17 / 27
番外編 ツートップの原点(滝溝の軌跡)
しおりを挟む1. 保育園からの腐れ縁
今から三年前。二人がまだ滝溝(たきみぞ)中学校のジャージを着ていた頃の話だ。
涼賀は小学四年生から陸上競技を始め、中学でも短距離のエース街道を突き進んでいた。一方の拓海は、水泳の体力作りという目的で陸上部に入部。しかし、その天性の身体能力はすぐに開花し、気づけば二人は学校を代表する「看板コンビ」となっていた。
保育園の頃から毎日のように遊んでいた二人にとって、隣のレーンに相手がいることは、呼吸をするのと同じくらい自然なことだった。
2. 灼熱の通信陸上
中学3年の夏。全中(全国中学校陸上競技大会)への切符をかけた、運命の通信陸上大会。
全国大会参加標準記録「11.10」を突破しなければ、その先に道はない。
決勝の招集所。そこには後に桜須学院でチームメイトとなる、当時関村中の怪物と呼ばれた金本沙玖もいた。
「滝溝中のツートップか……。噂以上の気迫だね」
沙玖の言葉に、涼賀は不敵に笑い、拓海は無言でスパイクの紐を締め直した。
3. 三人の全国行き
"On your marks" ——
"Set" ——
パンッ!
号砲と共に飛び出した三人は、他を圧倒する加速を見せた。中盤まで三人が横一線に並ぶ大激戦。しかし、残り30mで涼賀と拓海がギアを一段階上げ、沙玖をわずかに引き離す。
「涼賀先輩! 拓海先輩!! 行けええ!!」
スタンドでは、当時二年生の奏人が身を乗り出し、当時選手としてやっていた萌歌と大夢が手に汗握りながら見守っていた。
ゴールラインを駆け抜けた瞬間、電光掲示板が揺れた。
• 1着:川瀬 涼賀(滝溝中) 11.00
• 2着:渡邊 拓海(滝溝中) 11.02
• 3着:金本 沙玖(関村中) 11.09
上位3名が11.10の壁を超える、ハイレベルなレース。会場は割れんばかりの大歓声に包まれた。
4. 抱擁と絆
「……やったな、拓海!」
ゴール後、涼賀は真っ先に拓海のもとへ駆け寄り、二人は力強く抱擁を交わした。
「ああ。……お前がいたから、出せたタイムだ」
拓海もまた、安堵の表情を見せ、親友の背中を叩いた。
その光景を少し離れた場所で見ていた沙玖は、激闘の疲れも忘れ、思わず笑みをこぼした。
(ライバルでありながら、心から互いの成功を喜べる。……なんて綺麗な絆なんだろう)
他校の選手ながら沙玖はこの瞬間、この二人と共に戦えたことを誇りに思い、同時に強烈に惹かれていた。この「絆」こそが、後の桜須学院陸上部の黄金時代の種火となったのだ。
5. そして現在へ
思い出の詰まったあの「11.00」と「11.02」。
あれから三年が経ち、二人は今、それぞれの道を歩んでいる。
涼賀は失格のどん底から這い上がるために。
拓海は水の中での「最強」を証明するために。
あの日、共に全国を決めて抱き合った二人の少年は、もういない。
今、そこにいるのは、言葉を交わさずとも魂でつながった、二人の孤独なトップアスリートだった。
インターハイへの遠征を目前に控え、涼賀は拓海から託された青いリストバンドを見つめていた。その青さは、あの日、全員で泥だらけになって掴み取った栄光の記憶を呼び覚ます。
三年前、十月上旬。涼賀、拓海、大夢、萌歌にとって中学最後となる県大会。
1. 激闘の個人種目
大会1日目・午前
男子200m・予選
2年生、濱田眞弘も含めた主力3人が出場。
・涼賀:3組1着 23.04
・拓海:7組1着 22.89
・眞弘:4組2着 23.09
全員準決勝へ
1日目・午後
200m 準決勝
・涼賀:1組1着 22.56
・拓海:2組2着 22.74
・眞弘:3組5着 23.01 準決勝敗退
「うわぁ……くそ……」
「眞弘、お前の分を拓海と一緒に走るから。」
「眞弘の準決勝、めっちゃ粘ってただろ。胸張れよ。」
眞弘の悔しさを、二人は真正面から受け止めていた。
200m 決勝
スタンド全体の空気が変わる。
“中学最強スプリンターを決めるレース”。
第3レーン 川瀬涼賀 滝溝
第6レーン 渡邊拓海 滝溝
それぞれアナウンスが入ると同時に
「涼賀!!!」「拓海!!!」とスタンドから部員全員の叫びに2人は冷静な姿勢で応えた。
"On your marks" ——
set " ——
パンッ!!
