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三つの手紙と五つの嘘
三章『雨中の告白――奏』
しおりを挟むその姿は響を映した鏡だった。
けれど、その瞳の奥にあるのは別の物語を求める、切実な魂の模様だった。
「木崎……奏さん?」
奏さんは、何かを言いたげな様子で先輩をじっと見ている。わたしの事は眼中にないかと思えば、視線がじわりとこちらを探った。慌ててわたしは、先輩の後ろに身を寄せた。傘が触れ合って、水滴が弾けた。
「あの手紙をね……出したのは私……」
唐突な告白だった。
奏さんはレースの傘を回しながら、囁き声で告げた。その仕草はカスミソウを回す響と重なった。
目を伏せた先輩の指先が、乱れた髪をそっと撫で続ける。
衝撃を受けたのはわたしだけで、先輩はこれを予期していたのだろうか?笑顔なのに、目は笑っていない奏さんは続ける。
「明日はね、詩がきっと伺うわ……」
その予告は、わたしの胸の奥に冷たい針を突き刺しながら、もっと大きな痛みを予感させた。
「どうして、こんな事を言うと思う?」
先輩は、まっすぐに奏さんを見つめたけれど、何も言葉にしない。
「もちろん、これも全部嘘で……手紙に書かれた嘘つき、それは私かもね?」
奏さんは傘の影に表情を隠し、低く落ち着いた声を響かせた。
「あなたにね……雪乃さん。私の想いを解き明かして欲しいのよ。推理……好きって、そう聞いたから」
それだけを言うと、ツインテールを指に絡ませながら、奏さんは水たまりに足音も立てずに立ち去った。
その仕草は、驚くほど響とそっくりだった。
けれどその後ろ姿は、胸の中の引き裂かれそうな痛みを、必死に押さえているようだった。
奏さんの衝撃の告白の帰り道、隣を足音もなく歩いていた雪乃先輩は急に口を開く。それは、今回の奇妙な三つ子とは関係ない話題だった。
「雲が低いね、本格的に雨続きになっちゃうかな」
先輩は耳にかけた前髪を払った。
わたしは、先輩の髪に触れたい衝動を、胸の奥に押し込めた。伸ばしかけた手を引き戻すと、ブラウスの襟を整えた。わずかに袖が水滴を受ける。その染みはわたしの心の中の邪さのようだった。
「雨は嫌いじゃないの。カフェではテラス席に行くのが好き。いつの間にかね、好きになってた。いつからだろう?」
独り言のような、先輩の独白。その言葉に胸を射抜かれてしまった。遠い目をした横顔は、霞のように儚くて、梅雨空と共に消えてしまいそうだった。
さっきまでの張り詰めた雰囲気は、もうなくなっていた。
気づくと、住宅街に入る路地が目の前だ。
大きな道路をつなぐ歩道橋の分かれ道。先輩との下校もここまでだ。わたしは中学の時も、この歩道橋を使っていた。毎日一人で、ここから見る夕日が好きだった。でも、先輩と帰るようになって、この場所が少し寂しくなってしまった。
一人がいいと思う時も多いけれど、やっぱり一人は嫌だな、そう思ってしまう。
三人も、同じ気持ちなのかもしれない。
「また明日!」
一礼をして歩道橋に足を向ける。
「また明日ね」
先輩は普段と同じ声、同じ笑顔でわたしを見つめている。あの夕暮れの日以来、二人の関係はほとんど進展していないと気づく。
そもそも進展するような、関係じゃない。
わたしと先輩はただの友達なんだから。
でもわたしは、どうしても――そうしたくなった。
振り返って、先輩の手を握った。
歩道橋の階段を一段飛ばしで駆けあがって、上から小さく手を振った。ここからだと距離があって表情がよく見えないから。雨に反射した車や街灯が、雲間の光がわたしの心を隠してくれた。
けれどその瞬間のぬくもりを、このロザリオと共に、ずっと胸にしまい込んでおこうと決めた。
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