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第17話 双璧、それぞれの夏
しおりを挟む1. 北の大地、桜須の誇り
北海道、厚別公園競技場。
インターハイ陸上競技大会初日。サブトラックでは、桜須学院という看板を背負っている二人のスプリンターが最終調整を行っていた。
「涼賀、右の股関節のキレはどうだ?」
「問題ない。……沙玖、お前昨日から少し硬くないか?」
涼賀が問いかけると、沙玖はいつもの冷静な笑みを浮かべて答えた。
「全国の舞台だから多少の緊張はあるよ。涼賀の背中を追いかける準備はできている」
傍らでは、萌歌が陸上部マネージャーとして、二人の水分補給やアイシングに細心の注意を払っている。
「二人とも、桜須の看板背負ってるんだから。自信持って行ってきて!」
「先輩たち、絶対行けます!」
二年生の奏人も声を張り上げ、チーム桜須の雰囲気は最高潮に達していた。
2. 水面下の呼応
同じ時刻。高知の「くろしおアリーナ」。
拓海は、塩素の匂いが立ち込めるプールサイドで一人、静かに集中を高めていた。
拓海のLINEには激励などが多数来ていた。
(練習から今日までの計画は完璧だ。あとは俺が、水の中でそれを証明するだけだ)
拓海は、涼賀から託された「青いリストバンド」の感触を思い出していた。あの日、滝溝中時代に涼賀、大夢、萌歌らとで掴んだ大会新。今は競技が違えど、その絆が拓海の四肢に凄まじい推進力を与えていた。
「次はそっちだ」という涼賀のメモが、青い炎となって拓海の心を焼き続けていた。
3. 100m予選:10秒台への突入
北海道のトラック、男子100m予選。
涼賀と沙玖は別々の組で出場したが、互いの走りを食い入るように見つめていた。
先に走ったのは涼賀。「オン・ユア・マークス」の合図と共に、スタンドが静止する。
バァン!
完璧なスタート。県選手権のフライングを乗り越えた涼賀は、誰よりも鋭く地面を捉えた。中盤からの伸びは他を圧倒し、トップでゴール。
タイムは10.92で予選を突破。
続いて走った沙玖も、冷静な運びで11.05をマークし、組1着で予選を突破。ゴール後、二人は無言で拳を合わせ、桜須学院の強さを全国に知らしめた。
4. 準決勝の明暗
しかし、午後の準決勝。運命は残酷な一面を見せる。
別々の組に入った二人。1組目、涼賀が追い風を味方につけ、再び10秒台の好タイムで決勝進出を決めた。2組目に入った沙玖はスタート直後にわずかな重心の乱れが生じた。
必死に追い上げた沙玖だったが、0.01秒差で決勝進出の椅子を逃した。
「……あ」
掲示板を見上げ、沙玖がその場で悔しい表情を浮かべる。沙玖のもとに駆け寄る涼賀。
「沙玖、お前……」
「……完敗だよ、涼賀。お前にはやっぱり勝てないな。」
沙玖は悔しさを滲ませながらも、チームメイトとしての清々しい笑顔を見せた。
「僕の分まで、桜須の……いや、滝溝からの絆を見せてきてくれ。全国の頂点、獲れるのは君しかいない」
「ああ。……任せとけ」
涼賀は沙玖の想いをその肩に背負い、ついにファイナルの舞台へと足を踏み入れる。
学校の理科室では、大夢がスマホで二人の速報を確認し、静かに口角を上げていた。
「さて、次は僕の番かな」
三人の夏。それぞれの「最速」が、ついに最終局面へと突入する。
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