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しおりを挟むイヴァン敗北を阻止する為には人間からの愛とその愛を正しく受け止められる清らかな心が必要だ。そして清らかな心を作る為には正しい情操教育が不可欠。
「イヴァン、絵本を読もうな」
「あい!」
そうだ、絵本読ませよう!って事で、毎日就寝前にイヴァンの部屋を訪れては私直々に物語を読み聞かせてやっている。
勿論おやすみのキスと抱擁で愛してるアピールをすることも欠かせない。因みにこれは朝と夜に一度ずつ行うようにしている。私の精神衛生上一日に二回が限界だ。
だからイヴァンが初めてハイハイしたり、立ったりしたときに滅茶苦茶キスと抱擁を求められたが断固としてしなかった。
そうしてイヴァンの褒めて褒めて攻撃を気づかないふりで躱していたある日。
その日も「あにうえ」と拙い発音で初めて私を呼んだイヴァンをスルーしようとしていたのだが、視界の端でイヴァンの瞳から急速に光が失われていくのを捉え、これはアカン!と咄嗟に頭を撫でてやってからはちゃんと反応するようになった。
頭を撫でるくらいのスキンシップだったら嫌だが出来ないこともないからな。嫌だが。
初めて頭を撫でてやった時、真っ暗なイヴァンの瞳が光で満ち溢れ、ぽろぽろと涙まで流していたから本当にあの時は闇堕ち危機一髪だったんだと思う。
私の仕草一つであそこまで心が乱れるとは思わなかったから大層驚いたし、少しの優越感のような感情が湧いてきた事に気付いた時は気持ち悪すぎて吐いた。
その日の絵本は王子様とお姫様のお話だった。それは二人が恋に落ち、なんやかんやで添い遂げるありきたりなものだったのだが、イヴァンはいたく気に入ったようで大層目を輝かせて聞き入っていた。
健全な心が育っているようで何より、と少し嬉しく思いながら、いつものように抱きしめて額にキスを送ってやった次の瞬間には屋敷中が薔薇で埋め尽くされ、何故か私は物語のお姫様と同じ格好をさせられていた。
屈辱すぎて血を吐くところだった。勘弁してくれ、私の高貴な喉が一日で爛れきるぞ。
そんなこんなで日々莫大なストレスと格闘しながらもイヴァンを世話して数年。
私は十二に、イヴァンは七つになった。
「兄上、本当に行かれるのですか」
「ああ」
そして今日、私は破茶滅茶に機嫌が良い。何故って?それは今日から王侯貴族御用達で全寮制の学園へ入学するからだ!
そう!全寮制!イヴァンと離れられる!!!
自分で決めたとはいえ、今までの朝晩二回の精神的拷問は大分キツかったからな。それがなくなるとなればもうお祭り騒ぎよ。
そして、この学園、お察しの通りゲーム本編の主な舞台である。
だがゲーム本編が開始するのは主人公やイヴァン達が入学する五年後からだ。よって、この先五年程は学園が私の楽園状態になるのだ。
もう早く入学したい。わくわくしすぎて早めに起きちゃったもん。今だってまだ全然入学式には時間あるけどもう家出ようとしてるもん。
見送りに来たイヴァンに阻止されてるけど。
もう何回も「本当に行かれるのですか(訳)行かないで」って言われてるんだ。ノイローゼになりそう。
だが私は心優しい兄なので根気強く「ぜってぇ行く」という意志を込めて応える。
やっとこさ私の意思を受け取ったのか、イヴァンはショックを受けた表情をした後、突然私の手を握り込んできた。
ひぇーっ!?ちょ、マジ無理、マジ無理。吐きそう。なんで私の許可を得ずに触ってきているのだ、この阿呆は…!
