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3章 転生者
第28話 エスティの問題
しおりを挟む……夕食が食べ終わり、寝る支度が終わった頃。
3人は応接室に移動した。
「それじゃあ、先程の話の続きを話そうか」
「ええ、お願いしますわ」
ルドのその言葉から話し合いが始まった。
短い時間ではあったが、共に時間をかけて過ごして、ルドとエスティの言葉遣いは砕けたものになっていた。
多少なりとも打ち解けたようでよかったと思っている。
「まず、公爵位を正式に継承しているのは、メラルダ嬢で合っているかな?」
「ええ。父が……私が3歳の時に私に継承することを決めて、手続きを済ませていたみたいなの。母は身体が強い方ではなかったから……。
私が生まれる前から、母は季節の変わり目には必ず体調を崩していたらしいわ。
私を妊娠した時も、無事に産めるのかかなり心配されていたようなの。
それでも母は強かった。
だって私を無事に産んだんだもの。
でも、私が女だったから、母が男の子を……跡継ぎを産むために2人目を妊娠しなければならなかった。
1人目は無事だったわ。でも、2人目を無事に出産することができるのかはわからない。
今度こそ、その命を落としてしまうかもしれなかった……。
母を愛していた父は、母が危険を犯してまで2人目を産むよりも、私をしっかり育てて跡を継がせる方がいいと判断したの。
だから私は小さい頃から領地の視察に連れて行かれ、領民の大切さ、貴族の義務、自分が領民を守っていかなければならないという責任を教えられたわ。
あの頃にそれを教えてもらって、本当によかったと思うわ。
本当に、良い父と母だったの……」
「話してくれてありがとう。
……この問題は、身内の問題で済ませるには無理な話になってしまった。
メラルダ嬢の叔父は、国に関わることまで罪を犯してしまっているからね。
まずは、身分詐称。公爵でもないのに公爵のような振る舞いをしたり、公爵家の名を語り、お金を使っている。
それに、公爵代理だっけ?
亡き公爵はいざという時の代理を立てていなかった。用意周到な公爵が自分の兄弟を代理に立てていなかったということは、その人を信用していなかったということだ。
代理を立てなくても公爵家を動かせるようにしていたんだろう。
……そういう風に備えていた。
亡き公爵夫妻は、予想していたんじゃないかな。いつとは分からなくとも、自分達の命が狙われていることに……。だから、貴女を王都へは連れて行かず、安全な領地に置いていった。
……万が一、公爵家全員が死ぬことがないように」
「そんなことって……」
予想していたよりも重く、辛い内容に、胸が苦しくなる。
ルドが言うからには事実なのだろう。
精霊達が言っていたということなのだから。
「全て予想ではなく、事実だ。精霊達に調べてもらったが、亡き公爵が備えていたのは本当だった。
そしてここからだけど、公爵夫妻を殺したのは誰かまだ判定していない。メラルダ嬢の叔父だとも考えられるが、バックに誰かしら大物が付いているだろう。
高位貴族が絡んでいる可能性が高い」
ルドから、衝撃的な事実が次から次へと伝えられていく。
「高位貴族?そんな……国の上層部にいる人達が父と母を殺したと言うの?今も…のうのうと生きているなんて……許せないわ。なんとしても突き止めたい!」
「ええ、そうね。私たちも協力するわ」
エスティが強い意志を持った瞳で覚悟を決めているので、私もできる限りのことはしたいと思う。
「そこで…なんだけど。リックに協力してもらおうと思って」
「リック?2人は知り合いだったの?」
ルドの口から思いがけない名前が出てきて驚く。
2人は面識がなかった筈だが……。
「いいや。この前知り合ったばかりなんだ。
他国が絡む事件があっただろう?その時に、王の代わりで王太子がきたんだ。
フィアはリックと仲がいいみたいだね?すごく心配していたよ」
知らなかったんだけど、という目線を送ってくるので、誤解のないように伝える。
