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3章 転生者
第27話 親友
しおりを挟む長い時間話し合い、今後の方針を決めた。
取り敢えずは今まで通りに過ごし、シナリオについては気にせずにいる、ということにした。
ヒロインが何か起こしてきたら、その都度相談し、どうするかを決めていく。
「というか、邪竜であるカイルラント侯爵がサフィーとイチャイチャしていれば、何も起こらないんじゃないかしら?
ヒロインである貴女の異母妹が、勝手にそこらへんの令息達を誘惑して堕としていくだけですもの。
サフィー、貴女はそのままでいいのよ」
エスティのその言葉に救われた。
……今まで、私は恐れていたのかもしれない。
いつか強制力が働いて、乙女ゲームの悪役令嬢のようになってしまうのではないかと。
だが、まだ油断はできない。
頭の中がお花畑の異母妹は、何をしでかすのか分からないのだ。
「ありがとう、エスティ。
貴女は私の親友だわ。私も貴女のために出来ることはするわね。早く貴女の叔父を追い出せるように……。
本当に今日はありがとう」
パッと辺りを見回すと、もう夕方である。
随分と長く話し込んでしまっていた。
これではルドに心配を掛けてしまう。
2人はお互いに満面の笑みで抱きしめ合い、挨拶をする。
「サフィー、こちらこそありがとう。貴女と親友になれて嬉しいわ。今日が初対面だったけれど、私の心も救われたのよ。
本当にありがとう。大好きよ」
ふふっとエスティが笑い、大好きだと言ってくれる。
それが本当に嬉しくて、自分も大好きだと伝えようと思った。
「エスティ、嬉しいわ!
私も大好「フィア」……っ⁉︎」
突然後ろからルドの声が聞こえてきて驚いた。
愛しい人が私の名前を呼んでくれているはずなのに……。
いつもは甘い声で呼んでくれるその人が、今は私に向けたことのない、冷たい声で私の名前を呼ぶ。
どうして……と戸惑い混乱し、さらにルドから怒りの感情が伝わってきて、心が冷えていく。
私が何かしたのだろうか……。
知らない内にルドを怒らせるような事をしてしまった……?
お義母様とのお茶会が終わったのにすぐ帰らなかったから……?
ルドは一生懸命働いているのに私は呑気に楽しくお喋りをしていたから……?
どうして……どうしよう……このままじゃ……このままじゃルドに嫌われる……?
そう考えた途端、とてつもない絶望感が私を襲った。
ルドに嫌われた……ルドに捨てられる……また…?
また私は1人になるの……?
ルドの側にいられないなんて……そうなるなら……ルドと離れるなら……いっそのこと……死ーー。
「フィア!」
ビクッ。
“死んでしまおう“と考えた時、ルドに力強い声で呼ばれた。
深淵まで堕ちていた思考が、ルドの声によって浮上する。
「……ル…ド…」
「フィア」
お互いに見つめ合い、ルドの瞳の中に怒りの感情がないのを見て安堵するも、このままではまた嫌われてしまうと焦り、言葉を並べる。
「ルド、私の何がいけなかったの?教えて?ルドが嫌なことは直すわ。
だから…お願い……お願い……捨てないで……?嫌いにならないで……私を1人にしないで……」
ルドに嫌われたのかと思い、不安から涙が溢れ出てくる。
するとルドは穏やかな声で、落ち着かせる様に頭を撫でながら話した。
「フィア、落ち着いて?嫌ってないよ。大丈夫」
「じゃあ…どうして……?あんなに怒っていたの?」
「それは……心が狭いと思われるだろうけど、フィアがそこのご令嬢に対して“大好き“と言おうとしていたから……。
ごめんね?フィアからの“好き“や“大好き“、“愛してる“は僕と未来で産まれてくる俺とフィアの子どもだけにして欲しいんだ。心が狭くてごめん……。でもどうしても嫉妬してしまって……」
「そうだったの……。でも、よかったわ。
……ルドに嫌われたのではなくて」
「心が狭いと思うだろう?嫉妬深いと……」
「いいえ?私も嫉妬深いもの。ルドがそうして欲しいならそうするわ。私にも譲れないものはあるけれど、コレはそこまで譲れないものではないもの」
