プレイヤーズゲーム 〜生徒たちの挑戦〜

モンモン

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第9話 言葉のない距離

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県総体が終わってから、一週間が過ぎた。
あの歓声と拍手が遠い昔のように感じられるほど、学校はいつもの日常に戻っていた。

1.静かなる再始動

放課後。
陸上部の部室では、涼賀が入念にストレッチをしていた。
淡い光が窓から差し込み、部室の空気をやわらかく照らす。

「……ほんと、相変わらずだね」

声をかけたのはマネージャーの萌歌。
手には、部員たちの練習日誌が数冊抱えられている。

「これ、先生に出してって頼まれた」

「了解。……ありがとう。」

「まったく。県総体終わっても休まないとか、ほんと陸上バカ」

「まぁ、次の大会すぐだしな」

「ふふっ。そーいうとこ、変わんないね」

萌歌は軽く笑いながら、少しだけ遠くを見た。

「ねぇ、あの時……観客席、見た?」

「ん?」

「なんかね、拓海もいたっぽいよ。私、見えた気がした」

「……そうか」

涼賀はそれしか言わなかった。
ただ手の動きを止めず、黙々とストレッチを続ける。

萌歌はそんな彼を見つめて、
どこか少しだけ寂しそうに微笑んだ。

「……やっぱり、見てたんだね。お互い」

彼女はそう言って、静かに部室を出ていった。


2. 二刀流の記憶

部活終了後、校舎から出てきた大夢が、笑いながら声をかけた。

「……涼賀、もう走ってるのか。少しは休めばいいのに」

「休んでる暇なんてないよ。県で勝ったのは、通過点だからな。」

涼賀は足を止めずに答える。大夢はふと、プールの建物を視界に入れながら呟いた。

「……拓海も、いよいよだな。あいつ、中学の時は全中の自由形で入賞して、さらに涼賀と一緒にリレーと100mでも全国に行ったんだ。あの時のことを鮮明に覚えてるよ」

涼賀は空を仰いだ。中学時代、陸上の舞台でも共に戦った親友。だが今は、拓海は自ら選んだ道で、自分と同じ「最強」を証明しようとしている。


3. 水底の孤独、静かな見守り

屋内プールでは、拓海が一人、黙々と距離を刻んでいた。
水泳県総体まで、残り数日。拓海にとって、この時間は自分自身を研ぎ澄ますための神聖な儀式だった。
陸上のリレー、100m、200mで見せた涼賀の激走、あの時の拓海自身の咆哮。
それらは拓海の胸の奥で、静かだが消えない火種となって燃え続けている。
屋内プールの入り口に、大夢がふらりと姿を現した。
手助けや過度なサポートはしない。それが、自律心の強い拓海に対する大夢なりの敬意だ。大夢は数分間だけ、水面を切り裂くような拓海のストロークを見守ると、何も言わずにその場を去った。
練習を終えた涼賀も、中へは入らず、建物の外から微かに聞こえる水の音に耳を澄ませた。

(……負けるなよ、拓海)

窓越しに送る、静かなエールだった。

3. 自宅にて:父と子の温かいエール

その夜。川瀬家のリビングでは、涼賀と父・由嗣が穏やかに夕食を囲んでいた。

「涼賀、改めて三冠おめでとう。リレーの走り、本当にかっこよかったぞ」

由嗣が柔和な笑みを浮かべ、涼賀の皿に好物のおかずを添えた。

「ああ、サンキュ」

「……拓海くんも、いよいよ今週末だな。中学であれだけ結果を出しながら、高校では一度も油断せず、コツコツと積み上げてきた。拓海くんがどれだけプールで自分と向き合ってきたか、その日頃の成果を発揮してほしいな」

由嗣の言葉は、拓海を心から応援する温かさに満ちていた。涼賀は箸を止め、少しだけ口角を上げた。

「……あいつ、口には出さないけど、俺のレースを見てなんだかんだ一番気合入ってるはずだから」

「はは、そうだな。俺からも、親父さんに『ベストを尽くせ』って念を送っておくよ。あいつの親父さんとも、当日が楽しみだって話したばかりなんだ」
由嗣の穏やかな言葉を聞きながら、涼賀は確信していた。次は拓海が、あの青い水面の上で、誰よりも輝く姿を見せてくれることを。

4. 決戦へのカウントダウン

夕闇に包まれた学校のプール。
拓海は最後の一本を泳ぎ終え、プールサイドに上がった。
ゴーグルを外すと、そこには迷いのない瞳があった。
涼賀が陸上で見せたあの輝き。次は自分が水の上で、その熱を受け継ぐ番が来る。

「……見てろよ、涼賀」

静まり返ったプールに、拓海の決意の言葉だけが小さく反響した。
三人の物語は、ふたたび青い水面の下で激しく動き出そうとしていた。


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