16 / 26
第二章
子ノ心
しおりを挟む
「貴様、どういう事かわかっているのか」
腹の底にずっしりとのし掛かるような声だった。
書斎の机に着いた両の拳は細かく震えている。ギリギリのところで怒りを抑えているらしかった。
「無断外泊の上に、死者を、しかも子供を連れてくるなど、どういう神経をしているのだ貴様は!!」
長門は別段怒りっぽい訳でも短気でもない。ただ、大和の奇行があまりにも酷すぎるだけだ。
無断外泊だけならまだしも、死んだ子供の魂を連れてきた。これにはもう辛抱ならない。
しかし、大和はたいして萎縮する様子もなく、どこか気まずい様に目線を泳がせている。
「貴様の気まぐれに付き合う暇はないんだぞ!おい、聞いているのか!?」
「・・・・・聞こえてるよ、司令長艦。私は別に付き合ってくれとも言っていないだろう」
しごく冷たい、さめた物の言い方であった。皆が手を焼く要因も、ここにあるように思う。長門は思わず立ち上がると、角泡を飛ばしながら言った。
「貴様・・・・・!もういい!子供を海へかえせ!それが嫌なら貴様が出ていけ!!」
机に立て掛けてあった松葉杖を乱暴にひっつかむと、長門は歩きにくそうに大和の横を通って出ていってしまった。
鎮守府中に聞こえるのではないかと思うほど大きく音を立てて戸を閉めると、途端に書斎は静かになった。
張りつめていた息を全て吐き出す。あれでも一応は歴戦の兵士だ。一撃殴られれば堪ったもんじゃない。大和はズボンのポケットに手を突っ込んで、大きく肩を落とした。
「まあまあ、随分絞られたみたいね」
長門と入れ違いに、背の高い女性が優しげな笑みをたたえながら入ってきた。青みかかった髪を肩の辺りで編み込み、清潔な印象をみせる。深海の青くて暗い瞳は、どことなく長門を思わせた。
「でも、流石に私も擁護できないわね。お兄ちゃんだけじゃない。ここにいる皆にも、貴女の部下にも迷惑をかけてること忘れてないでしょうね」
「陸奥、私は・・・・・・」
「擁護はしない、て言ったでしょ?それで、どうするつもり?私も立場と言うものがありますからね」
言うやいなや、陸奥は大和の肩をポンと叩きつつ艶やかな笑みのまま続ける。
「・・・・・出て行くにせよ残るにせよ、貴方がいないと困る子がいる事も忘れないで。普段はともかく、大和、貴女の実力は本物なの。結果を残せるかどうかは、旗艦である貴女次第よ」
「・・・・・・」
「まあともかく、あの子・・・・・はる子ちゃんだっけ?妙高たちがあまりにも騒ぐからびっくりしちゃったけど、聞いてるより良い子ね。貴女はどうするつもりで連れてきたわけ?」
「さっき長門に言ったばかりだったんだが・・・・・はる子は魂が欠けた状態で冥海を漂っていた。拾ったのは偶然で、連れてきたのは隠しきれんと思ったからだ」
そう大和が白状すると、矢矧や妙高たちと同じように陸奥も驚いた顔をした。それ程、魂の欠けた人間と言うのは珍しいものなのだ。
陸奥は少し考えてから、大和の目を見つつ問うた。
「欠けてるって、そんな事・・・・・それで、元に戻してあげようとしてた訳?」
「偶然だと言っただろう。私が見つけた時にはもう欠けていた。戻せるのならそうしてやりたいが、破片の行方は全くわからないんだ」
一人では手の打ちようがない、大和はそう言いたいのだ。陸奥は思わず黙ってしまった。
「それ、皆には言った?」
「矢矧や妙高型、あとは長門に陸奥だけだ。他の艦には言っていない」
「そう・・・・・」
陸奥は、なんと言って良いのかわからなくなったようで、長門からの呼び出しがあるまでただ押し黙るしかなかった。
