何ノ為の王達ヴェアリアス

三ツ三

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第27話 ウォーリアー

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「インジュ・・・そこを退け」
「出来ません」
「そいつはお前を殺そうともしたろうが」
「関係ありません」
「俺に勝てると思ってるのか」
「勝ちたいとは・・・思ってませんッ!!!!」


   2人同時に地面を蹴り飛び出す。
   お互いの拳がぶつかり合い強風が周囲に吹き荒れる。

   ルジェも思わず目を閉じ手で顔を覆う。
   風が収まったと目を開けると、光りがルジェ自身を覆い始めていた事に気が付いたのだった。

「本当に遅くなってすまん、生きてて何よりだよルジェ嬢」
「・・・え?」

   ミニチュアサイズの先生が自分の足元にいる事に驚くルジェ。

「積もる話も何もかも色々とあるだろう。ひとまず戻って来い」
「・・・・・・」
「もし・・・もし、それでもと言うのなら私は止める事が出来ない、この魔方陣から出ればいい。インジュ少年には私から言っておこう。あの協会に戻るもよし、このまま放浪するのもよし」

   先生は何もかも見ていたかのように喋る。
   協会。つまりはセトナが帰ったであろう場所。

「彼女は大丈夫だ。心配は無い、お望みなら音声通信くらい出来るように」
「・・・なら、もういいわ」
「そうか」

   インジュとゼッガの激戦が繰り広げられている中、ルジェは1人これ以上の言葉を発する事無く転移していった。



   ルジェの転移が終わった途端、インジュのウィザライトから1つカートリッジが放出された。
   それが見えた途端ゼッガはインジュと一度距離を取った。

「はっ、舐められたもんだな。転移に魔力を割いて俺に挑もうなんてな」
「・・・やめて下さい。ゼッガさんだって望んだ結果じゃないですか」

   お互いもはやわかりきっている事だった。
   インジュはウィザライトの魔力をルジェの転移の為に使い、ゼッガは素手、自らの武器である大斧を取り出す事無く戦いの挑んだという事。

   ルジェの救出に成功した。
   これ以上はインジュがゼッガと戦う理由は無い。

「ゼッガさん、この間はありがとうございました。助けて頂き、本当に感謝してます」
「ここに来てお礼を言われるとはな。相変わらず面白い奴だ・・・だが」

   ゼッガは再び動いた。インジュの視界から一瞬で消えるほどの速度で。
   左から来る。
   咄嗟にウィザライトで防御をするインジュ。
   ゼッガの大斧、それが今になって姿を現した事にインジュは驚愕していた。

「何だ・・・その目は」
「ッ!?」
「随分と染まっちまったようだなぁー!!!!」

   インジュを思いっきり蹴り飛ばす。
   ルジェが壊した建物の瓦礫の中へと激突するインジュ。

   すぐさま瓦礫を退けて立ち上がりウィザライトと掲げる。
   光鎖を次々と周囲に展開させゼッガへ向けて撃ち込む。

「このままだとてめぇー・・・」

   インジュは目を見開いて驚愕するしか無かった。

   ゼッガの一振り。
   大斧を一回転させて振り回しただけでインジュが作り出した光鎖を全て搔き消したのだった。

   迎撃をしなくてはならない。
   そう次の攻撃を行おうとした一瞬、先ほどインジュに接近した時よりも速い速度でゼッガは接近していた。

「あの女と同じになるぞ」

   もはや戦いにならない物だった。
   ゼッガはインジュの首を掴み持ち上げた。

「ぅ・・どうゆう、意味ですか・・!」
「ただ我武者羅に誰かの為、みんなの為とのたうち回るはめになるんだよ」
「それの・・それの何がッ!!」

   ゼッガの表情が一変した。
   首を絞める強さを増しながらインジュを力の限りだぶん投げた。

   建物をいくつも貫通しインジュに襲う衝撃は並大抵の物では無かった。
   しかし、インジュは倒れる事は無かった。
   自らが開けた穴を見つめるゼッガ、そんな穴から戻るかのように猛スピードでインジュは飛び掛かる。