涼賀と拓海が抜ける。
200m特有の加速の伸び、コーナーの走力。
最後の直線——
涼賀が半歩だけ前に出て、
優勝:川瀬涼賀 22.19(僅差)
2位: 渡邊拓海 22.21
陸上部席、歓声爆発。
2日目・午前
男子100m・予選
秋の澄んだ空気の中、スタートラインに立つ涼賀・拓海・奏人。
滝溝中は、どのレーンでも目立つ存在になっていた。
100m予選
・涼賀:3組1着 11.21
・拓海:6組1着 11.24
・奏人:1組2着 11.43
3名とも余裕の準決勝進出。
「先輩たち、タイムえぐいですね……」
「まだ本気出してないし。」
「涼賀も悪くねぇよ。準決勝、集中するぞ。」
100m準決勝
・涼賀:3組1着 11.13
・拓海:1組2着 11.11
・奏人:2組5着 11.34準決勝敗退
奏人は目を伏せて悔しさをこらえていたが、
涼賀が肩に手を置く。
「奏人は来年、絶対優勝だ。」
「涼賀の言う通り。来年は奏人たちの年だ。」
「はい!来年は絶対優勝します!!」
奏人は2人のサポートに入る。
■100m 決勝
決戦。
スタートブロックには涼賀と拓海、
そして他校の強豪。
"On your marks" ——
Set——
パンッ!
涼賀が抜群のスタート。
拓海が徐々に並ぶ。
70m地点、完全に横並び。
部員席は総立ち。
——ラスト10m。
涼賀が再加速し、僅差でフィニッシュ。
優勝:川瀬涼賀 10.71(大会新)
2位:渡邊拓海 10.80
200mに続くワンツーフィニッシュ。
滝溝のベンチは崩れ落ちるように歓喜。
涼賀の大会新記録はスタンドを大きく沸かせた。
女子100m(萌歌)
予選
萌歌:2組2着 13.11——準決勝へ。
タイムは納得いってないけど、準決勝でリベンジ。
準決勝
力は出し切った。
だが届かない。
結果:2組6着 13.25——準決勝敗退
その背中を、男子たちは静かに称えた。
「よく頑張ったよ、萌歌。お疲れ。」
「最後の大会、出し切れてたと思うぞ。」
女子100mでは、選手の萌歌が予選を二着で突破。準決勝で敗退したものの、彼女の懸命な走りはチームに大きな勇気を与えた。
しかし、この大会の真のクライマックスは、最後に行われる男子4×200mリレーにあった。
2. 顧問・原田の「賭け」
予選は眞弘、大夢、稲垣(三年長距離部員)、奏人の構成で組1着。準決勝は眞弘、大夢、奏人、そしてアンカーに拓海を投入し、決勝進出を決めた。
だが、決勝のオーダーに全員が頭を悩ませていた。「どう組めば勝てるのか」。その時、顧問の原田が静かに口を開いた。
「一走、大夢が行くんだ」
「え……僕でいいんですか?」
動揺する大夢に、原田は力強く続けた。
「大夢、お前はこのレベルの高い三年間、腐らずによく頑張ってきた。お前のスタートに、すべてを託したい。思い切って走れ」
その言葉に、涼賀も拓海も、後輩の奏人も深く頷いた。
「大夢さん、行きましょう」
「お前ならできる」。
オーダーは決まった。
1走:坂上大夢(3)
2走:若林奏人(2)
3走:渡邊拓海(3)
4走:川瀬涼賀(3)
滝溝中学、最初で最後の「絆」のオーダーだった。
3. 逆転のバトン、滝溝の衝撃
涼賀は、隣レーンを見る。
関村中学アンカー 金本沙玖。
その瞬間、手が汗ばむ。
涼賀
(……沙玖、か。
こいつだけには、絶対に負けられない。)
拓海・奏人・大夢が声を掛ける。
「大丈夫。お前が最強だ。」
「信じましょ、涼賀先輩。」
「涼賀なら勝てる。」
決勝、第6レーン。アナウンスと共に「滝溝ー!!!」という部員たちの絶叫が競技場に響き渡る。
ピストルが鳴り、大夢が飛び出した。周囲の強豪に少し出遅れるものの、大夢は必死に顔を歪めてバトンを繋いだ。その想いを受け取った二走の奏人が爆走し、順位を三位まで押し上げる。
そして三走、拓海。
「涼賀に繋ぐ……っ!」
持ち前の水泳で鍛えた推進力を陸上で爆発させ、二位まで浮上。
アンカーの涼賀にバトンが渡った時、先頭の関村中・金本沙玖とは数メートルの差があった。沙玖の圧倒的なスピードを前に、涼賀の心に一瞬不安がよぎる。
だが、バトンを渡した三人の「大丈夫、信じろ」という言葉が背中を押した。
「沙玖を超える......!!!」
残り50m。涼賀の足が地を裂くように回転を速める。スタンドの歓声が地鳴りとなって響く中、ゴール直前で沙玖を鮮やかに逆転。
1位:滝溝中 大会新
4. 最高の表彰台
掲示板に刻まれた「大会新」の文字。部員たちはもみくちゃになって喜び合った。
表彰式、代表として表彰台に立ったのは大夢だった。
三年間、裏方として、そして選手として仲間を支え続けた大夢にとって、最初で最後の表彰台。賞状を受け取る彼の目には、こらえきれない熱いものが込み上げていた。
(現在)
「……あの時も、俺がアンカーで、お前が繋いでくれたんだよな、拓海」
理科室の窓の外、夕暮れのグラウンドを見つめながら涼賀は呟いた。
大夢は理科室でオリンピックに向けてペンを走らせ、萌歌は部室で遠征の荷物を最終確認している。
中学時代、同じユニフォームで抱き合った仲間たちは、今はそれぞれの場所で戦っている。
「行ってくるぜ。今度は、全国の頂点へ」
涼賀は左腕に青いリストバンドを巻き、力強く立ち上がった。
0
あなたにおすすめの小説
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる