アリエルオートマタ

リゥル

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第6話 便利屋1

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 機械人形オートマタの少女アリエルは、帰路に就くため汽車を使い、勤め先のある自身が住まう町へと向かっていた。

 鉄道の路線は木々の間をすり抜け、木漏れ日がアリエルが乗っている汽車を優しく照らし出す。

「……見えましたか」

 窓を開け、アリエルは外を覗く。

 汽車が林を抜けると、彼女の目の前には、大きな町並みと、その中央に流れる運河が目に飛び込んできた。

 貿易都市アルマステルム

 そこには便利屋と看板を掲げた、大きいとは言い難い、屋根に小窓が付いた建物がある。
 そして、アリエル住んでいる家でもあった。

 汽車が駅へと着くと、アリエルは手荷物もほとんどなく、外套を右手の小脇に抱え歩き始める。

 美しく可愛らしい、人形の様な容姿と、破れた服から覗かせる機械の両腕が、否応なく注目を集めていた。
 しかし、彼女はそれを気にする様子もなく、運河にそって歩く。



「……着きました」

 アリエルは、自身の勤める便利屋へと到着した。
 決して立派ではない外観の建物に、彼女は足を踏み入れた。
 そして、二階の一番陽当たりの良い部屋の扉を開ける。

「──アリエルただいま戻りました」
「お疲れ様、アリエル。連絡は受けているわ……今回も大変だったようね」

 部屋の中には、いくつかの机や椅子が立ち並ぶ。
 窓際にはよわい三十程の、茶髪で眼鏡を掛けている、シックなドレスを身に纏う女性が座って居た。
 
「また、随分酷いをしてきたのね……。まったく、軍と来たらあなた達の扱いが荒いから……嫌いだわ」
「怪我……ですか? いえエレン社長、特に問題はありませんが」

 アリエルは、自身の体をキョロキョロと見渡しながらも答える。
 エレンと呼んだ女性は、そんな様子に安堵の溜め息を漏らす。

 彼女は、アリエルにあえて人と同じように接し、表現する事が多かった。
 勿論、嫌みなどではない。アリエルを妹のように……自分の家族として接している為だ。
 
「アリエル……ここ軍ではないの、仕事の報告も、そんな固くならなくていいのよ?」
「……申し訳ありません。これが私にとっての、普通だったのですが」

 エレンは呆れた……っと言うよりは、困った顔をした。
 その様子を不安げに見つめるアリエルに気付き、微笑んで見せる。

「いいわ、無理もないものね。少しずつ俗世に慣れていけば良いわ。そうだ! お茶にしましょう、アリエルも飲むかしら?」

 席を立ち上がったエレンは、キャビネットの上に置かれていたティーポットに手を掛ける。

「──私は結構です。あ、あのエレン社長! 次の任務は……」
「任務、じゃなくお仕事……ね? 依頼の話は来てるわ。大丈夫、貴女を推薦してあるから。今はその返事待ちね」
「そう……ですか……」

 アリエルは右手を握り、暗い表情を浮かべた。
 その様子を見てエレンは『目的のため彼女が生き急いでいる……』そんな印象を受けたのだ。

「アリエル、たまにはゆっくりしなさい。これは、私からのお願い……」
「はい……分かりました。それではこれで」

 頭を下げ、部屋から出ていこうとするアリエル。
 エレンはそんな彼女の、哀愁あいしゅう漂うその姿を見て立ち上がり、手を伸ばし声をかける。

「──足りない備品があったら言ってね? 経費で落ちるから。後、予備の心臓は此方で準備をしておくから」
「ありがとうございます。それでは、失礼しました」
 
 一礼と共に、アリエルは部屋を出た。
 エレンはガタン! っと、椅子へと腰を下ろし、伸ばされた手は頭を抱える。

「もっと気の聞いた言葉があるでしょ……私の馬鹿……」

 一人きりの部屋に、エレンの呟く声が響く。
 彼女はその後、アリエルと仲良くなるためのコンタクトの方法を企てつつも、自分の作業机に視線を落とし、資料とにらめっこするのであった。
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