59 / 72
星と少女と、消えた名前
八章『第二の消失』
しおりを挟む雪乃は空白の輪郭を赤鉛筆で正確にとらえた。
七々瀬は鉛筆の音に反射的に唇を開き、掠れた声を出した。
「そんな、同好会名簿にもないなんて……」
七々瀬の指先が、名簿の空欄を虚しくなぞった。
「昨日、確かに奇術部の公演を見たのに――?」
そう呟く、七々瀬の肌は青白く、薄い氷のように透けて見えた。自分の言葉に自分自身が戸惑い、その後の言葉を飲み込んだ。
「なるほど、人だけじゃなくて……部もないなんてね。消えた部活事件かしら」
「面白くなってきた……」
心の中だけで言うにとどめて、雪乃は動揺する七々瀬を優しく促すと、職員室を後にした。
「暁希はどうなったの?」
「私が見た公演、あれはなんだったの?他にも生徒がいたのに……」
「奇術部自体がないなんて――」
二人きりになると、七々瀬は雪乃を静かに問い詰めた。
「いいえ――」
雪乃ははっきりと言った。
「これは、逆なのでしょう」
「奇術部が『存在しない』ということが――名簿には確かに『存在していた』」
雪乃は返し忘れた赤鉛筆をくるり、と回した。
作られた空白をもう一度なぞるように。
雪乃の話を理解した様子もなく、七々瀬は力なく頷いた。これ以上の二人での捜査は無理そうだった。
「中等部時代、奇術部だった人達に聞き取りをしてみます。時間がかかりそうだから、心配はあるだろうけれど。今日は一度帰って」
雪乃は言った。
「そ、そう。わかった」
「今日は帰るね。きっと明日には全て解決して、また、暁希に会えるわよね?ね?」
七々瀬は、冷静さを必死に装っているようだった。
それが出来ていない事にも気づかない様子で。
手渡された連絡先を見ながら雪乃は
「大丈夫、明日には『世は全てこともなし』よ」
もう一度、はっきりと言い切った。
そして渋々ながら帰り支度を済ませた七々瀬を、昇降口まで送り届けるのだった。
秋も深まっていく夕暮れに、七々瀬の後ろ姿が名残惜しそうに何度も振り返った。七々瀬さんも可愛いところがあるのね。少し見直したわ。
雪乃は心の中で呟いた。
それにしても――
消えた少女と消えた奇術部。
まるで舞台の演目のようだと、雪乃は思った。
そして、シェイクスピアの言葉を思い出す。
芝居は人生の映し鏡。
美徳も罪も、世の姿をそっくりそのまま映し出す。
だとすれば、この舞台において自分と七々瀬さんに与えられた役は――
消失した舞台は、
再び静かに幕を上げようとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて
千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。
そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。
夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。
それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。
ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。
ハッピーエンドになるのでご安心ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる