17 / 26
第二章
泡ーアブクー
しおりを挟む
「・・・・結局、また元の海域に流すのね」
遠くの雲を見ながら、矢矧は間宮食堂のベランダに出て珈琲を一口すすった。隣には同じく熱い珈琲を楽しむ冬月がおり、マグカップを両手に包んでいる。
午後のサイレンがはるか水平線の彼方に消えていくのを聞きながら、矢矧は寂しそうにベランダの下、港を見下ろす。下では数人の艦魂が、ボートに乗せられた女の子を見送っている最中だった。
半数の反対に押しきられ、はる子は元いた海へ返す、いや、流される事となった。
心苦しいなんてもんじゃない。天へ登れない、消える運命の子供を見捨てたのだ。出来るなら、大和と同じくはる子の欠片を探してやりたい。だが、大和や矢矧の一存での勝手は許されないのは目に見えてわかる。なにより、これ以上大和の自尊心に傷を付けてやりたくなかった。
「あの子、これからどうするのかな?」
「誰かしら親切な人間が見付けてくれるのを期待するしかないでしょう」
「そんな人いる?そもそも、冥海って生きてる人いるの?」
「さぁ・・・・・私は見たことないわ」
そんな他愛のない、着地点のないやりとりをしている。そう、ここは死者の海。命をもったものは何一つ存在していない。故に、いるのはもっぱら海で死んだ人間や船の魂である。
「長門さんも酷いよね。なにもあんな風に追い出さなくても・・・・・」
「何年か前にも同じことがあったらしいの。私も大和も詳しくは知らないのだけれど、どうも、拾った人間が長門さんの足に怪我させたらしいよ」
「それで長門さんいつも杖ついて歩いてるの?」
「うわさよ、うわさ。本当のところはわからないけど、そう言う事があったせいで長門さんは凄く敏感になってるんだって」
矢矧もこの頃はまだ着任しておらず、来たときには全てが終わった後だった。
「大和、また荒れそうだね」
「荒れるでしょうねぇ」
棘の目立つ彼女だが、元々はのんびりとした人なのだ。それが、ここ数年で次第に荒れていき、このままでは誰も手が付けられないようになってしまう。矢矧はそう懸念していた。大和は元より力のある艦だ。立ち向かえる艦魂は、そんなにいない。
「武蔵さんがいてくれればなぁ・・・・・」
「・・・・・ないものねだりはやめなよ、冬月」
冬月の、ほんの独り言のつもりだったらしいが、矢矧はやんわりとたしなめ、冷めかけたぬるい珈琲を不味そうに飲み干した。
遠くの雲を見ながら、矢矧は間宮食堂のベランダに出て珈琲を一口すすった。隣には同じく熱い珈琲を楽しむ冬月がおり、マグカップを両手に包んでいる。
午後のサイレンがはるか水平線の彼方に消えていくのを聞きながら、矢矧は寂しそうにベランダの下、港を見下ろす。下では数人の艦魂が、ボートに乗せられた女の子を見送っている最中だった。
半数の反対に押しきられ、はる子は元いた海へ返す、いや、流される事となった。
心苦しいなんてもんじゃない。天へ登れない、消える運命の子供を見捨てたのだ。出来るなら、大和と同じくはる子の欠片を探してやりたい。だが、大和や矢矧の一存での勝手は許されないのは目に見えてわかる。なにより、これ以上大和の自尊心に傷を付けてやりたくなかった。
「あの子、これからどうするのかな?」
「誰かしら親切な人間が見付けてくれるのを期待するしかないでしょう」
「そんな人いる?そもそも、冥海って生きてる人いるの?」
「さぁ・・・・・私は見たことないわ」
そんな他愛のない、着地点のないやりとりをしている。そう、ここは死者の海。命をもったものは何一つ存在していない。故に、いるのはもっぱら海で死んだ人間や船の魂である。
「長門さんも酷いよね。なにもあんな風に追い出さなくても・・・・・」
「何年か前にも同じことがあったらしいの。私も大和も詳しくは知らないのだけれど、どうも、拾った人間が長門さんの足に怪我させたらしいよ」
「それで長門さんいつも杖ついて歩いてるの?」
「うわさよ、うわさ。本当のところはわからないけど、そう言う事があったせいで長門さんは凄く敏感になってるんだって」
矢矧もこの頃はまだ着任しておらず、来たときには全てが終わった後だった。
「大和、また荒れそうだね」
「荒れるでしょうねぇ」
棘の目立つ彼女だが、元々はのんびりとした人なのだ。それが、ここ数年で次第に荒れていき、このままでは誰も手が付けられないようになってしまう。矢矧はそう懸念していた。大和は元より力のある艦だ。立ち向かえる艦魂は、そんなにいない。
「武蔵さんがいてくれればなぁ・・・・・」
「・・・・・ないものねだりはやめなよ、冬月」
冬月の、ほんの独り言のつもりだったらしいが、矢矧はやんわりとたしなめ、冷めかけたぬるい珈琲を不味そうに飲み干した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる