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星と少女と、消えた名前
十一章『朝露の孤独』
しおりを挟む朝の静寂だけが雪乃の孤独に寄り添っていた。いつも通りの朝。ぼんやりと頭を振ると、寝癖のついた髪が揺れた。フレンチヘリンボーンの冷たい床に足を下ろす。足先から伝わる、冬を待つ気配。
雪乃はどんな季節でも板張りの床が好きだった。
昨夜は寄宿舎での聞き取りが遅くなり、家から迎えが来てしまった。談話室の心地よさと、少し面倒な会話。
暖房がすごい音だと言っていたけれど、もっと詳しく聞けばよかったな。皆がその音で目覚めて、文句を言いながら朝食に向かう。雪乃はそんな朝の喧噪を、思い描いた。
毛足の長いラグの感触を楽しみながら、カーテンを開けた。窓から差し込む朝日が雪乃の顔を照らした。
広く寂しい庭に、学校の銀杏を懐かしんだ。
少し遅れて扉がノックされた。
「どうぞ。起きていますよ」
雪乃はわざと不機嫌な声で応じる。
「お嬢さま」
「あまり好きになされますと庇いきれませんよ」
老メイドは淡々とした口調で告げた。
「いつも同じ小言ね」
雪乃は顔を洗い、化粧水を軽く肌に馴染ませながら答える。着替えをメイドに託し、鏡台に腰掛けると、髪に櫛を通されながら小さくため息をついた。
「さて、急がないと」
独り言をつぶやき、食堂に向かう。
アンティークの長テーブルには、いつもと同じ、季節のフルーツ、ヨーグルト、紅茶。一人分の朝食。
それを食べ終えると、メイドと短い会話を交わし、いつもと同じように家を出た。
「送迎がなくなっただけでも、満足しなきゃ……ね」
「明日から、恋人も乗せてって言ったなら――」
「あの人たち、どんな顔するかしら?」
でも、どうせなら、わたしはあの坂道を誰かと一緒に――
叶わない夢を見るのはよそう、雪乃は冷えた指先をゆっくりと擦り合わせて温めた。
重く、冷ややかな金属の取っ手が指先の熱を全て奪い取っていた。重厚な扉が音もなく閉じた。
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