異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル

文字の大きさ
193 / 469
第三章 リベラティオへの旅路

第181話 解決しない悩み

しおりを挟む
 和解を済ませた俺とミコは、今後も全員で冒険をしていきたい……そんな願いを皆に伝えた。
 勿論、反対するものは誰もいなく、先程の暗い雰囲気が嘘だったかのように、俺達は笑顔で満ち溢れていた。

 迷惑掛けた事を謝り、その後改めて馬車は歩みを進めた。
 そして俺は、ミコとの約束を守るため荷台に籠り頭を悩ませ続ける。
 
「う~ん……」

 今回、問題点は大きく二つ。

 魔物との戦闘による、シンシの怪我や命の心配。
 馬車での長距離移動による、シンシへの体に掛かる負担だ。

「戦闘に関しては、なるべく魔物に関わらないか、俺達が強くなるしか無いよな? 馬車移動も、かなり揺れるからな……本格的にサスペンションの採用考えるか?」

 何て言うか……雲をつかむような話だな。

 どれだけ強くなれば、すべての脅威から皆を守れるだろうか?

 馬車の改造にしてもそうだ。
 多少なりは効果はあるだろうが、そもそもこの世界は道が悪い。
 自動車のような、揺れの少ない乗り物にするのは無理だろうな。
 それに、馬車の改造をするとしても、俺とルームだけじゃ、人手も足りないし……。

 う~ん。明確に、成功のビジョンが浮かばない。

「なぁ~ルーム? 何か良い案はないか……って、ずっと大人しいけど、何を作ってるんだよ?」

「ん、これかいな? ほら、見ればわかるやろ?」

 ルームがそう言いながら得意気に出した物は、金属で出来た二つのリングだった。
 その一方には、なにやら紐が掛けられている。──こいつ……ミコ達の面倒全然見てないと思ったら何作ってんだよ。

「指輪……だよな? 新しいマジックアイテムか何かなのか?」

 俺の回答に「正解や!」と自慢げに指輪を近づけて見せる。

「まぁ基本は、普通のペアリングや。ただ、伝鳥の技術を応用した、少しだけ普通とは違うリングけどな?」

「ペアリングって……」

 一体誰に渡す気なんだよ……。
 大きさ的に、誰のためのかは察しがつくけど。

「シンシちゃんとミコちゃんが、もし離ればなれになっても心は繋がるように、この二つの指輪が見えない絆を作り上げるんや。魔力を通すとな? 細~い魔力の糸が、ず~っと繋がり合ってな? 例え切れても……直ぐに繋がるように様に……」

 すげぇ……一家にワンセットあれば、迷子の犬も、子供でさえも直ぐに発見できそう。
 って、そうじゃない!

「ルーム……」

「どうや? ロマンチックやろ?」

 ダメだこの子、自分の作品に完全に酔いしれてる。
 俺が頭を悩ませている問題と、真逆の物じゃないか? それ……。

「あのな。別れ離れにならない手段を、今俺達は考えてるんだよ……。話聞いてなかっただろ?」

「そ、そうなんか?」

 俺の言葉を聞き、明らかな同様を見せるルーム。──何でうちの奴らは人の話を聞かないかな……。

「で、でもほら! あげても無駄にはなりゃせんやろ?」

 確かに無駄にはならないけど。

 形ある物が、喜びや思い、絆や繋がりを強くすることもある。俺で言う所の、無銘に当たるものだな……。

「分かった分かった、さっさとあげてこい。そしたら、ちゃんと二人の面倒を見てくれよ? 」

「わ、分かった、あげてくるわ!」

 ルームは逃げるように、ハーモニーに任せっきりの二人の元に向かった。──戻って……こないな? やっとルームは面倒を見る気になったか。

 本当にアイツは、頼んだ仕事を休んでばかりだな?
 揺れない馬車が実現した日には、それこそ作ってばかりで言うこと聞かなくなるんじゃないか?

「それにしても、困ったぞ。結局解決しないままだ。だめだ、少し休憩して落ち着いてから改めて……──そうか、休憩か!」

 移動の負担は、休憩回数を増やしてまかなうって手もあるか?
 別に急いで移動してるわけでもないし。

 ただそうなると、安全面がどうしてもな……。
 移動の時間が延びれば、魔物との遭遇率が上がる可能性も考えられる。
 それこそ、檻でも作って戦闘時にはシンシを中に入れるか!? って流石にそれは無いな……。

「──皆さん! 次の村が見えてきましたよ~!」

 声につられ荷台の外を覗くと、目の前には無数の枯れた木々や枝ににおおわれた、巨大な鳥の巣が現れたのだ。

「あれが……村なのか?」

 俺の目には、完全に鳥の巣に見えるんだが……。
 他のメンバーの顔を見ると、ハーモニーの発言に誰も疑問を持っていない……この世界では、普通に村として認知されているのだろう。──俺から見ると、違和感しかないけどな?

 結局、まだ具体的な対策を思い付かないまま、次の目的地、アラウダ村が見えてきたのだった。
 
しおりを挟む
感想 439

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...