ひきこもりがいくぅ

東門 大

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第四章 エピローグ

エピローグ 解放

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 この部屋へ来て数ヶ月……いや1年以上が経ったかもしれない。

 ケイがいなくなった後も様々な人が現れ、関係を持った。ケイに似た女性、同級生の男子も出てきた。芸能人に似た女性や、二次元アイドルも出してみた。でも、いつまでも忘れられないのは、知永世とケイだった。

 今は三人の女性と暮らしている。複数でも呼び出せるのかとあれこれ想像していると、三人も出てきたのだ。

 僕がその女性たちとベッドでいちゃついていると、離れた場所からもう一人の女性が現れた。

 その女性は、白衣を着ていて、年齢は僕の母親くらい。メガネをかけた、いかにもインテリといった感じの女性だった。

 もちろん、こんなおばさん、リクエストしてないし、頭に浮かんだことすらなかった。

「城谷 唯人さん。お会いできて光栄です。私はJAXAの森田と申します」

 いきなり来て、僕を本名で呼ぶそのおばさんに警戒心を抱いた僕は、立ち上がった。

「あっ、そのまま座っててください。私、そういうの慣れてないので」

 おばさんは、慌てて両手で目を覆った。

「今、上書きしますから」

 おばさんがそう言うと、三人の女性が消え、僕の服が現れた。宇宙人にさらわれる前の服装だった。

「これで正面を向いて話せます」

「城谷さん長い間ありがとうございました。実験は間もなく終了しますが、いきなり目覚めると事故の危険性もありますので、事前説明に伺いました。私が何を言っているのか。今はさっぱり分からないと思いますが、順を追って説明しますので、しばらくお聞きください」

 どう反応していいのか分からない僕は、とりあえず森田さんの説明を黙って聞くことにした。

「私共は、きたるべき恒星間航行に向け、コールドスリープの技術を開発しました。最終段階として、長期にわたるコールドスリープの影響を調査するため、その実験とそれに必要な被験者が必要になりました。それに応募していただいたのが城谷さんということです」

「さらにコールドスリープの精神的ストレスを解消するために、脳内にチップを埋め込み、被験者の願望が夢に反映されるようにしました。つまり、この世界……白くて何もない部屋。全員が裸で何も隠さない部屋。外から遮断された部屋。これが城谷さんの願望を映し出した世界ということになります」

 ここで僕は最も気になることを口にした。

「じゃあ、ここに来た女の子たちは、全部僕の願望が映し出したまぼろしと……」

「はい、ほとんどがそうです。でもお二人だけスリーパーの……実在の方がいらっしゃいます」

「知永世とケイ?」
僕はすかさず答えた。

「ケイさんはスリーパーですが、もう一人は知永世さんではなく、佐藤さんです」

 なるほどと納得した。二人はここへ来た人物で裸ではなかったという共通点があったからだ。

「ケイさんは、城谷さんの知識にも我々のAIにもあまり蓄積されていないデータを入れるために、一年という短期でスリープしていただきました。佐藤さんは、城谷さんのご希望とたまたま合致する方が、短期の被験者でいらっしゃったので、同期させていただきました。佐藤さんはもう少しご一緒したかったみたいでしたよ」

「お二人のような他の被験者との同期も実験の一部で、そもそも同期できるのか、同期するとどうなるのか。というデータもとることができました」

「実験的に行ったことが、もう一つございます。何かの事故で突然目覚めるとどうなるのか。という実験で、これは記憶にあるのではないでしょうか」

 僕は知永世の時に見た白い部屋のことを思い出した。

「これで説明は終わりですが、何かお聞きになりたいことはございますか?」

 それなら、と僕は三つの質問をした。一つ目はやはり、なぜ記憶がないのかということだ。

 森田さんは、
「もし、途中で城谷さんがリタイヤしたくなり、それがストレスで事故を起こしてしまうと、膨大な予算をかけたこの実験が失敗に終わってしまうのではないかと予想されました。ですからそのリスクを避けるために、あなた様同意の元、記憶を一部書き換え、宇宙人にさらわれたという偽の情報を上書きしました」
 と、答えた。

 次に気になったのは、たまに聞こえた声だ。
「それは唯人さん自身の声だと思います。他の被験者にも同様の事例があり、その内容から、被験者自身が自問自答しているのではないかと推測されています」
 初めから仕組んだことではなく、たまたま現れた現象のようだった。

 最後に何年寝ているのか尋ねた。
「スリーブ期間は、契約で三十年となっております。ここの体感では一年に満たないかもしれませんが、それは脳の活動がほとんど停止しているためです。」
 三十年ということは、目覚めると、五十くらいのおじさんなのかと心配したが、コールドスリーブ中は肉体的にほとんど年を取らないと聞いて、安心した。

 森田さんは、三つの質問に答えると、「それではスッキリしていただけた様なので」
 と続けた。

「これから城谷さんには三十年の眠りから目覚めていただきます。そこで最後の実験に協力していただきます。ここでの記憶は残すか消すか。それによる影響を調べるというものなのですが、城谷さんはどうなさいますか?」

 僕はせっかくの楽しい記憶を消すはずはないと、迷わず残すことに決めた。

「承知しました。では、目覚めたら、またお会いしましょう」


 僕は目覚め、被験者としての報酬十四億円を得た。当時は三億円で契約したが、現在の貨幣価値から十四億円となったそうだ。僕はその十四億円を使って、様々なチップを脳内に埋め込んだ。物理学者や宇宙飛行士の知識や技能を集積したものだ。そうして僕は宇宙飛行士の資格を得た。
 そして今、恒星間航行の宇宙船に乗っている。別に宇宙へ行きたかったわけではない。もう一度夢の世界へ入るためだ。今回は百二十年。前回より長い夢が楽しめそうだ。しかも前回の夢と違って、僕自身が夢だと自覚している。そうなると、法を無視して、好き勝手に楽しむことができる。なにしろ自分だけの空想の世界なのだから。

 あと、宇宙に出た僕には関係ないが、JAXAはスリープ中の記憶は消去することに決めたそうだ。さらに国はチップによる性的行為の規制も検討しているということだった。それらは僕の実験データが大きく関わっていることは、間違いないだろう。
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