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星と少女と、消えた名前
十五章『わたしたちは、今を生きている』
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七々瀬の目から大粒の涙が溢れる。感情があふれているようだった。
それは、暁希が初めて見る七々瀬の心だったのかもしれない。
七々瀬自身も知らない、氷の奥に揺れる透明な焔のような感情だった。震える手で頬をぬぐっても、涙はブラウスを濡らしてゆく。
「わ、私、あなたがいなくなって……どうしていいかわからなくなって」
七々瀬は震える指先で口元を覆った。
「あなたが消えた時、胸が張り裂けそうで――」
彼女は両手を胸元にきつく押し当てた。
「こんなの、初めてなの……暁希が初めてなの……」
言葉と共に涙がこぼれ、指の間を伝った。
「もしかしたら、これが『恋』なのかな……?」
「私、あなたのことが……暁希のことが好きなのかな?」
「ねえ、教えて?これが好きってことなの?」
震える声が途切れがちに響いていた。
「あなたが居なくなって、もう会えないかもって思ったら――」
「不安で、怖くてたまらなくて……」
「今も、そう思っただけで心が壊れそうなの……」
七々瀬の肩が震え、涙がとめどなく零れ落ちた。
「わからないの、こんなの知らないの……」
「たくさん本を読んで、恋の話も読んだけど、わからないの……」
七々瀬の声は、途切れ途切れに透明な朝へと溶けていく。力なく、暁希の肩にもたれかかる。
暁希は七々瀬の髪を柔らかく撫でると。腕の中でそっと抱き締めた。
「誰か……この気持ちがなんなのか――」
「教えてよ……」
七々瀬は泣きじゃくりながら、続けた。
「わたし、わたしのせいで、あなたと仲の良かった人が、大切な場所が――そんなことになってるなんて、全然知らなくて……」
「謝って許されるとは思ってない。でも、ごめんなさい」
ごめんなさい、ごめんなさいと繰り返しながら謝り続ける七々瀬。
「七々瀬は悪くないよ、私がやりすぎちゃっただけ」
「ね、私のことを嫌いになっても、構わないから、ね、もう泣かないで」
暁希は七々瀬の背中を優しく撫でながら、自身も涙を流していた。
「私がね、生徒会に入った時のこと覚えてる?」
「ううん、覚えてなくてもいいの」
暁希はもう、その天才的な演技も何もかも、全て脱ぎ去っていた。
「演劇部の事でね、恨み言を言おうと思っていたの」
「でもね、生徒会室であなたを見たの。あなたが一心不乱に書類に向かう姿を見たの」
「私が、部屋に入っても全然気づかなくて」
「やっと顔をあげたと思ったら、見ての通り書類が多くて大変なんだ」
「早速手伝ってもらえると、ありがたいんだけれどって」
「笑いながら、そう言ったのよ」
「夕暮れの中、あなたの髪がカーテンと一緒に揺れていて」
「あの時の光を、七々瀬の笑顔を――永遠の思い出にしようって」
「ああ、なんて綺麗なんだろうって」
「その時、私、一目惚れってあるんだって……」
暁希は震える声で続けた。
「私、あなたのことをいっぺんで好きになってしまったの」
「いろんな舞台を観て、演劇の勉強をしてたけど、恋心なんて――そうだよ、私も七々瀬と一緒。恋なんて全然わからなかったのに」
「暗記して何回も、何回も演じたシェイクスピアの台詞より――」
雪乃はその姿を見て、未来の大女優を思い浮かべてから、首を振った――これは演技ではなく、暁希自身が初めて見せた本物の感情だと。
「暁希が……来てくれた時のこと、ちゃんと覚えてるの。私が、顔を上げたら、あなたがいて」
「随分待たせちゃった、そう思ったのに。あなたは笑ってくれて、それで――」
二人は涙を流し続けていた。
声が嗚咽に変わり、二人はただ泣き続けることしかできなかった。
ふたりの叫びは、重なりながら礼拝堂を満たしてゆく。
七々瀬の叫びが、礼拝堂の壁を震わせた。
「消えないでよ、お願いだから、いなくならないで!」
