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第16話 三つの頂(トライアングル)
しおりを挟む1. 理科室の熱烈な戦い
放課後の別館。グラウンドの喧騒やプールの水の音も届かない静寂の中で、大夢は部員らと複雑な数式と格闘していた。
「……ここを近似値で処理すれば、反応速度の予測が立つか」
大夢もまた、戦っていた。彼が目指すのは夏の「県科学オリンピック」。涼賀や拓海が身体を極限まで追い込むように、大夢は研究を極限まで研ぎ澄ませていた。
「大夢先輩、ここ、pHちょっとズレてません?」
「ほんとだ、ありがとう。そこ、再調整してくれる?」
「わかりました!」
後輩たちの声が飛び交う中、大夢はデータに目を落としながらも全体に目を配っていた。
「……温度データ、再確認っと」
小さく呟きながら、少しずつ調整をしていく。
テーマは『生分解性プラスチックの分解促進条件の研究』。
春から何百というデータを積み重ねてきた。
科学部のメンバーは、優秀と言われている大夢を尊敬しながらも、彼の優しい指導に心を許していた。
2. 陸上部、献身のサポート
一方、グラウンドでは萌歌がマネージャーとして、全国へ向かう陸上部全体のサポートに文字通り全身全霊を捧げていた。
「涼賀、こっちのドリンクはアミノ酸濃度を少し変えておいたから。奏人くん、アイシングの準備できてるよ!」
県選手権での涼賀の涙を見てから、萌歌の献身はさらに加速していた。涼賀だけでなく、共に全国へ挑む沙玖や奏人、部員一人ひとりの疲労度や精神状態を細かくチェックし、常に最高の練習環境を整える。
「……萌歌、無理しすぎるなよ」
涼賀が練習の合間に声をかけるが、萌歌は汗を拭いながら笑顔で首を振る。
「私のインターハイは、もう始まってるんだから。みんなを最高の状態でスタートラインに立たせるのが、私の仕事なの!」
涼賀はそんな彼女の気迫に背中を押されるように、奏人と共に無理のない範囲で、しかし一切の妥協を排した緻密な調整を続けていた。
3. 言葉なきエール
数日後、インターハイの出発が目前に迫った。
陸上部は北へ、水泳部は南へ。出発を控えた放課後、涼賀は大夢のいる科学室を訪れた。
「大夢。これ、拓海に渡しておいてくれ。あいつのクラスにはちょっと入りづらいし」
涼賀が差し出したのは、県選手権の際、自分を激励してくれた浅井選手のサインの横に、短く『次はそっちだ』とだけ記したメモだった。
「わかった。……それとこれ。拓海から、お前に渡してほしいと預かっている」
大夢が机の引き出しから取り出したのは、一本の使い込まれた**「青いリストバンド」**だった。
それは拓海が中学時代、陸上のリレーで涼賀と共に全国に出場した際に、二人で揃えて着けていたものだった。水泳に転向してからは一度も身に着けていなかったはずの、共通の記憶が刻まれた布。
「『俺は水の中で、お前がかつて見た以上の速さを見せる。お前もそっちで、あの人の隣に立つ準備をしておけ』……拓海からはそれだけだ」
涼賀はそのリストバンドを手に取ると、懐かしむように、そして強く握りしめた。
「……へっ、あいつらしいな。言われなくても、わかってるよ」
4. 決戦の地へ
夕暮れの校舎。
理科室の窓から、大夢が涼賀の背中を見送る。
涼賀はプールの建物には目もくれず、リストバンドをリュックに入れて校門を出ていく。
プールのシャワーの音が止まり、拓海もまた、一人で自分の道具をカバンに詰め終えていた。
三人がそれぞれの「頂」を目指して。
交わす言葉は少なくとも、その絆は分子レベルで強く結びついていた。
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