「ありがとう、フィア」
緊迫していた雰囲気がほどけ、穏やかな空気が流れる。
無事に仲直りができてよかった……。
「サフィー?こちらの方が貴女の番?」
「あっ!ごめんなさい、エスティ。そうよ。彼が私の番のルインドレッド・リード・カイルラント。ルド、彼女は先程出会った私の親友で転生者のエスティアナ・ティナ・メラルダよ」
「はじめまして。お見苦しいところをお見せしました。フィアの番のルインドレッド・リード・カイルラント侯爵です」
「はじめまして。サフィーの親友になったエスティアナ・ティナ・メラルダ公爵令嬢ですわ。よろしくお願いいたします」
紹介もせずに放置してしまったエスティに申し訳ないことをしてしまった。
「フィアはずっとメラルダ嬢と話していたの?」
「ええ。エスティが転生者だということは知っていたのだけど、なかなか話す機会がなくて。先程、エスティが婚約者に暴言を吐かれているのを見て、その前には叩かれた音が聞こえたから声をかけたの」
「そんなことが…」
「ふふ、もう大丈夫ですわ。
それよりも、サフィーが番に本当に愛されている様でよかったですわ。乙女ゲームのシナリオを知っているので、少し心配していましたの。
サフィーが幸せになれるのなら、相手がどんな方であってもいいと思っていましたが、こんなに深く愛してくださっている方で安心いたしましたわ」
「エスティ、ありがとう」
「ふふ、これならそんなに不安に思わなくてもいいのではなくて?きっとサフィーの番が貴女の不安を解決してくれるわよ」
「そう…よね…」
私は勝手に、1人で解決しなければならないと思っていたのかもしれない。
私に前世の記憶があることはルドにも話してある。
もう少しルドを頼ってもいいのかもしれない。
「不安…?」
「ええ。サフィー、カイルラント侯爵には前世の記憶があることは話しているのでしょう?
それなら…何について不安に思っているのか話しても良いのではなくて?
私はこれで帰宅するから、この後2人でじっくり話したらどうかしら?
ゆくゆくは夫婦になるのだもの。お互いの気持ちが伝えられるようにならないとダメよ。……秘密はもっとダメ」
エスティの言葉にハッとさせられる。
「ええ。エスティありがとうこの後話してみるわね。
その前に、エスティ、貴女の問題をルドに話してみましょう?きっとルドなら協力してくれるわ」
「でも…そんなこと申し訳ないわ。迷惑だと思うし……。
サフィー、貴女の気持ちは嬉しいけれど、私1人で解決してみるわ」
「でも……!」
それでも話した方がいいと言葉を続けようとしたが、エスティに首を横に振られ、それ以上言わせてもらえなかった。
「メラルダ嬢、何かお困りですか?
フィアの味方で親友の貴女なら、協力は惜しみませんよ?」
「ですが……」
「協力できることならおっしゃってください。迷惑かどうかは考えなくて大丈夫ですよ。俺としては、フィアがこのまま貴女の問題でモヤモヤして俺のことを考えてくれない方が嫌なので。
フィアが抱く感情全てが俺のことじゃないと気がすまないのです。
なので本当に気にせずに話してください」
「ふふ、本当にサフィーに対しての独占欲が素晴らしいですわね。
……それでは、お言葉に甘えて相談させていただきます」
ルドの言葉に苦笑しつつも、話すことを決めてくれた。
「簡潔に言うと、叔父が我が公爵家の屋敷を出て行かないのです」
と、先程私に話してくれた、エスティの過去を順番に話してくれた。
「なるほど、そうですね。解決することはできますよ。
でもその話をする前に、もう辺りは真っ暗です。メラルダ嬢は屋敷に連絡して、今夜は我が屋敷に泊まってください。
夕食を食べた後にこの話の続きを話しましょう」
「分かりましたわ」
そう言ってエスティは使用人に屋敷に連絡するように伝えた。
ルドはもう仕事が終わっていたらしく、そのまま帰れるそうだ。
私たちはルドが手配しておいた馬車に乗り込み、侯爵家の屋敷へと向かった……。
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