異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル

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第三章 リベラティオへの旅路

第205話 追跡者

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 俺の驚きの声に、新刊を手にした男が振り替えり、目があってしまった。──し、しまった……。でも、どちらにしても、あの男に声を掛けて、新刊を返して貰わないといけないのか。

 しかしどうだろうか? こちらを見る男の表情はみるみるうちに緩んでいき、非常に気持ち悪い満面の笑みとなったのだ……そして──!

「──ティ~~~アさんじゃないですかぁ~~!」

 こ、こいつ……ティアの事を知ってるのか?

 隣に立っているティアを見ると、彼女は両手で顔を覆い隠していた。

「ティアさん……アイツ、もしかして知り合いで……」
「──知りません! 私、ティア様じゃありませんから!」

 食いぎみだ……。
 私、ティアじゃないって……流石にそれは、ちょっと無理があるだろ?
 あのティアがここまでの反応を示すとは……アイツ一体何者だ?

 非常に気持ち悪い男は、人波を掻き分け俺達の近くに来てティアを覗き込む……。

「ほら、やっぱりティアさんじゃないですか~?」

 目の前まで男が来て諦めたのか「あら? どちら様でしたっけ?」と、両手を下ろした。──目が……目が冷たくよどんで!
 
 彼女の対応を見ても分かる。
 目の前の男のテンションに反して、ティアは彼を歓迎していないようだ。

「やだな~ティアさん。俺ですよ俺、忘れちゃいましたか?」

 それだけ言葉にした男は、左手の指を二本立て目の前に構え、右手は天井に掲げ足を大きく開き、体を若干傾けた……そして──。

「──俺様の名は、追跡者ホ~~ムラ! 大陸をも横断し、貴方に会うために現れた愛に生きる勇者です!」

 う、うわ~……ダサいな。
 追跡者とは、彼の二つ名なのだろうか?

「前にも再三さいさん言いましたが、私を付け回すのはやめて頂きたいのですが? 貴方これで二度目ですよ? 大陸横断してまで着いてくるの……」

 …………って、ただのストーカーかよ!?

 大陸横断してまでってかなりヤバイ奴だな……しかも二度って。

 確かにティアは、黙っていれば顔もいいしスタイルもいい……聡明そうめいだし、ギルドでの地位も信頼も厚いかもしれない。
 中身を知らなければ、俺も冒険中に冒険した可能性も、大いに考えられる……。

「ティアさん。それでも、このストーカーさん凄い人なんですよね? 二つ名付いているほどですし」

「──だ~れがストーカーだ! 私は愛に生きる男、追跡……」

「──いえ、ただのCランクの冒険者ですよ? ギルドに登録出来る二つ名は、関係者につけられるものと、自己申告でつける方法がありますので」

 ティアに言葉を遮られた為か、ちょっと肩を落とすストーカーの男。──こいつ、もしかして自己申告で追跡者って二つ名を? なんて恥ずかしい……。

 ストーカーの男に哀れみの目を向けていると、ティアがとんでもないことを口走った。

「カナデ様、他人事のような視線を浴びせてますけど、カナデ様にも立派な二つ名が登録されていますからね?」

「──おい、その事についてもっとしっかり説明してもらおうか!」

 なんだよそれ、何も聞いてないぞ? 誰だよ、俺をはめたやつ!

「いえ、エルピスのリーダーが二つ名もないのはどうなのか? っと言う話をメンバー皆様と相談しまして、その結果立派な二つ名をつけさせて頂きました。決して、前笑われた時の仕返しとかじゃありませんよ?」

 ──発案者はお前か! なんで知らない所でこそこそ動いてるんだよ! もうそれ、嫌がらせだろ?

「ちなみに……どんな名前だよ……」

「最終的に、ちまたに浸透してたものになりましたね。よくご存じですよね? 鍛冶場荒しのカナデ様」

 そいつかい! 言ってもまだ三件だぞ? 三件ぐらい、その辺の冒険者もやって……はいないか?

「貴様! いい加減にしろよ? 俺のティアさんと、な~に仲良く話してんだ!」

 お、二つ名の事で、ストーカーを忘れてた……。

 コイツは他っておいてもいいけど、手に持ってる物は返して貰わないとな。

「すみません、ストーカーさん。実は、その手に持っているものを返して頂きたいのですが」

「誰がストーカーだよ!」

 しまった……怒らせてしまったか? 興奮させては、良い方向に運ばないだろう。しかたない、ここは謙虚に敬意を持って、相手に接しよう。
 周囲の視線も集まってきてるしな……。

「すみません、ストーキングキングさん。その本を、返して……」

「──貴様! わざとだろ!」

 おかしい……。王様扱いしたら怒ったぞ? まぁ、同じこと言われたら俺も怒るけどな。

 ストーキングキングは、手に持っている本を俺に向けた。

「おい、貴様。この本は貴様の物なのか? 俺様のティアさんを汚すような事を描きやがって……。万死に値するぞ!」

 そう言いながら本は地面に投げつけられた。
 その様子を見たティアは、手で口許を押さえ、顔からは血の気が引いたようにも見えた。

「こんな下品な物……こうしてやる!」

 隣からは、ティアの声にならない悲鳴が聞こえた。

 大きな声を上げたストーキングキングは、右足を大きく上げ思いっきりティアの新刊に向かい、足を振り下ろしたのだ──!
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