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第8話 残響のロングスプリント
しおりを挟む1. 200m:魂の曲線
大会最終日。連日の激闘で、選手たちの疲労はピークに達していた。
午前11時30分、200m予選。
100m王者の涼賀と、100m2位の沙玖は格の違いを見せつけ、悠々と着順1位で通過。一方、2年生の奏人は格上の3年生たちに必死に食らいつき、予選タイム順でのプラス拾いで、執念の準決勝進出をもぎ取った。
しかし、午後1時の準決勝。奏人の組は全国レベルの強豪が揃う過酷なレースとなった。奏人は直線で必死の粘りを見せたものの、結果は7着。決勝へ進むことはできなかった。
「……すみません、ここまででした」
悔しさに肩を震わせる奏人に、涼賀が歩み寄る。
「謝るな。この準決の景色を忘れるなよ。決勝は、奏人の分まで俺たちが走る」
奏人は一度だけ強く目を擦り、
「……はい! 決勝、全力でサポートします!」
と、即座に身の回りの世話へと切り替えた。
午後2時、男子200m決勝。
結果は、涼賀が1位で三冠達成。沙玖も意地の走りで3位に食い込んだ。
掲示板に並んだ
1着 川瀬涼賀 21.34
3着 金本沙玖 21.45
スタンドでは拓海がその結果を、表情を変えることなく冷静に見つめていた。その瞳の奥には、友への確かな信頼が宿っていた。
2. マイルリレー招集:託されたバトン
午後4時、大会の最後を飾る「4×400mリレー(マイル)」の決勝。
桜須学院は、1走・小林春翔(2年)、2走・堀江絢太(3年)、3走・谷口昭美(3年)、そして4走に……100m、200m、そして4×100mリレー王者の涼賀という攻めのオーダーを組んだ。
招集所。専門外の400mを前に、涼賀は短く息を吐きながらスパイクを履き替えていた。そこへ、萌歌、沙玖、そして奏人が駆け寄る。
「みんな、これ。最後のエネルギー補給」
萌歌が手渡したのは、特製のスポーツドリンクだった。
「涼賀、400mあまり慣れてないと思うから、無茶はしないでね。……信じてるから」
「涼賀、俺たちの最後のバトン、頼んだよ。涼賀がアンカーなら何も怖くないさ。」
沙玖が穏やかに、しかし力強く涼賀の背中を叩く。
「先輩たち! 決勝頑張ってください!3日間の疲れなんて、僕たちの声援で吹き飛ばして見せます!」
奏人が全力の笑顔で激励すると、涼賀はふっと不敵な笑みを浮かべた。
4人はそれぞれの激励にこう返す。
「みんな、ありがとう。……最後、最高の結果で締めてやる」
3. 逆転の激走と、拓海の咆哮
競技場が最も沸くマイルリレー決勝。
レースは混戦を極めた。1走、2走、3走。抜かれ、抜き返し、順位が目まぐるしく入れ替わる激しい展開の中、桜須学院は5位前後でアンカーの涼賀へとバトンが渡った。
「……ここからだ」
スタンドからずっと見つめていた拓海が、わずかに前傾姿勢になる。
バトンを受け取った涼賀の走りは、まさに鬼気迫るものだった。100m、200mの覇者が、死力を尽くして400mの直線に挑む。第3コーナーから第4コーナー。前を行く3人を、一人、また一人と力でねじ伏せるように抜き去っていく。
「涼賀!!!!!ここからだ !!!!」
拓海の声が、スタンドの喧騒を突き抜けて涼賀に届く。その瞬間、涼賀の脚がさらなる回転を見せた。最後の直線、乳酸で鉛のように重くなった脚を意志だけで動かし、ゴール寸前でさらにもう一人をかわして2位に食い込んだ。
4. 閉幕:桜須の誇り
全競技が終了し、閉会式のアナウンスが流れる。
桜須学院高校陸上部は、男子トラックの部・第2位、そして総合第3位という輝かしい成績を収めた。
「みんな、本当にお疲れ様。……みんな、本当によく頑張ったね」
萌歌が涙を浮かべながら、賞状とトロフィーを手にする涼賀や沙玖を労った。由嗣と大夢も、誇らしげな表情で拍手を送る。
涼賀は、遠くでこちらを見つめていた拓海と視線を合わせた。
拓海はいつものように冷静な、凛とした姿勢のまま、短く一度だけ頷いた。
(おめでとう、涼賀。次は、俺の番だ)
その沈黙のメッセージを、涼賀はしっかりと受け止めた。
夕闇が迫る競技場。
やり切った充実感と、心地よい疲労感。
桜須学院陸上部の熱い三日間は、最高の形で幕を閉じた。
そしてその熱は、二週間後のプールサイドで待つ拓海へと、静かに引き継がれていく。
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