異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル

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第三章 リベラティオへの旅路

第182話 アラウダ

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 俺達が乗っている馬車は現在、何故かアラウダ村の周囲をぐるぐると回っている。
 その状況に興味もあって、荷台の前から顔を出し目の前のハーモニーに話しかけた。

「なぁ? これはさっきから何をしてるんだ?」

 目の前にアラウダと呼ばれた村があるのに、一向に入ろうとしないのだ、疑問に思うのは当然だ。

「これは入り口を探しているのですよ。この鳥の巣の用な外壁の何処かに、出入りするための場所があるはずなんですが~……」

 なるほど? この巣は外壁の代わりなのか……。
 確かに村を一周、ぐるっと囲っている様にも見えるし、建物が見えないほどの高さもある。
 巣が村を守る……さながら、建物や人々は卵やひなみたいだな。

「ってことは、回っていれば入り口の扉か何かがあるわけだ?」

「扉は無いと思いますよ~?」

 ──無いのかよ! じゃぁ穴でも空いてるのか?
 半周以上グルグルしてるし、いい加減彼女の言う入り口が、視界に入っても良さそうなものなんだけどな?

「あ、見えてきましたよ?」

 先程まで、そこは枯れた木々で覆われていたと思っていた場所に、突如何も覆われていない部分が現れた。
 そこからは村の中が見え、入り口には数名の門番の様な男達が立っている。──驚いた、遠目で見たときは、全然こんな入り口が見えなかったのに……。

「はぁ~驚きやわ! 鳥の巣見たいな村があったんは知ってたけど、まさか入り口にこんな細工があったか。それは知らへんかったわ……興味深いで!」

 ハーモニーの隣では、ミコを頭に乗せている、シンシを膝に乗せたルームが……って重なりすぎだろ?
 そんなルームが、驚いた顔でそう口にしたのだ。

 確かに先程までは全く見えなかったのに、入り口の正面に入ったら急に見えるようになったぞ?

「目の錯覚なのか? これは凄いぞ、よく知ってたな!」

「魔法の一種ですね。私は村への入り方を偶然知っていただけです。エルフの里の方が少し複雑ですが、同じ技術を使っているんですよ~」

 なるほど。確かに俺とミコの残心の応用でも似たようなことが出来る。十分に考えられるか……。

「でも、知らない人はこの村に入れないだろ? 何でそんな不便な作りなんだよ?」

「う~ん……。憶測でしかありませんが、この村の宗教が起因しているのかも知れませんね~? この仕掛けを使っている村や町は、エルフが信じている"神様"を信仰なさっているところが大半ですから」

 うわ……めんどくさそうな単語だ。異世界系の話でその単語、大概ろくでもないんだよな?

「神様ってそんな眉唾まゆつば、本当に居るのかよ? 正直俺は、あまり信じて無いんだけど……」

「カナデさん。私なら良いですが、他のエルフには言わないで下さいよ? 私は人間の世界での生活が長く、信仰深い方ではないから良いのですが……同胞が聞いたら、蜂の巣にされますよ~?」

「わ、悪い……気を付けるよ」

 早速注意されてしまった。神様が絡むと、ろくなことがない説は間違ってなかったか。

「結論から言うと、神さんは居るで? 実際うちらも、それぞれの種族の神さんに、"加護"を頂いてるはずや」

「加護? 新しい単語だな……それは俺にもあるのか?」

「はい~、種族の違う私達とも普通に話せている。加護を持ち合わせている証拠ですね~」

 なるほど……この世界に来て読み書きに苦労しなかったのは、その加護って物のおかげか。
 普通、もっと早く気づくものな気がするけど……流石俺だ。

「カナデさん~、もう村の目の前まで来ましたよ?」

 鳥の巣……ではなく、村の入り口が目前まで近づいてきた。この村に在中している最中に、シンシの問題を解決しないといけないんだよな?

 もし、本当に世界に神様がいるのなら、俺達皆の仲を裂かないで欲しいな……。
 そんな都合のいい神頼み、やはり許されないのであろうか?
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