腹の底にずっしりとのし掛かるような声だった。
書斎の机に着いた両の拳は細かく震えている。ギリギリのところで怒りを抑えているらしかった。
「無断外泊の上に、死者を、しかも子供を連れてくるなど、どういう神経をしているのだ貴様は!!」
長門は別段怒りっぽい訳でも短気でもない。ただ、大和の奇行があまりにも酷すぎるだけだ。
無断外泊だけならまだしも、死んだ子供の魂を連れてきた。これにはもう辛抱ならない。
しかし、大和はたいして萎縮する様子もなく、どこか気まずい様に目線を泳がせている。
「貴様の気まぐれに付き合う暇はないんだぞ!おい、聞いているのか!?」
「・・・・・聞こえてるよ、司令長艦。私は別に付き合ってくれとも言っていないだろう」
しごく冷たい、さめた物の言い方であった。皆が手を焼く要因も、ここにあるように思う。長門は思わず立ち上がると、角泡を飛ばしながら言った。
「貴様・・・・・!もういい!子供を海へかえせ!それが嫌なら貴様が出ていけ!!」
机に立て掛けてあった松葉杖を乱暴にひっつかむと、長門は歩きにくそうに大和の横を通って出ていってしまった。
鎮守府中に聞こえるのではないかと思うほど大きく音を立てて戸を閉めると、途端に書斎は静かになった。
張りつめていた息を全て吐き出す。あれでも一応は歴戦の兵士だ。一撃殴られれば堪ったもんじゃない。大和はズボンのポケットに手を突っ込んで、大きく肩を落とした。
「まあまあ、随分絞られたみたいね」
長門と入れ違いに、背の高い女性が優しげな笑みをたたえながら入ってきた。青みかかった髪を肩の辺りで編み込み、清潔な印象をみせる。深海の青くて暗い瞳は、どことなく長門を思わせた。
「でも、流石に私も擁護できないわね。お兄ちゃんだけじゃない。ここにいる皆にも、貴女の部下にも迷惑をかけてること忘れてないでしょうね」
「陸奥、私は・・・・・・」
「擁護はしない、て言ったでしょ?それで、どうするつもり?私も立場と言うものがありますからね」
言うやいなや、陸奥は大和の肩をポンと叩きつつ艶やかな笑みのまま続ける。
「・・・・・出て行くにせよ残るにせよ、貴方がいないと困る子がいる事も忘れないで。普段はともかく、大和、貴女の実力は本物なの。結果を残せるかどうかは、旗艦である貴女次第よ」
「・・・・・・」
「まあともかく、あの子・・・・・はる子ちゃんだっけ?妙高たちがあまりにも騒ぐからびっくりしちゃったけど、聞いてるより良い子ね。貴女はどうするつもりで連れてきたわけ?」
「さっき長門に言ったばかりだったんだが・・・・・はる子は魂が欠けた状態で冥海を漂っていた。拾ったのは偶然で、連れてきたのは隠しきれんと思ったからだ」
そう大和が白状すると、矢矧や妙高たちと同じように陸奥も驚いた顔をした。それ程、魂の欠けた人間と言うのは珍しいものなのだ。
陸奥は少し考えてから、大和の目を見つつ問うた。
「欠けてるって、そんな事・・・・・それで、元に戻してあげようとしてた訳?」
「偶然だと言っただろう。私が見つけた時にはもう欠けていた。戻せるのならそうしてやりたいが、破片の行方は全くわからないんだ」
一人では手の打ちようがない、大和はそう言いたいのだ。陸奥は思わず黙ってしまった。
「それ、皆には言った?」
「矢矧や妙高型、あとは長門に陸奥だけだ。他の艦には言っていない」
「そう・・・・・」
陸奥は、なんと言って良いのかわからなくなったようで、長門からの呼び出しがあるまでただ押し黙るしかなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる