34 / 72
赤りんご青りんご事件~名前のない色
八章『グレーズ技法――Le Solvant(溶剤)』
しおりを挟む「ああ、これか」
百瀬先輩はため息をついて、絵の具を手に取った。
「美術部への嫌がらせ、君も知っているだろう?」
「あの件でね、椿姫が僕のもこんなふうに可愛くしちゃったんだよ」
「今回は新しい色を取り入れようと、買ったばかりなのに」
百瀬先輩は、肩を竦めた。
「千里ちゃん、ちょうど可愛いシールあるから、二人だけのお揃いにしよ」
「なんておねだりされたら、断れないだろ」
「それがこの有様さ」
百瀬先輩は気にしていない様子で笑い、続けた。
「この子は意外といたずら心があるんだよ」
「僕の事を好きすぎるだろ?」
文句なのか、のろけなのか、わからない口ぶりで百瀬先輩はそう言った。
「……不思議な貼り方、わざと? 白薔薇が二本――それに、ひまわりも?」
雪乃先輩の言葉の意味が、わたしにはよくわからなかった。
天目先輩は言いかけた言葉を飲み込み、目をそらした。
頬を染めて制作に戻ったその横顔には、どこか落ち着かない影が差していた。
「ところで、嫌がらせの件。犯人はわかった?」
「ふふ、やっぱりそれがいちばんの目的かな?名探偵くん」
「ところが、全然わからなくてね」
「変な事と言えば、剥がされたラベルは綺麗にゴミ箱に捨てられていたんだよ」
「実に丁寧な嫌がらせ犯もいたものだ。そう思わないかい?」
「椿姫もそう思うだろ?」
百瀬先輩は笑いながら絵に向き直ると、花柄のチューブを見つめた。二人のそばを離れた雪乃先輩は部屋の隅、わたしの隣に腰掛けた。
「私も選択科目は美術にすればよかったな」
片手をパレットに見立てて絵の具を混ぜる仕草をし始める。何をやっても絵になる人ではあるけれど、特に絵画は似合いそうだ。
「雪乃先輩、絵はどうでしたっけ?」
何もない空間に、頭の中の名画を描き始める雪乃先輩に聞いてみた。
「全然ダメ」
急に現実に戻されたようなそんな困った笑い顔をして、首を振る。日の落ちた教室に、鉛筆と絵筆の音だけがこだました。雪乃先輩と、隣同士でお互いをモデルに絵を描き合う。そんな妄想を思い浮かべた。
百瀬先輩はパレットを見つめ、眉間に皺を寄せてため息をついている。
再び、どちらの色がいいと思う?
天目先輩と小声でそんなやり取りをする様子だけが、聞こえた。真剣な様子でそれを眺めていた雪乃先輩は、唐突に立ち上がると
「少し用事を思い出しました。今日は帰りますね。ありがとうございます」
邪魔にならない声で告げると一礼した。
「モデルを引き受けてくれて助かったよ。みんなもお礼を」
百瀬先輩に促され部員たちは立ち上がると、お礼の言葉と共に深々と頭を下げる。美術室を後にする先輩。わたしも深く一礼をしてから慌てて追いかける。
図書室に戻る途中で、買い出しに出る級友に捕まった。先輩が止めてくれると思ったのに、笑顔で送り出されてしまった。
振り返る。夕暮れの校舎。
司書室に先輩の姿はなかった。
わたしが雪乃先輩と言葉を交わすことができたのは、次の事件が起きてからだった。
文化祭前、騒ぎの起きた美術室で。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
名もなき春に解ける雪
天継 理恵
恋愛
春。
新しい制服、新しいクラス、新しい友達。
どこにでもいる普通の女子高生・桜井羽澄は、「クラスにちゃんと馴染むこと」を目指して、入学早々、友達作りに奔走していた。
そんな羽澄が、図書室で出会ったのは——
輝く黒髪に、セーラー服の長いスカートをひらりと揺らす、まるで絵画から抜け出したような美しい同級生、白雪 汀。
その綺麗すぎる存在感から浮いている白雪は、言葉遣いも距離感も考え方も特異で、羽澄の知っている“普通”とは何もかもが違っていた。
名前を呼ばれたこと。
目を見て、話を聞いてもらえたこと。
偽らないままの自分を、受け入れてくれたこと——
小さなきっかけのひとつひとつが、羽澄の胸にじわりと積もっていく。
この気持ちは憧れなのか、恋なのか?
迷う羽澄の心は、静かに、けれど確かに、白雪へと傾いていく——
春の光にゆっくりと芽生えていく、少女たちの恋と、成長の物語。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[完結]
(支え合う2人)
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる