[第一巻完結!]清心館女学院の探偵事情~銀髪の名探偵『日ノ宮雪乃』謎は解けても恋は解けない~

水星 透

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赤りんご青りんご事件~名前のない色

三章『美術部への嫌がらせ――Dove Gray(鳩の羽のような)』

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「こんなところにいらしたんですね。大変なんです」

事件はいつも静かに訪れる。鳩の羽のようにひそやかな影を落として。

美術部員が飛び込んできて、室内の空気が張り詰めた。近くの生徒が振り返る。

「学食なんだから、ちょっと声を下げようか」

百瀬先輩は穏やかに嗜めた。

「え、えっとですね絵の具のラベルが……」

美術部員は周囲を気にして声をひそめて伝えた。

「また嫌がらせかい?」

その言葉に雪乃先輩の目が、一瞬光った気がした。

「そうなんです」

話しながら頷きを繰り返す。

「わかったよ、すぐ戻る」
「は、はい、お願いします……」

鷹揚な態度の百瀬先輩に部員は肩を落とし、何度も振り返り学食を後にした。

「失礼したね。何の話だったかな?ああそうか、部への訪問か。雪乃、必ず来てくれ」

「約束だよ」

一拍置いてから

「もちろん君も。一緒にね」

百瀬先輩は、わたしの方を見ると、お付きの従者に申し付けるように告げた。

「ぜひ二人で伺いますね」

雪乃先輩がそう応えてくれた。

「美術室なら椿姫もたくさん話ができるからね」

天目先輩は部室での事件が気がかりなようで、不安げに何度も百瀬先輩の袖を引いた。百瀬先輩は、からかうように、黒髪をひと撫ですると、にこりと笑った。

「さて、僕たちも早く戻らないとな」
「部室に来てくれた時、雪乃に相談したい事もあるんだ。まあ、君ならもう察しているかな」

「椿姫、先に戻っていてくれるかい?君がまず確認しておいてくれよ」

部外の人間への口の軽さに、不満そうな天目先輩。それでも、部が気になるようで足早に去っていた。

ひらひらと手を振りながら、ファンサービスをかかさずに食堂を後にする。

かごに積まれた赤と青のりんごが、二人の余韻のように残っていた。

「青りんごって、どう考えても緑ですよね」

頭の中の余計な考えが、つい口をついてしまう。

「ほら、何してるの?今日は事件のまとめをするって話でしょう?」「せっかく学食まで来たんだから、早く早く」

あきれた様子の先輩。

「先輩がさっきまで、おしゃべりに夢中だったんじゃないですか」

まとめの時間が減ったのは先輩なのに、そんな思いが口をついた。

「バレちゃった?」
「ごめんなさい。ここからは二人だけの時間だから」

先輩はわたしだけに届けるように囁いた。わたしは照れ隠しに、先輩に答えた。

「今の季節は、学食のこの席がいいんです。西陽がポカポカで。世界が全部……赤に染まって綺麗で」

「お茶がティーバッグなのはちょっとって、思いますけど」

司書室の、香り豊かな紅茶を思い出す。
わたしは、鞄からノートと資料を取り出した。
どの話からまとめましょうか。

「三つの手紙からにしますか、それとも桃の種六つ?」

「湖上の花棺も軽くなら出せますよ」
お気に入りのペンを握り直し、先輩に日が当たるように移動する。
雪乃先輩は、体が触れ合う距離に身を寄せて、横から覗き込んでくれた。
どの事件から読むか考えているようだった。
午後の光を浴びた髪が、わたしの頬にかすかに触れた。その輝きが目に飛び込んでくる。

少しの眩しさと、その微かな温度でわたしの心は満たされていくのだった。
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