[第一巻完結!]清心館女学院の探偵事情~銀髪の名探偵『日ノ宮雪乃』謎は解けても恋は解けない~

水星 透

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星と少女と、消えた名前

八章『第二の消失』

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雪乃は空白の輪郭を赤鉛筆で正確にとらえた。

七々瀬は鉛筆の音に反射的に唇を開き、掠れた声を出した。

「そんな、同好会名簿にもないなんて……」

七々瀬の指先が、名簿の空欄を虚しくなぞった。

「昨日、確かに奇術部の公演を見たのに――?」

そう呟く、七々瀬の肌は青白く、薄い氷のように透けて見えた。自分の言葉に自分自身が戸惑い、その後の言葉を飲み込んだ。

「なるほど、人だけじゃなくて……部もないなんてね。消えた部活事件かしら」

「面白くなってきた……」

心の中だけで言うにとどめて、雪乃は動揺する七々瀬を優しく促すと、職員室を後にした。

「暁希はどうなったの?」

「私が見た公演、あれはなんだったの?他にも生徒がいたのに……」

「奇術部自体がないなんて――」

二人きりになると、七々瀬は雪乃を静かに問い詰めた。

「いいえ――」

雪乃ははっきりと言った。

「これは、逆なのでしょう」
「奇術部が『存在しない』ということが――名簿には確かに『存在していた』」

雪乃は返し忘れた赤鉛筆をくるり、と回した。

作られた空白をもう一度なぞるように。

雪乃の話を理解した様子もなく、七々瀬は力なく頷いた。これ以上の二人での捜査は無理そうだった。

「中等部時代、奇術部だった人達に聞き取りをしてみます。時間がかかりそうだから、心配はあるだろうけれど。今日は一度帰って」

雪乃は言った。

「そ、そう。わかった」

「今日は帰るね。きっと明日には全て解決して、また、暁希に会えるわよね?ね?」

七々瀬は、冷静さを必死に装っているようだった。
それが出来ていない事にも気づかない様子で。

手渡された連絡先を見ながら雪乃は

「大丈夫、明日には『世は全てこともなし』よ」

もう一度、はっきりと言い切った。
そして渋々ながら帰り支度を済ませた七々瀬を、昇降口まで送り届けるのだった。

秋も深まっていく夕暮れに、七々瀬の後ろ姿が名残惜しそうに何度も振り返った。七々瀬さんも可愛いところがあるのね。少し見直したわ。
雪乃は心の中で呟いた。

それにしても――

消えた少女と消えた奇術部。

まるで舞台の演目のようだと、雪乃は思った。

そして、シェイクスピアの言葉を思い出す。

芝居は人生の映し鏡。
美徳も罪も、世の姿をそっくりそのまま映し出す。

だとすれば、この舞台において自分と七々瀬さんに与えられた役は――

消失した舞台は、
再び静かに幕を上げようとしていた。

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