6 / 17
第6話 便利屋1
しおりを挟む
機械人形の少女アリエルは、帰路に就くため汽車を使い、勤め先のある自身が住まう町へと向かっていた。
鉄道の路線は木々の間をすり抜け、木漏れ日がアリエルが乗っている汽車を優しく照らし出す。
「……見えましたか」
窓を開け、アリエルは外を覗く。
汽車が林を抜けると、彼女の目の前には、大きな町並みと、その中央に流れる運河が目に飛び込んできた。
貿易都市アルマステルム
そこには便利屋と看板を掲げた、大きいとは言い難い、屋根に小窓が付いた建物がある。
そして、アリエル住んでいる家でもあった。
汽車が駅へと着くと、アリエルは手荷物もほとんどなく、外套を右手の小脇に抱え歩き始める。
美しく可愛らしい、人形の様な容姿と、破れた服から覗かせる機械の両腕が、否応なく注目を集めていた。
しかし、彼女はそれを気にする様子もなく、運河にそって歩く。
◇
「……着きました」
アリエルは、自身の勤める便利屋へと到着した。
決して立派ではない外観の建物に、彼女は足を踏み入れた。
そして、二階の一番陽当たりの良い部屋の扉を開ける。
「──アリエルただいま戻りました」
「お疲れ様、アリエル。連絡は受けているわ……今回も大変だったようね」
部屋の中には、いくつかの机や椅子が立ち並ぶ。
窓際には齢三十程の、茶髪で眼鏡を掛けている、シックなドレスを身に纏う女性が座って居た。
「また、随分酷い怪我をしてきたのね……。まったく、軍と来たらあなた達の扱いが荒いから……嫌いだわ」
「怪我……ですか? いえエレン社長、特に問題はありませんが」
アリエルは、自身の体をキョロキョロと見渡しながらも答える。
エレンと呼んだ女性は、そんな様子に安堵の溜め息を漏らす。
彼女は、アリエルにあえて人と同じように接し、表現する事が多かった。
勿論、嫌みなどではない。アリエルを妹のように……自分の家族として接している為だ。
「アリエル……ここ軍ではないの、仕事の報告も、そんな固くならなくていいのよ?」
「……申し訳ありません。これが私にとっての、普通だったのですが」
エレンは呆れた……っと言うよりは、困った顔をした。
その様子を不安げに見つめるアリエルに気付き、微笑んで見せる。
「いいわ、無理もないものね。少しずつ俗世に慣れていけば良いわ。そうだ! お茶にしましょう、アリエルも飲むかしら?」
席を立ち上がったエレンは、キャビネットの上に置かれていたティーポットに手を掛ける。
「──私は結構です。あ、あのエレン社長! 次の任務は……」
「任務、じゃなくお仕事……ね? 依頼の話は来てるわ。大丈夫、貴女を推薦してあるから。今はその返事待ちね」
「そう……ですか……」
アリエルは右手を握り、暗い表情を浮かべた。
その様子を見てエレンは『目的のため彼女が生き急いでいる……』そんな印象を受けたのだ。
「アリエル、たまにはゆっくりしなさい。これは、私からのお願い……」
「はい……分かりました。それではこれで」
頭を下げ、部屋から出ていこうとするアリエル。
エレンはそんな彼女の、哀愁漂うその姿を見て立ち上がり、手を伸ばし声をかける。
「──足りない備品があったら言ってね? 経費で落ちるから。後、予備の心臓は此方で準備をしておくから」
「ありがとうございます。それでは、失礼しました」
一礼と共に、アリエルは部屋を出た。
エレンはガタン! っと、椅子へと腰を下ろし、伸ばされた手は頭を抱える。
「もっと気の聞いた言葉があるでしょ……私の馬鹿……」
一人きりの部屋に、エレンの呟く声が響く。
彼女はその後、アリエルと仲良くなるためのコンタクトの方法を企てつつも、自分の作業机に視線を落とし、資料とにらめっこするのであった。
鉄道の路線は木々の間をすり抜け、木漏れ日がアリエルが乗っている汽車を優しく照らし出す。
「……見えましたか」
窓を開け、アリエルは外を覗く。
汽車が林を抜けると、彼女の目の前には、大きな町並みと、その中央に流れる運河が目に飛び込んできた。
貿易都市アルマステルム
