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赤りんご青りんご事件~名前のない色
二章『放課後、秋のひだまり――Ocre doré(黄金色の黄土)』
しおりを挟む黄金色のひだまりが、どうしてこんなに切ないんだろう。胸の奥に重たい影が落ちていた。
食堂はやわらかく包み込むように暖かい。
先輩のために頑張って確保したソファ席には、わたしの望んでいた二人きりの時間は訪れなかった。
わたしの気持ちを察してか、雪乃先輩は、左手でごめんなさいのポーズを取った。
天目先輩は、ようやく落ち着ける場所に安心したのか、安心した表情を浮かべていた。
メモ帳を取り出すと、何かを真剣に書き始めた。
色の名前だろうか?文化祭用の資料かもしれない。
未開封の花柄シールが、ページの端から顔を出す。
それを見ながら、またメモ帳へと向かう。
雪乃先輩と百瀬先輩は、りんご談義に花を咲かせている。
「今度は演劇部の助っ人?」
雪乃先輩は急に話を切り出した。
「あら、雪乃、相変わらず勘がいい子ね」
髪を掻き上げながら、余裕のある微笑を浮かべて百瀬先輩はそう言った。一瞬、訝しむような表情が浮かんだ。
「白雪姫から着想を得た、創作演劇なんてやるらしくて、ね。人が足りないから、お声がけいただいたのさ」
「もう日もないのに、急に言われて、困ってしまったよ」
白雪姫の翻案……気になるけれど、会話には相変わらず混ざれない。
「でも、頼まれたからには、ちょっとでも役に入っておきたくて。うるさくしてすまなかった」
百瀬先輩は謝った。
「あなたは普段から芝居がかった人だけれど――ごめんなさい、悪口じゃないのよ」
「いつもより、さらにそう見えたものだから、なんとなくね。舞台にでも出るのかなって思っただけ」
雪乃先輩は親しそうな口ぶりで続けた。
「考えてみたら、文化祭があなたを放っておくはずがないわね。千里さん、あなたが出るなら見応えがありそう」
赤いりんごを見つめながら話す雪乃先輩の方が、白雪姫のようだった。言葉を紡ぐ薄紅色の唇は、桜の花びらのように艶やかだった。
けれど、その表情はどこか物思いに耽っていた。
そうすると、百瀬先輩はさしずめ、王妃様だろうか?
天目先輩の心を覗くような視線に気づいて、わたしは慌てて会釈を返した。
雪乃先輩は百瀬先輩に負けず劣らずの女優ぶりで顎に手を当て、流れるように話を続ける。
「千里さんと椿姫さんは今、大作に取り掛かってるんでしょ?油絵?」
「P100だいたい160×130cmくらいだよ」
「力を入れて描きたくって」
「文化祭も難儀なものだね、毎年あちこちから声がかかるから。でも、椿姫と一緒に競い合えるからね」
「わ、私も同じサイズで描いてます……」
天目先輩が、座ってから初めて口を開いた。
その言葉は意外にも、百瀬先輩に対抗するものだった。自己主張が強いタイプには見えないけれど、美術に関しては負けない。そんな自負があるのだろうか。
見た目ほど、気弱ではないのかもしれない。
「そう、椿姫は部長だし、部で一番大きいサイズ、僕と同じでね。なのに進行も一番いいんだよ」
「あ、そういう意味じゃないけど……」
「一番好きなサイズなの、描写がちょうど良くなるっていうか」
「製作中の作品って……見てもいいものなのかしら?私、すごく興味があって」
そう言いながら、雪乃先輩は頭の中で絵のサイズを考えているのか、百瀬先輩越しに、食堂の柱の一角をじっと見つめていた。
「普段、椿姫以外の部員には見せないんだけれどね、雪乃なら歓迎だよ」
「僕のはまだこれから、ってとこだから、ちょっと恥ずかしいけれどね。せっかく来てくれるなら、モデルになって欲しいくらいさ」
千里先輩の言葉は、秋風が運ぶ秘密の手紙のようだった。
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