら、その事に誇りを持ってるのかもしれない……助かった。
「じゃぁこれ着ろよ、雨を通さないんだってよ。ルームが作ってくれたんだぞ」
俺はそう言いながら、自分が身に付けているカッパ擬きのサイズ違いを、ハーモニーにも手渡した。
それを受け取ったハーモニーの顔が、何故か緩んでいくように見えた。
「ふふっ、こ…が巷で…う所…、ペ……ックで…か~」
「なんか言ったか? 雨風が強くなってきて聞こえなかったんだけど!」
つい先ほどまでパラパラ程度の雨だったが、徐々に強さを増し、風まで出てきている。
それなのに、ハーモニーの表情はコロコロと変わって、今では緩みきっているようにも見える。──やっぱり、一人で寂しかったのか?
「べ、別に! 何でもありませんよ。それよりカナデさんは、どうしてそれを着てるんですか~?」
「気を使ってもらって悪いけど、俺もここに残るからだよ。この天気じゃハーモニーが心配だからな?」
俺の発言にメスコーンから「ヒヒーン」と……おそらく苦情だと思われる声が聞こえた。
しかしそれは、とてもにこやかなハーモニーが、ユグドラシルを抜くことにより沈静化に成功した。──や、役に立ってるようで何よりだ……。
「気を使って貰ってありがとうございます。でも、ラクリマまでは本当、目と鼻の先ですよ~?」
そうなのかよ! 濡れ損とは言わないけど……このタイミングで出てくるとか、ただのお節介みたいじゃないか。
まぁ、カッパを渡せたし、よしとするか?
「──ねぇ……カナデ君。何か、おかしくない?」
俺とハーモニーが話をしている中、荷台の幌から、生首の様に顔だけを出すトゥナの姿が。
「うぉビックリした! べ、別に。今回は何もおかしいことはしてないぞ! 脱いだりとか……見せつけたりとか……」
顔を出しているトゥナと、無銘の中にいるミコが同時に深い溜め息をついた……。──これはやらかしたやつか?
「何をいってるのよ、カナデ君。むしろハーモニーに何をしていたのか、余計に気になったわ……。私が言いたいのはそうじゃなくて、臭いよ。何か焦げ臭くない?」
「い、言われてみれば、臭わなくもないかもな……」
雨の中なのに、ほんのり何かが燃えた跡の様な臭いがしないことも……。
「風上はラクリマの方ですね。オスコーン、メスコーン急いでください~!」
ハーモニーが手綱を強く叩くと、ユニコーン達は車輪を激しく鳴らし、速度をあげラクリマ村に向かった。
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