プレイヤーズゲーム 〜生徒たちの挑戦〜

モンモン

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第26話 亀裂の始まり

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1. 拓海、極限の静寂へ


水泳会場。男子100m自由形準決勝。
予選での涼賀の敗退を知った拓海の心は、激しく波立っていた。しかし、スタート台に立った瞬間、その波は氷のように冷たく、静かな集中力へと変わった。

(お前が走れないなら、俺が泳ぐ。……ただ、それだけだ)

"Take your marks..." ——

静寂。

パン!

鋭い反応で水に飛び込んだ拓海は、前半の50mから猛攻を仕掛けた。大夢の理論に基づいた「無駄のない抵抗の受け流し」に加え、今の拓海には涼賀の悔しさを背負った執念という火力が加わっている。
ターン後、隣を泳ぐ強豪たちが猛追してくるが、拓海のキックは衰えない。むしろ後半、水面を切り裂くストロークのピッチがさらに上がっていく。観客席からも、その驚異的な粘りにどよめきが上がった。
結果は全体3位通過。悲願の表彰台、そして頂点への王手をかけた。
プールから上がった拓海は、電光掲示板に表示された自分の名を見つめながら、遠く離れた大地でも、同じ空の下でも、親友がまだ戦っていることを確信していた。


2. リレーの喧騒と、届かないバトン

一方、陸上競技場。
岐阜県代表チームは、男子4×100mリレー予選を涼賀抜きで突破。そして続く準決勝、速報サイトと大型スクリーンに掲示されたオーダーに、再び涼賀の名前はなかった。

「……っ」

スタンドの隅で、涼賀は拳を強く握りしめた。
目の前でアップを始めるリレーメンバーたち。本来ならあそこに混じり、出場するメンバーとしてバトンパスの確認をしているはずの自分。しかし今の涼賀に与えられた役割は、リレーに出場するメンバーを応援するだけだった。

「涼賀、すまない。今はまだ、涼賀の足を休ませたいんだ」

総監督の言葉は、今の涼賀にとっては何よりも鋭い刃となって胸を刺した。

「……わかってます。俺なら、大丈夫ですから」

そう答える涼賀の顔は、秋の夕暮れよりも暗く、沈んでいた。


3. スタンドの葛藤

準決勝が始まった。

「行けーーーっ!」

「ファイト!!!」

岐阜の第一走者が飛び出す。涼賀は声の限り応援した。だが、心の奥底では、醜いほどの焦燥が渦を巻いていた。

(俺がいなくても、チームは回ってる。俺がいなくても、バトンは繋がってる……)

もし、このまま自分が走らずに終われば、それは自分というスプリンターの死を意味する。中学時代に大夢が支えてくれ、萌歌が見守り、拓海と競り合って磨き上げたこの脚は、一度も輝くことなく消えてしまうのか。

「……もう走れないんだろうな。恐らく……」

誰にも聞こえない声で、涼賀は呟いた。左足は依然として感覚を失ったままだ。しかし、その内側にある「走りたい」という本能だけが、ボロボロになった神経系を叩き続けていた。


4. 交錯する光と影

岐阜チームは、リレー準決勝もギリギリの着順で突破。ついに明日の最終日、決勝進出を決めた。
喜びを爆発させるメンバーたちの輪から少し離れた場所で、涼賀はただ、西の空を見つめていた。
同じ頃、拓海は控え室でスマートフォンを開き、リレーの速報を見た。

『岐阜、決勝進出。川瀬涼賀、出走なし』

「……涼賀。お前、本当に終わっちまうのか?」

拓海の呟きは、プールの湿った空気に溶けて消えた。
明日は最終日。
拓海は頂点を目指し、涼賀は存在意義を懸けて。
運命の幕が、静かに開こうとしていた。
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