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しおりを挟むなぜイヴァンが主人公たちに負けたのか。
記憶によれば圧倒的に優勢だったイヴァンをたった一撃で打ち負かした必殺技がある。
えーと、なんだっけ…ほら、あーラブラブ、『♡ラブラブエクスプロージョン♡』だったかな。なんでも真実の愛で結ばれた二人が使える伝説の魔法で、あらゆる闇を吹き飛ばすらしい。
……あまりにも馬鹿っぽすぎる。創造主の頭の程度が知れてしまって哀しい。
そんなものに負けたなんてあの化け物に初めて同情してしまいそう。…いや、普通に怒りが勝つわ。何負けてんねん。
そう、普通だったらこんな馬鹿げた魔法で打ち負かされるはずがないのだ。確かに強力な魔法だがこれは闇特攻で、闇属性だけでなく光属性も所持しているイヴァンに大きめのダメージを与えこそすれ、勝てはしない。ましてや殺すことなど夢のまた夢の夢の夢の夢の…とにかく不可能だ。
だが主人公たちの前にラスボスとして立ちはだかったイヴァンは闇に染まりきっていて光属性の片鱗すらその魔法から伺えることはなかった。
元々身の内に闇と光という相反する力を持っているのだ。中立な心によって二つの力を均一に保っていたが、何かの拍子にその均衡が崩れ、心が闇の方に傾いてしまったのだろう。
ならば闇に傾いたきっかけは何か。前世の記憶によれば、その化け物は大層愛に飢えていたらしい。満たされない、満たされないと嘆き続けてとうとう爆発してしまったんだと。
全く…天からの寵愛を一身に受けているというのに、それだけでは飽き足らず人間からの大きな大きな愛が欲しいと喚くなんて。
とんだ傲慢だな。誰がお前のような化け物を愛すというのか。…と言いたいところだが、アイツが闇に染まらず万全の状態で主人公達を完膚なきまでに叩きのめすためには、他者から愛を注がれることが必要不可欠だ。
こういうのは母が一番適任なのだろうが、母上はイヴァンが殺してしまったし、父上は論外だ。
洗脳なりなんなりして適当に見繕おうかとも思ったが、色々と規格外なあの男では壊してしまうかもしれない。そんなことになったら闇の方へ心がぐっと傾いてしまうだろう。
そうなっては本末転倒なので仕方なく私が与えてやることにした。
そうは言っても、あの化け物相手に聖母のような愛は注げそうにないので、表面上の取り繕ったものになってしまうが、まあバレなきゃ大丈夫だろう。
ようはイヴァンが自分は愛されていると思いさえすれば良いのだから。
しかし愛を与えるとは具体的に何をすればいいのだろう?私自身、愛を全く受けずに育ったわけではないのだろうが、シンプルに自分以外の人間にあまり興味がなかったので愛情を示す行動と言うのがいまいち分からない。
あー、取り敢えず誕生日パーティーはとびきり豪華にしてやろうかな。
その他となると…
「他者に愛情を示すにはどうしたらいいと思う」
「…は!?」
こういうのは実際に愛情深く育てられた奴に聞くのが一番だ。
その点、我が国の第一王子であらせられるリーグル殿下は甘ったれたガキだからな。母からの愛をふんだんに受けているだろうと思って。
「どうしてそんなこと、」
「いいから、早くしろ」
キョロキョロと目を泳がせて私にビビり散らかしていることが丸わかりな殿下は困惑するばかりで中々答えない。わざわざ王宮まで足を運んだのだから、早くしろ。
「……キスしたり、ハグしたりする、とか?」
「へぇ」
やっとこさ話したと思えば次の瞬間には頬をぼっと赤色に染め上げている。なんだコイツ。
「あ、あと優しく名前を呼んだりされるのも好きだ」
私の気の抜けたような返事に焦った殿下がそう付け足す。
う~ん、普通に嫌だな。誰が好き好んで自分の華々しい未来をぐっちゃぐちゃにした奴を甘やかすだろうか。…だがイヴァンをよしよし♡する事よりイヴァンが負ける方が何百倍も嫌なので我慢せざるを得ない。ハゲそう。
「ていうかお前大丈夫なのかよ!?」
「何がだ」
「いや、アンタの弟とか母君の事とか…」
「ああ。それなら問題ない」
「そうなのか?」
「私がいる。そう陛下にも伝えておいてくれ」
そう告げた私を呆けたように見つめてくる殿下にイラッとする。
なんだ?5歳児の私には公爵家を支えることなどできないとでも言いたいのか?ん?
舐めるなよ、5歳は5歳でもこの私だぞ。家のあれそれなど父上を洗脳して優秀な侍従にサポートさせれば全てつつがなく済む。
「帰る」
「え!?あ、ああ。」
用も済んだし早く帰ってアイツを甘やかさねばならん。私は嫌なことは早めに済ましてしまう主義なんだ。
家に帰って早々にイヴァンの居る部屋へと進む。
今イヴァンの世話は侍女たちがかわるがわる行っている。なにせ泣き声一つでバッタバタ倒れちまうからな。
侍女たちは世話をしては濃密な魔力の波動に意識を刈り取られ、目を覚ましては世話をして…というハードワークを強いられているのだ。可哀想すぎる。
目的の部屋にノックもせずに入れば、中にいた侍女たちが慌てたように駆け寄ってくる。
「アデン様!?」
「い、いけません!」
うん、とっても不敬。お前たちは何の権利があってこの私の邪魔をしようとするのかな。
ちょっとイラついたので侍女たちの口を失くせば煩わしい音がピタリと止む。
ゆりかごへ近づくときゃらきゃらとした笑い声がした。良かった、イヴァンは今ご機嫌みたいだ。
泣き出す前に早急に終わらせなければ。
風魔法で赤子をそっと持ち上げ腕に抱く。
「イヴァン、愛しい子」
そして柔らかな笑みを浮かべ、名を呼び、抱きしめた。額にキスも贈った。私の頭の血管は数本逝った。
…これくらいで良いだろうか。というか普通にこれが限界だ。ふ、と一つ息を吐き赤子に目を向ける、と。
「!?」
目を見開き、頬をぽぽぽっと染めた赤子がとんでもなくキラキラした瞳で私を見つめていた。
いや、本当に比喩ではなく滅茶苦茶瞳が煌めいているのだ。なんならパチパチといった音まで聞こえて…!?
「うきゃーぅ!」
ヤバい、これ魔力が溢れ出してるんだ!
そう気付いた瞬間には膨大な魔力が赤子の体を駆け巡り屋敷中を覆っていた。
魔法障壁の展開は間に合いそうになく、死を悟ったその時。
ぼふん!と破裂音のようなものがなって目の前が花々で覆い尽くされる。
「……はぁ!?」
状況が読み込めずにいると腕の中の赤子がきゃらきゃらとご機嫌に笑った。
そしてその赤子からはぽんぽんと純白の花々が絶えず量産されている。
……これは土魔法…?いや、イヴァンの魔法属性は闇と光のはず。……まさか!
溢れ出す花の内一つを手にとって鑑定する。そして私の予想は間違いではなかったのだと確信し、血の気が引く。
コイツは光魔法で『聖なる花』(捕獲難易度A)を大量に生み出しやがったのだ。光属性の魔法士が一年に一度、その力が最も強くなる太陽が燦然と輝く日にのみ生み出せるという超希少な魔法植物を。
信じられない気持ちで赤子を覗けば、魔力を一気に使って疲れたのかすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。
「はぁぁぁぁ………」
もう、なんか本当に疲れた。
少なからず赤子は私からの抱擁やキスに喜んでいるみたいだったし、愛情はうまく伝わったのではないだろうか。
うん、取り敢えず今日はもう寝る。これ以上脳に負荷をかけたら全ての血管がぶち切れてお陀仏してしまいそうだし。
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