そこには便利屋と看板を掲げた、大きいとは言い難い、屋根に小窓が付いた建物がある。
そして、アリエル住んでいる家でもあった。
汽車が駅へと着くと、アリエルは手荷物もほとんどなく、外套を右手の小脇に抱え歩き始める。
美しく可愛らしい、人形の様な容姿と、破れた服から覗かせる機械の両腕が、否応なく注目を集めていた。
しかし、彼女はそれを気にする様子もなく、運河にそって歩く。
◇
「……着きました」
アリエルは、自身の勤める便利屋へと到着した。
決して立派ではない外観の建物に、彼女は足を踏み入れた。
そして、二階の一番陽当たりの良い部屋の扉を開ける。
「──アリエルただいま戻りました」
「お疲れ様、アリエル。連絡は受けているわ……今回も大変だったようね」
部屋の中には、いくつかの机や椅子が立ち並ぶ。
窓際には齢三十程の、茶髪で眼鏡を掛けている、シックなドレスを身に纏う女性が座って居た。
「また、随分酷い怪我をしてきたのね……。まったく、軍と来たらあなた達の扱いが荒いから……嫌いだわ」
「怪我……ですか? いえエレン社長、特に問題はありませんが」
アリエルは、自身の体をキョロキョロと見渡しながらも答える。
エレンと呼んだ女性は、そんな様子に安堵の溜め息を漏らす。
彼女は、アリエルにあえて人と同じように接し、表現する事が多かった。
勿論、嫌みなどではない。アリエルを妹のように……自分の家族として接している為だ。
「アリエル……ここ軍ではないの、仕事の報告も、そんな固くならなくていいのよ?」
「……申し訳ありません。これが私にとっての、普通だったのですが」
エレンは呆れた……っと言うよりは、困った顔をした。
その様子を不安げに見つめるアリエルに気付き、微笑んで見せる。
「いいわ、無理もないものね。少しずつ俗世に慣れていけば良いわ。そうだ! お茶にしましょう、アリエルも飲むかしら?」
席を立ち上がったエレンは、キャビネットの上に置かれていたティーポットに手を掛ける。
「──私は結構です。あ、あのエレン社長! 次の任務は……」
「任務、じゃなくお仕事……ね? 依頼の話は来てるわ。大丈夫、貴女を推薦してあるから。今はその返事待ちね」
「そう……ですか……」
アリエルは右手を握り、暗い表情を浮かべた。
その様子を見てエレンは『目的のため彼女が生き急いでいる……』そんな印象を受けたのだ。
「アリエル、たまにはゆっくりしなさい。これは、私からのお願い……」
「はい……分かりました。それではこれで」
頭を下げ、部屋から出ていこうとするアリエル。
エレンはそんな彼女の、哀愁漂うその姿を見て立ち上がり、手を伸ばし声をかける。
「──足りない備品があったら言ってね? 経費で落ちるから。後、予備の心臓は此方で準備をしておくから」
「ありがとうございます。それでは、失礼しました」
一礼と共に、アリエルは部屋を出た。
エレンはガタン! っと、椅子へと腰を下ろし、伸ばされた手は頭を抱える。
「もっと気の聞いた言葉があるでしょ……私の馬鹿……」
一人きりの部屋に、エレンの呟く声が響く。
彼女はその後、アリエルと仲良くなるためのコンタクトの方法を企てつつも、自分の作業机に視線を落とし、資料とにらめっこするのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
奥様は聖女♡
喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。
ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。
卒業パーティーのその後は
あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。 だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。
そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる