19 / 26
第二章
座頭
しおりを挟む
むしゃくしゃする。
濃い硝煙の匂いが海面の湯気と共に立ち込め、その白く霞んだ先に、粉々に砕けた的らしき木片が波間に揺れていた。無造作に撃ちまくった事が窺い知れる。
あれから小一時間ほど、大和はずっと演習場にて射撃訓練ばかりをしている。
今度は演習用ではない、大和自身の持つ巨大な艤装を装着していた。艦隊の誰よりも大きく、重い。大和型のみが使用を許された唯一無二の武装である。
主砲は三基、砲門は九門。うち、二基の砲門からあつい煙が立ち上っていた。
瑞鶴、空母達に馬鹿にされ腹を立て、はる子を手放さざるを得なかった事に情けなさを覚え、大和の胸中は言葉に表すにはあまりにもぐちゃぐちゃとしていた。
もはや、なんのために戦うのか、大和にはわからなくなっていた。
かつて運命を共にし、その命さえも懸けてくれた者達への弔いだったのか、現世を生きる人間の為なのか、それもと鎮守府の仲間の為なのか。
出撃すれば資源の無駄と言われた。撤退すれば無能と言われた。単艦での突撃をすれば無謀と言われた。勝てども勝てども、次を要求された。艤装の改修をすれば空母になれば良いのにと言われた。
私は、必要な艦だったのだろうか?
誰が必要として、私を作った?
誰の為に、なにをして、なにを守ればいい?
私にはなにもなかった。今思えば、この艦に魂を捧ぐ程の価値は、なかったかもしれない。それなのに、私は未来を生きていかねばならない多くの人間を海へ引きずり込んでしまった。陸にかえしてやれなかった。
苦しい。大変心苦しい。
この苦しさを少しでも吐き出そうと、躍起になって出撃を繰り返しても、一向に成果は見えない。
その苛立ちが、他者へ向けるべきではない気持ちをぶつけてしまう。
このままではいけないと、本当はわかっている。わかっているが・・・・
「どうしたら良かったんだ」
ずっと、この言葉がぐるぐると頭の中で渦を巻いている。今でもだ。
副砲を催した銃のグリップを握り締め、次弾装填の後また狙いを定める。
的は動かないが、遠い。銃と言うのは距離があけばあくほど命中率は下がる。銃そのものが大型であれば、物理やらなんやらの関係で直進はしなくなる。修正が必要なのだ。
上に2度、右へ3度。あとは勘だ。
射撃一つとってと、これだけ考える事がある。嫌な事を忘れるにはうってつけだった。
ここだ、と大和は遥か遠い赤丸の的へ向かって撃った。
数秒の後、遠くから高い水飛沫と黒煙が登った。目標命中、効力あり。納得の行く結果だ。
撃てるだけ撃ち込んで気が済んだらしく、大和は副砲、主砲を撃ち方終わりとし、用具を収めにかかった。
と、大和の耳になにか音が聞こえた。機械ともなんとも言えぬ、ツートンと言うような高い音。モールス信号だ。
要約してみると、大淀から緊急の打電のようだった。
『鎮守府近海ノ沖ニテ"アテヨイカヌ"見ユトノ警報ニ接シ"ノレツハイ"直チニ"ヨシス"コレヲ"ワケフウメル"セントス・・・・・・』
「座頭がそんな近くに?駆逐隊はなにをしとるんじゃ」
もっと簡単にすると、座頭が鎮守府近海の沖合いに出現したため、今より艦隊による殲滅戦を行うとの事だ。
謹慎中の大和が呼ばれたと言うことは、よっぽどの大物が現れたのだろう。
たが、電文はこれだけでは終わらなかった。
『工作艦ヨリ 人間ノ童ヲ狙ウモノトス 直チニ 回収セヨ 座頭 魂ヲ食ラウ者ナリ 少女ノ救出 速ヤカニ遂行セヨ・・・・・・』
ここで打電が切れたのだが、それよりも早く大和は沖に向かって走り出した。
収めかけた戦闘用具を迅速に組み立て、原則、強速と速力をあげていく。
一度副砲を腰のベルトに引っかけ胸ポケットから薄い桃色のりぼんを引っ張り出して、髪を結び始めた。
頭の後ろへ邪魔にならないように一本にまとめる。薄桃色とは似つかわしくないが、大和はずっとこれを使い続けているためなんの躊躇いもなかった。
髪を結び終え、再び副砲を手にすると今度は右四十度に前進。湾からだんどんと離脱していく。
上がる飛沫が顔にまとわりつくが、構うものか。
大和はさらに速力をあげ、件の沖合いへ急ぐのだった。
濃い硝煙の匂いが海面の湯気と共に立ち込め、その白く霞んだ先に、粉々に砕けた的らしき木片が波間に揺れていた。無造作に撃ちまくった事が窺い知れる。
あれから小一時間ほど、大和はずっと演習場にて射撃訓練ばかりをしている。
今度は演習用ではない、大和自身の持つ巨大な艤装を装着していた。艦隊の誰よりも大きく、重い。大和型のみが使用を許された唯一無二の武装である。
主砲は三基、砲門は九門。うち、二基の砲門からあつい煙が立ち上っていた。
瑞鶴、空母達に馬鹿にされ腹を立て、はる子を手放さざるを得なかった事に情けなさを覚え、大和の胸中は言葉に表すにはあまりにもぐちゃぐちゃとしていた。
もはや、なんのために戦うのか、大和にはわからなくなっていた。
かつて運命を共にし、その命さえも懸けてくれた者達への弔いだったのか、現世を生きる人間の為なのか、それもと鎮守府の仲間の為なのか。
出撃すれば資源の無駄と言われた。撤退すれば無能と言われた。単艦での突撃をすれば無謀と言われた。勝てども勝てども、次を要求された。艤装の改修をすれば空母になれば良いのにと言われた。
私は、必要な艦だったのだろうか?
誰が必要として、私を作った?
誰の為に、なにをして、なにを守ればいい?
私にはなにもなかった。今思えば、この艦に魂を捧ぐ程の価値は、なかったかもしれない。それなのに、私は未来を生きていかねばならない多くの人間を海へ引きずり込んでしまった。陸にかえしてやれなかった。
苦しい。大変心苦しい。
この苦しさを少しでも吐き出そうと、躍起になって出撃を繰り返しても、一向に成果は見えない。
その苛立ちが、他者へ向けるべきではない気持ちをぶつけてしまう。
このままではいけないと、本当はわかっている。わかっているが・・・・
「どうしたら良かったんだ」
ずっと、この言葉がぐるぐると頭の中で渦を巻いている。今でもだ。
副砲を催した銃のグリップを握り締め、次弾装填の後また狙いを定める。
的は動かないが、遠い。銃と言うのは距離があけばあくほど命中率は下がる。銃そのものが大型であれば、物理やらなんやらの関係で直進はしなくなる。修正が必要なのだ。
上に2度、右へ3度。あとは勘だ。
射撃一つとってと、これだけ考える事がある。嫌な事を忘れるにはうってつけだった。
ここだ、と大和は遥か遠い赤丸の的へ向かって撃った。
数秒の後、遠くから高い水飛沫と黒煙が登った。目標命中、効力あり。納得の行く結果だ。
撃てるだけ撃ち込んで気が済んだらしく、大和は副砲、主砲を撃ち方終わりとし、用具を収めにかかった。
と、大和の耳になにか音が聞こえた。機械ともなんとも言えぬ、ツートンと言うような高い音。モールス信号だ。
要約してみると、大淀から緊急の打電のようだった。
『鎮守府近海ノ沖ニテ"アテヨイカヌ"見ユトノ警報ニ接シ"ノレツハイ"直チニ"ヨシス"コレヲ"ワケフウメル"セントス・・・・・・』
「座頭がそんな近くに?駆逐隊はなにをしとるんじゃ」
もっと簡単にすると、座頭が鎮守府近海の沖合いに出現したため、今より艦隊による殲滅戦を行うとの事だ。
謹慎中の大和が呼ばれたと言うことは、よっぽどの大物が現れたのだろう。
たが、電文はこれだけでは終わらなかった。
『工作艦ヨリ 人間ノ童ヲ狙ウモノトス 直チニ 回収セヨ 座頭 魂ヲ食ラウ者ナリ 少女ノ救出 速ヤカニ遂行セヨ・・・・・・』
ここで打電が切れたのだが、それよりも早く大和は沖に向かって走り出した。
収めかけた戦闘用具を迅速に組み立て、原則、強速と速力をあげていく。
一度副砲を腰のベルトに引っかけ胸ポケットから薄い桃色のりぼんを引っ張り出して、髪を結び始めた。
頭の後ろへ邪魔にならないように一本にまとめる。薄桃色とは似つかわしくないが、大和はずっとこれを使い続けているためなんの躊躇いもなかった。
髪を結び終え、再び副砲を手にすると今度は右四十度に前進。湾からだんどんと離脱していく。
上がる飛沫が顔にまとわりつくが、構うものか。
大和はさらに速力をあげ、件の沖合いへ急ぐのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる