我ら、白蛇一派が参りやす

ミナズキ

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第一話 龍閣の白蛇一派

龍閣

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寂れた山の神社を立川陽一たちかわはるひとが尋ねたのは、睦月も終わりに差し掛かった頃である。

旧暦の二月・・・・・・今で言う三月の下旬であった。
立川陽一、現代を生きるごく普通のサラリーマンである。背もそこそこにあり体躯もしっかりしてはいるが、頬は痩せこけ、目の下は隈で真っ黒であった。

夜に眠れていないのだろう。髭も伸びたままだ。
石畳の坂を登る足取りも、一歩進めば右へ、また一歩進めば左へと不安定である。
今にもころんと倒れてしまいそうな、そんな弱々しい出で立ちだ。

いかにも具合の悪そうな身体なのに、どうしてこの、人の寄り付かない破れた神社へ足を運んだのか。それはつい七日程前に遡る。







最初は些細な事だった。共に衣食住を暮らす陽一の母が、いつも顔をしかめるようになった。

母は滅多なことで機嫌を悪くしたり、他人や物に当たり散らすような真似はしない。それが、少しでも自分が気に入らない事があれば父や陽一に怒鳴りちらしたり、手にあるものをひたすら壁や床に投げ付けたりと、凄まじい有り様であった。

最初こそ、なにか自分たちの知らないところで大きな負担をかけてしまったのではないかと思い、その手の事に強い医者へ連れていったりしたのだが、いっこうに良くならない。

元々、オカルトよりも現代科学を崇拝する陽一はこの事をなんらかの精神疾患と疑っていた。だが次第に母の奇行は激しさを増し、二日前の三月二十九日の夜。

暴れる母を寝かしつけ、両の手足をしっかりとベッドの柵に縛り付け一時の安眠に興じていた。
深夜、陽一は台所から物音がするのを聞いた。

陽一の部屋は同じく一階にあり、すぐ隣が台所、その前に父の寝ている部屋がある。

目を覚ました陽一は起き上がってすぐに部屋からは出ず、戸の前に立ち一度耳をそばだてた。物音はなおも続いている。冷蔵庫の低い音、なにかを漁る音、咀嚼する音、独り言のようなもの。

「なんなんだ・・・・・?」

一瞬のうちに冷や汗が背中におりてきた。こんなこと、人生で初めてだ。

意を決して陽一は壁際に立て掛けてあった古い木製のバットを握り締め、音を出さぬようドアノブを回し外へ出た。

春のくる前らしく冷えた廊下を静かに、静かに踏み締めゆっくりと台所を目指す。
明かりは一つも点いておらず暗いが、開け放たれた戸から冷蔵庫の朧な光が漏れている。

近付くたび、なにか、生モノを貪るようなグチグチと言う気味の悪い音が大きくなっていく。幽霊か、はては野良人間か。

そっと台所の入り口から頭だけを乗りだし、その正体を暴く。
ぼんやりと頼りない冷蔵庫の光が、人の形を照らしていた。逆光となってしまっているが、その人影が着ている青い寝間着の柄をうつすには充分だった。

「お、え・・・・・母さん!?」

手足を縛ってベットに縫い付けていたはずの母が、陽一の事など構わずひたすら手に掴んだ食べ物を食い漁っている。もう数日もろくに風呂へ入っていないせいで傷んだボロボロの髪を振り乱し、鶏肉の塊を貪る姿はまさに野犬そのものであった。

変わり果てた母の姿に陽一は、恐怖とも悲しみとも言えぬ感情に心を潰され、その場に座り込み泣き叫んでしまった。



・・・・・・・結局、陽一の悲鳴を聞き付けた父と近所のおばさんが母を病院へ連れていってくれた。それどころか、母が散らかした食糧の片付けまでやってもらった始末。その時陽一はただ自室にこもり、頭に布団を被って朝まで震えていた。

一体、母はどうしてしまったと言うのだ。こうなってしまった事に、全く心当たりがない。八方塞がりである。

母の症状を手元のパソコンで調べる毎日だ。しかし、どれも精神科にかかる他はなさそうだった。病院でもどうにもならないから調べているのに、と妙な苛立ちを募らせていたある日の事である。

一つのネット記事を発見したのは偶然であった。書き込みは少ないが、気になるものだった。

白蛇一派びゃくだいいっぱ?なんだこれ?」

聞きなれない組織の名前が見出しとして大きく掲載され、下にはつらつらと詳しい情報が載っていた。読み進めてはみるが、なんだかありがちな胡散臭い内容が長々と軒を連ねている。

要約すれば、人間の手にはおえないような怪奇現象の解決や化け物退治、お祓い、封印から行方不明者の捜索なんでもやります。と言ったものだ。

「便利屋みたいなもんか。変な霊能力者のアレだったら嫌だな・・・・・」

嘘も真実まことも全てが混雑するこの現代において、すぐに食いつくのはどうかしている。詐欺だったら溜まったもんじゃない。溜まったものではないのだが・・・・・

「・・・・・・他に宛もないしなぁ」

普段であれば、鼻で嗤って無視を決め込むところだ。しかし、今の陽一は度重なる母の奇行と不眠、近所からの視線に晒される毎日にもう疲れてしまった。

陽一は記事の感想欄へ目をうつした。数はそこそこに、色々と情報が交錯している。

『一派は人間の世界の隣に住んでいる』

『私は妙な古い橋を渡って向こう側?へ行った』

『一派は全部で十人いる』

『嘘乙』

読み込んでいくと、ある文章をとらえた。半ば身を乗り出すようにして陽一は画面に食らいついた。

『◯△✕町の古い◯◯神社の横に川が流れているじゃないですか?そこにないはずの古い橋がかかってたんですよ。そこに・・・・・・』





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