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第8話 静かな木陰の中

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「なんとか、重い処罰は免れたね」
「――ああ」

放課後。2人で一緒に、例の池のある森にやってきた。相変わらず静かだが、今の2人にはちょうどよかった。
あの後、校庭でシアンが時間を巻き戻し、事件の起こった現場を先生方に見てもらった。そこではっきりとリコリスがダリアに向かって小石を投げているのが確認された。
ハイドランジア校長はそれでもシアンが悪いとグダグダ言っていたが、ダリアのことを気に入っているFクラスの担任の先生を初めとする諸先生方がリコリスの非を認めてくれたため、罪は相殺と言う事になった。
そうしてくれなければシアンと一緒にダリアも学校を辞めると言ったのも効いたのかもしれない。
「よかったわ。リコリスなんかのせいでシアンが学校から追われるなんておかしいもの」
「別に俺は構わないけど」
「何? じゃあ余計なお世話だった?」
ダリアとしてはかなり戦ったつもりでいたので、シアンがなんとも思ってくれないのかと思うと、少しばかり不満だった。
ダリアの横で寝転がっているシアンは、指先に止まった蝶を眺めている。
「あまり俺に関わらない方がいい。今回だって、俺を庇ったばかりに面倒に巻き込まれてるじゃないか」
「それはーーそうかもしれないけど。でも私はシアンのこともっと知りたいし、仲良くしたい」
なんだかんだ、今回の件で少しでも距離が縮まったような気がして、ダリアは嬉しかった。
が、気になることを思い出し、ググッとシアンに詰め寄る。
「それにしてもあなた時間干渉の力も持っているの? その適性を持っている魔術師はかなり少ないというのに。
それに、まだ本格的な授業も始まっていないのに、魔法を使って突風を起こしていたわね? 一体どういうこと?」

今の段階で習っているのは、歴史や魔法理論、軽い物理干渉系の魔法の演習くらいだ。風や火など、要素を扱い、そこにないものを生み出すような魔法はこれから始まる。
さらに、時間干渉系魔法は先天性の要素が強く、通常ならその才能がある者は専門の魔術学校に通うはずだ。アルカディアは物理系魔術専門の学園である。

「だからお前らとは違うって言ったろ。俺は別に学校で何かを習いたい訳じゃない。
ただ行くあてもないからここに引き止められてるだけだ。
だから、俺は退学になっても問題ない。むしろ俺を手元においておかないとあいつらにとっては不利になるだけで」
ふう、と一呼吸入れたシアン。長く喋るのに慣れていないようだった。
「ーーさっきだって、スパイダーの手前だからきついことを言っただけで、俺を退学にする権限なんてあいつらにないよ」
「あなたは何者なの? どうしてそんなに色々できるの?」
シアンはただの首席ではないらしい。いつも名前を非公表にしているのも、何かがあるためかもしれない。なんだか学園の裏側を覗くような気がした。
「さあな。前世でとんでもないことをしたんじゃないか」
「もう、そうやってーーでも素晴らしいわ。もっとみんなにアピールしてもいいと思うのに」
フンと、シアンはわずかに口角をあげた。ダリアもニコッと笑い、伸びをしてシアンの隣に寝転がった。

木々が揺れる音が爽やかで心地よかった。そして何より、隣にいるシアンのことを思うと、胸が高鳴った。頬がわずかに暖かくなる。喋ろうとしたら、いつもより高い声が出た。
「ねえシアン、今度一緒に遊びに行かない?」
「はあ? なんで」
「なんでって、お友達なら遊びに行っても普通でしょう」
「俺はお前と友達になったつもりなんかねえよ」
「いいでしょう? それとも忙しいの?」
「――はあ」
ダリアはひまわりのようにニッコリ笑った。シアンは意外と押しに弱いところがあるのだと掴んだからにはこちらのものだった。

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