暁希は、抑えていた全ての感情が、胸の奥から激しくあふれ出した。
「七々瀬、私はここにいるよ……あなたに見てほしかった、ただそれだけなのに……!」
それは、暁希が初めて見る七々瀬の心だったのかもしれない。
七々瀬自身も知らない、氷の奥に揺れる透明な焔のような感情だった。震える手で頬をぬぐっても、涙はブラウスを濡らしてゆく。
「わ、私、あなたがいなくなって……どうしていいかわからなくなって」
七々瀬は震える指先で口元を覆った。
「あなたが消えた時、胸が張り裂けそうで――」
彼女は両手を胸元にきつく押し当てた。
「こんなの、初めてなの……暁希が初めてなの……」
言葉と共に涙がこぼれ、指の間を伝った。
「もしかしたら、これが『恋』なのかな……?」
「私、あなたのことが……暁希のことが好きなのかな?」
「ねえ、教えて?これが好きってことなの?」
震える声が途切れがちに響いていた。
「あなたが居なくなって、もう会えないかもって思ったら――」
「不安で、怖くてたまらなくて……」
「今も、そう思っただけで心が壊れそうなの……」
七々瀬の肩が震え、涙がとめどなく零れ落ちた。
「わからないの、こんなの知らないの……」
「たくさん本を読んで、恋の話も読んだけど、わからないの……」
七々瀬の声は、途切れ途切れに透明な朝へと溶けていく。力なく、暁希の肩にもたれかかる。
暁希は七々瀬の髪を柔らかく撫でると。腕の中でそっと抱き締めた。
「誰か……この気持ちがなんなのか――」
「教えてよ……」
七々瀬は泣きじゃくりながら、続けた。
「わたし、わたしのせいで、あなたと仲の良かった人が、大切な場所が――そんなことになってるなんて、全然知らなくて……」
「謝って許されるとは思ってない。でも、ごめんなさい」
ごめんなさい、ごめんなさいと繰り返しながら謝り続ける七々瀬。
「七々瀬は悪くないよ、私がやりすぎちゃっただけ」
「ね、私のことを嫌いになっても、構わないから、ね、もう泣かないで」
暁希は七々瀬の背中を優しく撫でながら、自身も涙を流していた。
「私がね、生徒会に入った時のこと覚えてる?」
「ううん、覚えてなくてもいいの」
暁希はもう、その天才的な演技も何もかも、全て脱ぎ去っていた。
「演劇部の事でね、恨み言を言おうと思っていたの」
「でもね、生徒会室であなたを見たの。あなたが一心不乱に書類に向かう姿を見たの」
「私が、部屋に入っても全然気づかなくて」
「やっと顔をあげたと思ったら、見ての通り書類が多くて大変なんだ」
「早速手伝ってもらえると、ありがたいんだけれどって」
「笑いながら、そう言ったのよ」
「夕暮れの中、あなたの髪がカーテンと一緒に揺れていて」
「あの時の光を、七々瀬の笑顔を――永遠の思い出にしようって」
「ああ、なんて綺麗なんだろうって」
「その時、私、一目惚れってあるんだって……」
暁希は震える声で続けた。
「私、あなたのことをいっぺんで好きになってしまったの」
「いろんな舞台を観て、演劇の勉強をしてたけど、恋心なんて――そうだよ、私も七々瀬と一緒。恋なんて全然わからなかったのに」
「暗記して何回も、何回も演じたシェイクスピアの台詞より――」
雪乃はその姿を見て、未来の大女優を思い浮かべてから、首を振った――これは演技ではなく、暁希自身が初めて見せた本物の感情だと。
「暁希が……来てくれた時のこと、ちゃんと覚えてるの。私が、顔を上げたら、あなたがいて」
「随分待たせちゃった、そう思ったのに。あなたは笑ってくれて、それで――」
二人は涙を流し続けていた。
声が嗚咽に変わり、二人はただ泣き続けることしかできなかった。
ふたりの叫びは、重なりながら礼拝堂を満たしてゆく。
七々瀬の叫びが、礼拝堂の壁を震わせた。
「消えないでよ、お願いだから、いなくならないで!」
暁希は、抑えていた全ての感情が、胸の奥から激しくあふれ出した。
「七々瀬、私はここにいるよ……あなたに見てほしかった、ただそれだけなのに……!」
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