61 / 72
星と少女と、消えた名前
十章『悪戯なチョコレート』
しおりを挟む重い前髪の下から、密やかに鋭い視線が突き刺さる。
口を開いた瞬間から、敵意としか言いようのない刺すような空気が伝わってくる。
「こちら……加藤――」
茉莉花の紹介を、押しのけるように話し始めた。
「茜とは親友だったのに、支倉さんのせいで、部はバラバラになっちゃった」
茜が去った方向を、名残惜しそうに見ながら言った。
「最近やっと前みたいに話せるようになってきたけど……まだ仲直りできない子達もいるの。あの子――支倉七々瀬のせいで」
無駄話を避けるように、一気に話を終えた。
さきほどまでとは真逆の評価。
雪乃の考えこむ顔を見て、
「そうなんです、七々瀬さんってこういうふうに人によって評価が分かれるの。不思議なんですけど」
茉莉花が耳打ちした。
「もともと私たちの奇術部はね。ショー的なものよりは創作トリックを作って研究していく部活だったの。みんなでいろいろ考えてね。和気藹々とやってたんだ――」
「それをあの子が全部ダメにしたの」
「茜みたいに、心酔しちゃった子も多かったけどね。それまでずっと仲が良かったのに、私たちの居場所を真っ二つに割ったの」
「暁希さんは?」
雪乃はさりげなく、尋ねるべきことだけを会話の隙間に差し込んでゆく。
「あの子も支倉さんに唆されてしまったのよ。茜から聞いた?あの子は元々演劇部で、そっちでもきっと、支倉は何かやらかしたのよ」
七々瀬さんも随分な言われようね、雪乃はそんな事を考える。
「奇術部が廃部になってから、半年くらいで演劇部もなくなっちゃった」
「演劇部が最近復活したと言う噂を聞いたことは?」
「いえ、知らないわ」
「そうですか、ありがとうございます」
名前を名乗ることもせずに立ち上がって自室へと引き上げていった。可愛いうさぎのスリッパが妙に印象に残った。茉莉花があの人は加藤詩織さんだと教えてくれた。
これからどうするか雪乃が考えていた矢先に、二年生二人に声をかけられた。
「私たちは暁希と結構仲がいいんだけど」
「あの子に何かあったの?ちょっと聞こえてきちゃって」
「ごめんね」
「盗み聞きする気はなかったんだけど」
その声の中には、どこか揶揄うような響きがあった。薄く笑う表情を見て、なんだか気に入らないな、雪乃はそう思った。
「雪乃さん、いまさら中等部の頃の話を聞いて回っているんだって?」
「何を聞きたいの?」
「そうですね……実は何を聞きたいのか、まだ自分でもはっきりしないんです」
「けれど、暁希さんの消失については……」
「もう全て、わかっていますよ?」
二人の上級生が動揺した。
「なので……よかったら世間話をしませんか?」
雪乃はチョコレートを、行儀悪く口に放り込むと、意地悪な微笑みで切り返した。
幕間が終わろうとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
名もなき春に解ける雪
天継 理恵
恋愛
春。
新しい制服、新しいクラス、新しい友達。
どこにでもいる普通の女子高生・桜井羽澄は、「クラスにちゃんと馴染むこと」を目指して、入学早々、友達作りに奔走していた。
そんな羽澄が、図書室で出会ったのは——
輝く黒髪に、セーラー服の長いスカートをひらりと揺らす、まるで絵画から抜け出したような美しい同級生、白雪 汀。
その綺麗すぎる存在感から浮いている白雪は、言葉遣いも距離感も考え方も特異で、羽澄の知っている“普通”とは何もかもが違っていた。
名前を呼ばれたこと。
目を見て、話を聞いてもらえたこと。
偽らないままの自分を、受け入れてくれたこと——
小さなきっかけのひとつひとつが、羽澄の胸にじわりと積もっていく。
この気持ちは憧れなのか、恋なのか?
迷う羽澄の心は、静かに、けれど確かに、白雪へと傾いていく——
春の光にゆっくりと芽生えていく、少女たちの恋と、成長の物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる