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1.目覚め
しおりを挟むおはよう、諸君。最近万物の頂点から引きずり下ろされた男、アデンだ。
もうまぢ無理。弟があんな化け物だなんて誰が思おうか。生まれた瞬間から私を超えやがったのだ、アイツは。
私ははじめ、赤子の持つ圧倒的な魔力に、間違って竜が産まれてきたのではとすら思った。
父上や周りの大人達なんかは赤子を悪魔とかそういう類のものだと判断して殺そうとした。
でも殺せなかった。まだ目も開いていないような赤子を、だ。
赤子の首目掛けて振り下ろした剣は何かに阻まれたように通らず、折れた刃は処刑人の喉笛に突き刺さった。
水瓶に沈めた日には王国中が大洪水に見舞われたし、赤子は死ななかった。
火で炙っても無傷、崖から突き落としても何故か下から吹き上げた突風に乗って帰ってくる。
それならばと赤子を地下牢に閉じ込め、一切の世話を禁じた。
そして一週間がたった頃。そろそろ死んだだろうと判断した父上が衛兵に確認するよう命じた。
「……せ、精霊!?」
果たしてその牢獄には赤子の亡骸ではなく、決して人に懐かぬはずの精霊が赤子にミルク代わりの精霊花の朝露(捕獲難易度S)を与え、育てている光景が広がっていた。
その事を衛兵から報告を受けた時、私は心労でぶっ倒れたし、父上はとうとう気が狂ってしまわれた。
父上は精霊の祟りを恐れ、今までとは打って変わって赤子をそれはそれは丁寧に育てさせるよう家の者に命じた後、部屋に引きこもって出てこなくなった。
そして私も、倒れている間に前世の記憶が蘇るという不思議体験をした。
母は腹を突き破られるわ、父は気狂いになるわ、挙句の果てには前世を思い出すなんて…。本当にあの赤子に関わると禄なことが起きない。
まあ前世の記憶が戻ったと言っても当時の人格はとっくに死んでいるから今の私に一人分の記憶が追加されただけだし、両親と比べれば随分軽い後遺症で済んだのではなかろうか。よかったー。
うん、ごめん全然良くないわ。だって聞いてよ、ここどう考えたって前世の記憶の中にあったBLゲーム『愛は世界を救う』の世界なんだもん…!
は?馬鹿を言うんじゃないって?私だって馬鹿げてると思ったし、前世の記憶自体が脳の異常なんじゃないかと疑いもしたさ!
でも違ったんだ…。私の鑑定が、優秀な魔法力がこれを否定したんだから。ハイパーな魔法士は魂云々も割と分かってしまうんだよ。
そして肝心な前世の記憶に関してはクソつまらなかったの一言に尽きる。
あまりに平々凡々としすぎていて本当に前世の私なのか信じられなかったし、信じたくなかった。愚鈍すぎて虫酸が走る。が、コイツがたった二十年とそこらしか生きていなかったお陰で私は数日寝込む程度で済んだ。そこは褒めてやろう。グッジョブ、前世の私。
多分前世の私が100年近く生きて大往生していたら脳が記憶を受け止めきれずに死んでいただろう。
ああ、いや、そんなことは割とどうでもいい。問題はこの世界が前世でプレイしていた『愛は世界を救う』とかいうB級BLゲームであるということだ。
何故そう思うのか?舞台となる学園は我が国で最大、貴族御用達の学園と同じだし、作中で出てくる国名もこちらの世界と合致する。
そして何より攻略対象のキャラクターに見覚えある奴がちらほらいた。我が国の第一王子とかな。だいぶ美化されていた気はするが。あんなキリッとしてないけどな。前に会ったときなんて私にビビってクソ汚い顔で泣き喚きやがったし。
そんでこれが一番重要なんだが、そのゲームの中にはイヴァン=チャイルス…そう、あの赤子が居るのである。攻略対象ではなく、作中で最強のラスボスとして。
それを知った時妙に納得がいった。あの化け物はこの世界の創造主が創り上げた最強のキャラクターだったのだ、と。
因みにゲーム内の私はイヴァンが産まれたその日にアイツの産声によって死んでいた。雑魚すぎる。
そんな私が何故神の子と言われるほどの力を持っているのか。多分、転生特典なんだろう。異世界系のライトノベルでお決まりの現象。私の記憶の中にもバッチリ存在していたぞ。
まあそんな俺TUEEEE出来るほどの力を授かった私でさえ超えることが出来ない程の化け物がイヴァンなんだけどな。
本当に悍ましい、憎らしい、妬ましい。
そう、本当にあの子は化け物なんだよ。生まれながらにして万物の頂点に立つ男。この私を引きずり下ろした男。
でもね、そんな男が殺されてたんだ。私の記憶のゲームの中で。聖なる力を持つ少年とそいつに選ばれた攻略対象の手によって。
…………全くもって納得がいかない。あり得なさすぎて体中の血管がブチギレそうだ。
あんな奴らと聖者ごときにあの化け物が殺されるなんて冗談じゃない…!生まれた瞬間から俺を凌駕したアイツが俺の足元にも及ばない様な奴らに負けていいはずがないだろう!人類の中で私の上に唯一存在する男が!私を頂点から引きずり下ろしたあの男が負ける事など断じて許されない、許さない。たとえそれがこの世界のシナリオで、覆しようもない事実だとしても。それだけは許さない。
絶対に阻止してみせる。
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