異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル

文字の大きさ
378 / 469
第四章 新天地

第363話 プレゼン

しおりを挟む
「残念だな。この天気じゃ、せっかくの絶景も台無しだ」

 前に、ハーモニーの住んでいた集落へと通じる道のある塩湖。
 いろんな意味で、思い出深い風景だ。

 普段は色鮮やかな青空を写し出す水面も、今日は曇り模様。

「本当におかしな天気ですよね~。……あの厚い雲のせいで、道中の植物達も元気が無かった気がします」

「あぁ……開拓村はドリアードさんが何とかしてくれてるから良いけど、これだけ曇り続きじゃ他所の食物は不作だろうな」

 グローリアからの難民が流れてきたら、さらに食料事情が圧迫しかねないか……。
 そうならないように、少しでも早く晴れてくれればいいんだけど。
 
 憂鬱ゆううつな気分のまま、塩湖を越えすぐの事だ──。

「んっ、あれは遺跡か?」

 遠目に、石で出来た建物が見える。
 所々崩れ、藻が生えており、外観を見てもかなり古い建造物だと見てとれた。

「あれ? 行きと同じルートだよな。あんな遺跡、見た記憶がないんだが……」

 記憶を探り、頭を悩ます。
 人工物の少ない特徴の無い道は、似たり寄ったりで忘れる事はあっても、こんなところにある建物を忘れる事なんて無いと思うけど……。

「──そりゃそうやろ。兄さん、気絶してたやないか」

 あぁ~そうだったな。ちょうど魔力を使い果たし、シンシの夢を見てたときか。

 それにしても……。 

「ルームが移動中に会話に入ってくるなんて珍しいな。何かあったのか?」

「だって遺跡やろ。神秘なんやで!? 興味持ったってもおかしくないやろ。兄さん兄さん、少しよってかへんか?」

 おぉ……普段マジックアイテム作りに没頭してて、荷台から顔も出さないくせに、引きこもりが、自ら外の世界に羽ばたこうとしてるぞ。

「──カナデさん。ルームさんはあの中にある、ある物が目当てなんですよ」

「あるもの?」

 ルームを見ると、露骨に視線を反らす。

 彼女欲しがりそうなもの? 貴重なアイテムや宝でも眠っているのだろうか。

「魔物ですよ~。ルームさんは、倒した素材が目的だと思いますよ」

 図星だったのだろう。
 ルームは塩湖を見つめながら、バツの悪そうに「ホンマ、一面雨雲やな!」っと誤魔化すように、一昔前の話題を振る。

「ったく……。じゃぁなんだ、あの遺跡には魔物が住み着いてて有名って事なのか?」

「少し解釈が違いますかね~。あそこは、ダンジョンの入り口なんですよ、この国が有している、入り口の一つ」

「なるほど……ダンジョンなのか」

 この世界に来て随分経つが、今さらその存在を聞かされるとは……。

 元の世界でも、その存在は多くの小説やマンガ、ゲームやアニメで題材とされている。
 だから、なんとなく理解は出来るけど……俺の想像と合致してるのか?

「カナデさん、その顔いまいちピンと来てませんね~?」

「流石ハーモニー、良くわかったな。聞いたことはあるけど、俺の認識と同じものなのかな? って思ってな」

 俺の疑問を聞いて、チャンスだと思ったのだろう。

「ダンジョンっちゅう~のはな? 神さんによって、魔物が閉じ込められている牢獄、なんて言われてる場所やな。だから監獄ダンジョンなんて呼ばれてるらしいで? どや、ゾクゾクするやろ!」

 いや、しねぇよ。
 いい顔してるけど、それ完全にプレゼン失敗してるからな?

「世界各国、無数にある謎の入り口。一説にはそれらすべては繋がっている、なんて話しも聞いたことがありますね~。他には魔物の誕生の地、なんて話しも」

「なるほどな。物騒な場所だって言うのは良く解かったよ」

 そう、だから言うまでもない。
 
「──ってことで、ハーモニー。まっすぐラクリマを目指してくれ。面倒事はごめんだ」

「はい~、だと思ってました」

 無情にも、馬車は遺跡を通りすぎて行く。
 ルームはそれを横目に「そんな、いけずせんといてやぁ……」っと手を伸ばし、涙を浮かべるのであった……。
しおりを挟む
感想 439

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

処理中です...