29 / 72
赤りんご青りんご事件~名前のない色
三章『美術部への嫌がらせ――Dove Gray(鳩の羽のような)』
しおりを挟む「こんなところにいらしたんですね。大変なんです」
事件はいつも静かに訪れる。鳩の羽のようにひそやかな影を落として。
美術部員が飛び込んできて、室内の空気が張り詰めた。近くの生徒が振り返る。
「学食なんだから、ちょっと声を下げようか」
百瀬先輩は穏やかに嗜めた。
「え、えっとですね絵の具のラベルが……」
美術部員は周囲を気にして声をひそめて伝えた。
「また嫌がらせかい?」
その言葉に雪乃先輩の目が、一瞬光った気がした。
「そうなんです」
話しながら頷きを繰り返す。
「わかったよ、すぐ戻る」
「は、はい、お願いします……」
鷹揚な態度の百瀬先輩に部員は肩を落とし、何度も振り返り学食を後にした。
「失礼したね。何の話だったかな?ああそうか、部への訪問か。雪乃、必ず来てくれ」
「約束だよ」
一拍置いてから
「もちろん君も。一緒にね」
百瀬先輩は、わたしの方を見ると、お付きの従者に申し付けるように告げた。
「ぜひ二人で伺いますね」
雪乃先輩がそう応えてくれた。
「美術室なら椿姫もたくさん話ができるからね」
天目先輩は部室での事件が気がかりなようで、不安げに何度も百瀬先輩の袖を引いた。百瀬先輩は、からかうように、黒髪をひと撫ですると、にこりと笑った。
「さて、僕たちも早く戻らないとな」
「部室に来てくれた時、雪乃に相談したい事もあるんだ。まあ、君ならもう察しているかな」
「椿姫、先に戻っていてくれるかい?君がまず確認しておいてくれよ」
部外の人間への口の軽さに、不満そうな天目先輩。それでも、部が気になるようで足早に去っていた。
ひらひらと手を振りながら、ファンサービスをかかさずに食堂を後にする。
籠に積まれた赤と青のりんごが、二人の余韻のように残っていた。
「青りんごって、どう考えても緑ですよね」
頭の中の余計な考えが、つい口をついてしまう。
「ほら、何してるの?今日は事件のまとめをするって話でしょう?」「せっかく学食まで来たんだから、早く早く」
あきれた様子の先輩。
「先輩がさっきまで、おしゃべりに夢中だったんじゃないですか」
まとめの時間が減ったのは先輩なのに、そんな思いが口をついた。
「バレちゃった?」
「ごめんなさい。ここからは二人だけの時間だから」
先輩はわたしだけに届けるように囁いた。わたしは照れ隠しに、先輩に答えた。
「今の季節は、学食のこの席がいいんです。西陽がポカポカで。世界が全部……赤に染まって綺麗で」
「お茶がティーバッグなのはちょっとって、思いますけど」
司書室の、香り豊かな紅茶を思い出す。
わたしは、鞄からノートと資料を取り出した。
どの話からまとめましょうか。
「三つの手紙からにしますか、それとも桃の種六つ?」
「湖上の花棺も軽くなら出せますよ」
お気に入りのペンを握り直し、先輩に日が当たるように移動する。
雪乃先輩は、体が触れ合う距離に身を寄せて、横から覗き込んでくれた。
どの事件から読むか考えているようだった。
午後の光を浴びた髪が、わたしの頬にかすかに触れた。その輝きが目に飛び込んでくる。
少しの眩しさと、その微かな温度でわたしの心は満たされていくのだった。
0
あなたにおすすめの小説
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて
千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。
そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。
夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。
それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。
ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。
ハッピーエンドになるのでご安心ください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる