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放課後密輸事件
一章『運命論者』
しおりを挟む『人は生を選べない。ただ、それをどう生きるか選ぶだけ』 ゲーテ『ファウスト』より。
事件が始まったその日、わたしはまだ、その意味を知らなかった。
物語の扉が開かれたのは、街で囁かれる犯罪の相談からで――
「会長、それは明らかに問題ですよ」
「だから、データとの齟齬があるんだけど……暁希?」
「まだ調査前の段階で、データだけで判断するのは、らしくないですよ。犯罪ならなおさら慎重にならないと」
扉越しの声は、いつもと違う張り詰めた響きを帯びていた。
慌ただしく過ぎ去った文化祭の事件、その余韻が残る放課後。
扉越しに見える影は、雪乃先輩、生徒会長と副会長、そしてもう一人、知らない生徒だった。
扉に触れた瞬間、ひんやりした感触が指先に伝わった。
息を整えようと、小さく深呼吸した瞬間だった――
音もなく、静かに扉が開いた。
「見てないで、早く入って」
取っ手を引く、その仕草は衣擦れ一つ生まなかった。わずかに揺れる銀糸の髪が、旋律が生まれる前の透明さを纏っていた。
わたしは室内へと倒れ込むように飛び込んでしまい、先輩に抱きとめられる。揺れる前髪とスカートに、わたしの目は奪われた。
「萌花ちゃん、私がいつまでも支えられるなんて思わないで」
先輩はわたしを覗き込み、やわらかな笑みを浮かべた。
ふわりと甘い薔薇の香り。
両足が地面についていることに気づき、慌てて離れた。
見慣れた、けれど決して見飽きることのない瞳がわたしを見つめている。
慌てて目を逸らす。頬を染める熱を誤魔化すために、もごもごと口ごもりながら弁明した。
雪乃先輩がふわりと笑みを浮かべて囁いた。
「ぜひ聞いてもらいたい話があるのよ」
「中央公園の、密輸事件」
「それが、今日の相談内容なの。どう?興味あるでしょ?」
密輸事件――
知らずに触れた扉が、運命への入り口だったと知るのは、もう少し後のこと。その隙間から射す、薄い光が映写機の明かりに見えた。
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