   大斧を振り下ろし迎撃するもインジュはかわし、ゼッガを殴り付ける。
   光鎖を両手に巻き付け、わざわざ近距離戦に持ち込むインジュに、ゼッガは更に顔を歪ませた。

「僕が変わった。そう言いたいんですか!?」
「あぁそうだ! てめぇーもあいつも! ガキのままでいろって言ってんだよ!!」
「変わったのは・・・!!」

   大斧とウィザライトがぶつかった瞬間、大斧に光鎖が巻き付き一瞬の隙が生じた。

「貴方もでしょうぉぉおーッ!!!!」

   インジュの頭突きが綺麗に決まった。
   よろめいて鼻から出る何かを手で拭いゼッガは驚きを隠せないで居た。

   鼻血なんて、一体いつ振りに流しただろうかと。

「はっははは・・・笑える」
「・・・ゼッガさん、もし何かあったのなら教えて下さい。僕が力に」

   そう言ってゼッガよりもボロボロのインジュは一歩前に出た。
   しかしゼッガはそれを拒むように大斧を一振りする。それはインジュに向けて放った物では無く、自分とインジュの間に大きな線を引いたのだった。

「ガキはガキらしくしてればいいんだよ。好きな事を好きなだけやるのも、自分の信じた事をやりたいようにやるのも、夢をでっかく持ったって構わねー!!」

   大斧をインジュに向ける。
   ゼッガの顔は、真剣その物。一切の迷いの無い瞳がインジュを貫くように見据えて居た。

「だからこれ以上、こっちに来てみろ。俺はてめぇーを殺す」

   一寸の狂いも無いゼッガの言葉。
   そんなゼッガの言葉にインジュはたじろいだ。

   たじろいでしまったのだった。

   インジュは引かれた線の奥、ゼッガの方へと向かう事が出来なかった。

「わかったか、それが”今の”お前だ」
「ち・・違うッ」
「違わねぇーんだよ!! お前は別に間違っちゃいない。間違っちゃ・・・いねぇんだよ」

   向けらていた大斧がゆっくりと降ろされる。
   それは戦いが終わる事の意味を示す。

   そして同時にこれ以上の関わりを断つかの様な意味が含まれていた。
   その事にインジュが気付かない訳が無かった。

「ゼッガさッ・・!」

   ゼッガは、1人歩き出す。大斧を片手に、まるで今の自分の顔を見せないようにするように。

   背を向けてその場に留まる意味を消して立ち去るように・・・。









   1人苦虫を潰した様な顔を浮かべながら歩くゼッガ。

   インジュとルジェ。
   この2人がまさか手を取り合う事になるとは思いもしなかった。
   とはいえ、手を取り合うなんて言葉通りのものでは無い事はゼッガも察していたが、改めて先ほどの光景、インジュがルジェを庇う様。
   間違い無くインジュが一方的に行った物であると思っていた。

「くっそッ!!!」

   足元に落ちている瓦礫の破片を蹴り飛ばす。
   物に当たってしまう程に苛立ちが抑えられないでいた。
   自分が苛立っている理由は当然わかっていた。しかし解決方法が定まらない為に考えが考えを生み出し、整理がつかないでいた。
   ルジェを見つけたからルジェを殺せ。
   本来であれば、そんな面倒くさく意味も無い事をゼッガは嫌い従うはずもなかった。しかしそれは昔のゼッガ、先日までのゼッガだったらの話。