「誤解しないでね?リックとはただの友達よ。ルドと出会った時に参加していたガーデンパーティーで仲良くなったのよ。
乙女ゲームの王太子とは違って俺様じゃないし、私と境遇が似ていたから……」
「ふふ、心配しないで?疑ってる訳じゃないから。ただ……知らなかったことが気に入らなかっただけ。
その話はリックに聞いていたから。フィアの容態を聞かれた時にその話もしたんだ。
そのあとに、バエルと3人で話して意気投合したから、愛称呼びになっているんだよ」
「そうだったのね…」
愛称呼びが気になっていたことはお見通しである。
……ルドには隠し事ができない。
まぁ、することもないのだが。
「王太子殿下に協力していただくの?」
「うん。リックは優秀だからね。国王はあまり使えないけど、リックなら解決してくれるよ。俺も協力するし」
「そうね。……これは勘なのだけど、シャルの両親が亡くなった事件も関与している気がするの。もしかしたら、黒幕は同じ人物かもしれないわ」
「え?」
根拠はないが、漠然とその気がする。
これがただの勘違いで済めばいいが、そうでなかった場合、犯人は何が目的なのか……。
「そうだね……。もしそうなら、関連性を調べないといけないかな。
うーん、これから忙しくなりそうだな。フィアとの時間が減るのは嫌なんだけど……」
「しょうがないわよ。全てが終わったら結婚式をしましょう?」
「ふふ、じゃあ頑張ろうかな。
……蜜月が楽しみ」
「……っ⁉︎」
壮絶な色気をまとい、ニヤッとしながらルドが言う。
不意打ちをくらい動揺し、赤面した。
急に色気を出すのは切実に止めて欲しい。
……それに、失念していた。
私たちはどれほど蜜月が長引くのだろうか。
なんとかして1ヶ月以内にしたい。
ルドにゆだねたら1年とか言いそうだ…。
そんなことになったら私の体がもたない。
どうするべきか……取り敢えずそれはあとで考えよう。
今はエスティの問題を解決する策を考えなければ……。
「……コホンッ。ルド、つまり、証拠が集まればエスティの叔父はどうにかできるということ?」
気を取り直して話を進めるため、咳払いで恥ずかしさを誤魔化しながら話し始める。
それに気づいたルドは、微笑みながらもその話題転換に乗ってくれた。
だがそれがまた、全てバレているようで恥ずかしい……。
「うん。証拠を集めるのはそんなに時間はかからないと思う。精霊たちにお願いすればいいからね。
証拠を集めたらリックに渡してどうするか決めて、実行かな。
それでメラルダ嬢の叔父はどうにかできるけど、そこから黒幕を突き止めるのは時間がかかると思う。
過去に遡って調べないといけないし、余罪も出てくるだろうしね。相手が高位貴族となると、決定打となる証拠を探さないといけないから、そこそこの時間がかかると思う。
でもまずはメラルダ嬢の叔父を追い出してしまおうか」
「そうね。先にそれをしてからにしましょうか」
「ええ。2人ともありがとう」
色々話し合ったが、まずはエスティの叔父を追い出そうということで決まった。
精霊たちにお願いすれば、1、2週間ほどで証拠が集まるらしい。
エスティの叔父達は公爵家の親戚だが、もう家を出て身分は平民となっているため、平民が貴族を謀ったということで厳罰になるだろう。
もしかしたら処刑かもしれない。
それは証拠を集めてどのような罪を犯しているのかが分かってから決まるだろう。
賠償金になるとしても、平民が払える金額ではない筈だ。
そうなると、強制労働となるのかもしれない。
今のところはエスティの叔父がエスティの両親を殺害したという証拠はないので、賠償金や強制労働になる可能性は高い。
エスティの問題をどうにかしなければならないと、そのことばかりを考えていた私は、乙女ゲームのイベントが迫っていることを忘れていた。
それがのちに大変なことになるとは知らずに……。
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