私の日頃のスキンシップは覚悟を決め、しっかりと心の準備をして行っているからギリ発狂していないのであって、お前から不意打ちで触れられると軽率にブチ殺したくなる。ま、出来ないんですけど。ははっ、血管逝きそ~。
ほら、見てコレ鳥肌。コレは冷や汗。コレは悪寒。
いくら世界最強の男と言えど兄に無許可接触する権限はないぞ。何故ならお前は私の弟で私はお前の兄だからだ。弟は兄の命令に忠実な生き物だってお祖父様が言ってた。
拒絶反応は気合で服で隠れている場所だけにとどめ、表情はにっこりと柔らか兄上スマイルで固定。
だがこれ以上ぎゅうぎゅう握られては私の血管がぶちぶちしてしまうので、やんわり、しかし確実に力を込めて手を引き抜こうとするも何故かびくともしない。
は?お前七歳だろう?魔法を使ってる形跡もないのに五つ上の私に力で勝つのか???
天に愛された人間ってフィジカルも化け物なんだ…。
「兄上、こちらを」
全くもって知りたくなかった新事実に心が萎れ、力が緩んだ私の手にしゃらりと何か軽いものが置かれる。
これは…
「ピアス?」
「どうか、肌身離さず付けて頂きたい」
きっと貴方を守る。
その言葉と共にパチパチと煌めく瞳を真っ直ぐに向けられてたじろぐ。
ああ、また魔力が溢れ出そうになっているじゃないか。昔からこいつはキラキラパチパチと鬱陶しいくらい私にばかりその瞳を向けてくるんだ。
「……」
イヴァンの視線から逃げるように手元を見れば、そこには信じられないほど高濃度の魔力が宿った宝石が埋め込まれたピアスがあった。
これは精霊の祝盃か?本当に存在するのか…。王国一魔法書を所有している我が家の書庫にさえ記載があるものはごく一部で、詳細もほとんど記されていなかったから伝説上のものだとばかり思っていたが。
きっとイヴァンにぞっこんな精霊達が嬉々として与えたのだろうな。
全く、精霊達はお前だからこそこんな伝説級の代物を贈ったのだろうに、まさか私のような者の手に渡されるとは思ってもみなかっただろう。
どうりで普段無関心な精霊達から私を焼き殺さんばかりの視線を感じるわけだ。
あーあ、精霊たちの機嫌を損ねてまで私に貢ぐなんて。
…うん、今は気分が良いな。気分が良いから、そら特別に、
「イヴァン、お前が私に付けろ」
少し屈んでやり、イヴァンの手を私の耳へと導く。
「ぁ…」
途端、顔を真っ赤に染め上げたイヴァンに益々気分が上向く。
「早く」
「…はい」
頬を染めるばかりで動かないイヴァンに焦れて促せば弱々しい返事とともに手が伸ばされる。
「んっ…」
「!?」
あまりにも柔い手付きでさわさわと耳を触られるものだから擽ったい。
どうせお前の魔法で穴を開けるのだから、そう何度も確かめずとも良いだろうに。
なにしろイヴァンの魔法は齢七つにして既に完成されきっているのだから。
「あまりベタベタと触るな」
「…………ゴメンナサイ」
苦言を呈せば何故かピタリと固まっていたイヴァンが何処か上の空で謝罪してくる。
…やっぱ心配になってきたな。万が一にでもこいつが失敗すれば、良くて私の耳が、悪くて頭が吹き飛ぶぞ。
そんな私の思いとは裏腹にイヴァンは殊更丁寧に、そして気持ち悪いほど正確にピアスホールを作り一国と同様の価値を持つであろうピアスを付けた。
これ自作だとよ。いつの間に錬金術もプロ顔負けレベルになっていたのやら。兄はお前が恐ろしくてたまりません。
「では、行ってくる」
「い、いってらっしゃいませ、兄上…」
イヴァンは何故か最後まで挙動不審だった。
「兄上えっちすぎないか…?」
「……お主に寵愛を授けたのは間違いじゃったかのぉ」
いや、だってわしの子らがきゃらきゃらと色めき立っておったし、わしとしてもかなり好みな魂だったし…。
やれやれ、イヴァンの兄上殿が憐れでたまらんよ。
アデンを見送った後、思わずというように零れ落ちたイヴァンの言葉と精霊王の嘆きは、弟の居ない学園生活に歓喜しながら馬車に揺られているアデンの耳に入ることはなかった。
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