   眉間に皺を寄せ自分が歩く地面ばかりを見て歩く今のゼッガには、従いたいたく無くとも、他に手段を持ち合わせていないが為に言う通りに動くしか無かった。

「いつまで、付いてきてるんだてめぇーッ!!!」

   唐突にゼッガは肉眼では何も見えない場所に手を伸ばし何かを掴んだ。
   成人の頭ほどのサイズの何かがゼッガに掴まれた途端に姿を見せる。

「あらあら、バレちゃったじゃないの。ドクターワクレギにクレーム物ねこれは」

   小型の偵察機。そんな物体からネゼリアの声が発せられていた。
   ゼッガの表情は更に歪んでしまい、掴んでいる物を破壊したくなる衝動を抑えるので精一杯だった。

「私との約束、果たされていない様に思えるのだけれど」
「邪魔が入った。どうせ見てたんだろうが」
「えぇ、そうね。貴方があの子を見逃すところもしっかりね」

   こちらのゼッガの顔が見えているのかどうかもわからないが、ネゼリアにはゼッガがどんな顔で会話しているのか手に取るようにわかっていた。

「ドクターに言われたと思うけれど、本当に思った以上に時間が無いの」
「・・・わかってる。てめぇー等が俺を王城から離れさせたいって事もな」

   ネゼリアはゼッガの言葉に少し驚きを紡ぎながらもすぐに笑みを浮かべ、口を動かした。
   ゼッガならば知っていてもおかしくも無いという事もわかってもいたからだ。

「話が早くて助かるわ。アストも今回の件は同意すると思うから」

   アストの名前が出て初めてゼッガは熱し切った頭に冷静さを取り戻す事になった。

「・・・なんだと。それは本当なのか」
「でしたらご自分で確認しt」

   ゼッガは掴んでいた物を思いっきり握りつぶし破壊した。
   破片はそのままその場に落とし、飛び立った。
   向かう場所は言うまでも無く、修復の終わった。アルバス王城であった。



   ゼッガは王城に向かいながらある言葉を思い出していた。
   それはインジュに言われた言葉。

   インジュが変わってしまったと豪語する自分に対してインジュはそれはお互い様、と返した。
   あの件、王城でのインジュの魔力暴走の件から一度も会っていないが、風の噂でインジュが何をしでかしたのか、何を成し遂げたのかは知っている。
   知っているからこそ、インジュに言った言葉は嘘の無い、自らの想いだった。

「くそッ。何を俺は・・・」

   邪念を振り払うように頭を振るいゼッガは頭の中をリセットさせた。

   もう王城に到着する。
   今から行われる事を想像するとこんな状態の自分に不安は当然残るが、今以上に思考を詰め込むのを一度止めたのだった。

   そして、ゼッガは大きく息を吸い。
   王城に到着し、気配のする部屋。アストの来客用の一室まで息を付かずに向かったのだった。


「おぉーこれはこれは、”王位継承4位ゼッガ・G・アルバス将軍”ではありませんか」

   部屋に入ったゼッガを迎える声はゼッガが1番に聴きたく無いのではと思える者の声。

「帝国の将軍、脱兎のゲヌファー様がこんなところに居るとはな。飛んで火に入るなんとやらたぁーこの事だな」

   部屋に入るやいなや、大胆な歓迎を受けるゼッガも相応に返すも、ゲヌファーの座るソファの後ろに待機する者。虚ろの目をしたゲヌファーの側近が剣に手をかけゼッガに視線を送るが、ゲヌファーは手を上げ止めるように指示をした。

   帝国の将軍。
   それは、王位継承4位のゼッガ、王都アルバスの軍をまとめる将軍としての地位を持つゼッガにとっての宿敵だった。
   帝国と王都の抗争は拮抗している様に見えてゼッガの力でほぼ事足りる事は他国などは、あまり知られていない。
   実際には帝国側からほぼ一方的に仕掛けられた抗争であり、実のところ王都アルバスが本気で帝国を潰そうと思えば一瞬である事はこの場にいる者、ゲヌファー以外、アスト、ネゼリア、ワクレギの全員が知っている事であった。

   知らぬからこそ、今もゲヌファーは敵地に単身乗り込み踏ん反り返っているのであった。

「で、なんでこんな野郎がここにいるんだ」

   ここでゲヌファーをぶっ殺してやってもいいとも考えるが、状況が状況である為に流石のゼッガも情報を聞き出そうと踏み止まる。

「それは私から説明しようゼッガ。いやさせて欲しい、よろしいかなゲヌファー将軍」
「えぇ、異論はありません。あなた方の理解力というのを知っておく必要もありますからね」

   傲慢な態度を続けるゲヌファー。そんな彼を口元を隠し笑うネゼリア。
   やはり好まない空気に短気のゼッガは今にもこの場から出ていたい気持ちでいっぱいであった。
   故に説明すると自らの名乗り出たアストは早急に考えをまとめゼッガに説明するのであった。

「終戦協定だ。我々と帝国の戦いは終わる」

   空気の一新を感じざるを得なかった。

   ゼッガは、ただその場で目を見開き驚愕するしか無かったのだった・・・。



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