[第一巻完結!]清心館女学院の探偵事情~銀髪の名探偵『日ノ宮雪乃』謎は解けても恋は解けない~

水星 透

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放課後密輸事件

六章『勇気を出して』

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「さて、どうでしょうか、皆さんのご意見を伺いたいです」

雪乃先輩はわたしたち、ひとりひとりの顔をしっかり見つめてからそう言った。
その口調の裏に、先輩の静かな決意が透けて見えた。

「あれは位置情報ゲームのコミュニティの話じゃないかな?」

七々瀬先輩は腕組みをしながらそう結論付けた。

「モンGOかハンターNOWだよ」
「彼女には心から申し訳ないというか――」
「むしろ何事もなくてよかったと、言うべきかもだけど」

「初めは、この町が深刻な犯罪に汚染されているのかと、身構えちゃいましたが」

暁希先輩はかなえさんの心配に寄り添いながら、会長に同調する。

「ピンクはモンGOで一番人気のモンスターだし、色レアも96もゲーム内用語だし」

「プレイの年齢層も高いしね。孫のためにレアモンスター交換。よくある話だよ」

「バーガー店の『ヒトカリ』もハンターNOWのキャッチコピーだったし」

「もちろん、ペットショップとか、いくつか気になる点がないとは言えないけれど」

「1030ですか?」

わたしは聞いた。

「そうだね。偶然の一致じゃないかと思うな」

「もしゲームじゃないとしても、大規模な転売や社会問題の範囲内だよ」
「ほら、店頭でこの商品を買ってくれる人を募集。そんな話が多いでしょ?」

会長は持ち前の知識で補足した。

「しかも彼女が聞いた話だけではどうもね」

雪乃先輩はわたしをじっと見つめ、一瞬の沈黙のあと問いかけた。

「萌花ちゃんはどう思う?」

「正直……全然わかりません。お二人の言うことが正しいのかも……」

「で、でもですね」

七々瀬先輩と暁希先輩の二人は、どうやったらうまく伝えられるか。その事に夢中で、わたしの話の続きを聞いてくれない。

かなえさんの事を心から心配しているのだろう、顔を寄せ合って頭を悩ませている。今は心情に寄り添うか、情報だけを伝えるかで話し合っている。
二人の議論は、徐々に白熱しているようだ。

「あのですね、ちょ、ちょっとだけよろししいですか」

三人がわたしをじっと見つめた。

「もう……少しだけ、かなえさんの話を検討してあげるのはどうでしょうか?」

「いやいや萌花さん、流石にこれは無理があるんじゃないか?」

「通報を検討するにしても、情報が足りな過ぎるよ」

七々瀬先輩は仕方ない子ね、という表情でわたしを見つめた。

「証拠集めとか、手伝います。わたし公園で張り込みだってしますから」

雪乃先輩はわたしの言葉を待っていたように微笑んだ。

その笑顔に勇気をもらって続けた。

「気になっているのは、事件そのものより、かなえさん自身の事なんです」

「雪乃先輩も会長さん達も、皆さん得難えがたい才能を持っていますよね」

「かなえさんも、わたしなんか比べ物にならないんだと思います」

「それでも、誰でも一度は、ただの学生だ、女の子だということで話を聞いてもらえなかった」
「そんな軽んじられた事ってあるんじゃないでしょうか?」

わたしの一言で、沈黙が場を支配した。

こんなにも、自分の言葉が不思議な響きを持った事が
あっただろうか?

七々瀬先輩と暁希先輩の視線まで、わたしに集中する。今、世界の中心が、急にわたしになってしまったようで――

鼓動が体から溢れ出しそうだ。
わたしはそっとロザリオを持った手を胸に当てた。

「もかちゃん、わたし、あなたのそう言うところが好きよ」

雪乃先輩が微笑んだ。

「誰だって、生まれは選べない。でも自分がどう生きるかは選べる」

「かなえさんは今日、ここに来ることを選んだ」

「その選択を尊重してあげたいのです」

なんだか雪乃先輩は、自分自身に向かって言い聞かせているようだった。

「私からもお願いします。あの子のお話……わたしたちだけは真剣に考えてあげませんか」

「かなえさんの――萌花さんの望み通りに」
「その上で、杞憂だと言うことがはっきりしたなら、そのようにお伝えしましょう」

「それでどうですか?みなさん」

先輩は深々と頭を下げた。

「私と暁希は雪乃に恩があるから、そこまで言われたら断れないな」

会長は肩をすくめてそう言った。けれどその瞳は深く輝いていた。

「現場は私と暁希で回る」
七々瀬先輩が立ち上がった。
「絶対に見逃さないようにします」

暁希先輩も元気いっぱいに言った。

「萌花ちゃんに証拠集めを手伝ってもらえたら心強いけれど、今回は雪乃の助手としてここで記録整理をしてもらおうかな」

わたしは強く頷いた。

「ところで……実地調査費は生徒会予算から、出るのかな?」

七々瀬先輩がお財布の中を確認する。

「ハンバーガー代は出ませんよ!」

七々瀬さんと暁希さんの冗談にみんなが笑った。

「萌花ちゃん、メモをもう一度読んでくれる?」

雪乃先輩は前髪を整えながら、わたしに笑いかけた。

「もちろんです!」

こうして、わたしたち四人の真剣で本気の調査が始まった。

わたしが踏み出した一歩が、こうして広がることがうれしかった。

それは、わたしの世界を変えていくような、そんな出来事だった

最初の調査はかなえさんの訪問後すぐ、十一月六日に始まった。現場主義の二人はしっかりと、三か所の調査に入ってくれた。

公園では、演劇部の屋外練習を口実に、部員総出で僅かな異変も見逃さないように。

爬虫類専門店では、ポップを何度も張り替えた痕を発見してくれた。この事実で、掲示が取引当日だけと推論が立った。

ハンバーガーショップのレシートに“1106”から始まる日付の印字はなかった。その印が“ない”ということが逆に当日のチェックを可能にしてくれた。

最後にどちらの店舗も“特定の曜日”に“特定の店員”が店長代理としてシフトに入ることまで調べ上げてくれた。

その日、十一月六日から次の週までに得られたのは、公園の口頭での合言葉“B1319”だけだった。

レシート印字やID掲示は一切なく、逆に“当日にしか出ない”条件がはっきりした。

コードの意味は、“A3017”の時はメモによると103017。

A=10つまり、十月三十日の十七時、コードは日付と時刻を繋いだものだと雪乃先輩は推理した。
つまりB1319……次の取引はB=11。

1319は13日の19時……十一月十三日十九時。

わたしたちの照準はそこに合わせることになった。

翌週――十一月十三日、十九時。

暁希先輩は万一に備えて一週間、野外練習を延長してくれた。七々瀬先輩と暁希先輩の調査は微に入り細を穿つものだった。

わたしたちは再び同じ手順で調査を開始した。

爬虫類店では、お客が手書きの「予約引換証」を受け取っていた。そこには“B-13-19”と記されていた。

バーガー店では、その引換証を提示すると“111319”のコードが印字されたレシートが渡されている。

この日もレジに立つのは、店長代理として働くあの店員だけだった。

そして、レシートを受け取る客は、聞いていた通りの年齢層の客ばかりだった。

かなえさんの言う通り、犯罪行為がおこなわれていたのだった。

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