何ノ為の王達ヴェアリアス

三ツ三

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第37話 竜拝

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   北区の配給も何事も無く終え、インジュとルジェの2人は帰宅した。

「お風呂湧いてるご飯できてる、洗濯物も掃除も完璧。多様性を求める現代において変えのきかないオーパーツ。最強の専業主夫とは私の事だッ!!! 最先端技術を取り入れた開発も可能な隙の無い布陣、あまりに最強ッ!!!」

「「いただきます」」

   完全に無視しての無慈悲な食事の始まり。
   ルジェがここへ住み着くようになってからインジュも感化されたのか、先生の言葉をあまり取り上げない空気が出来上がっていたのだった。

「それで、その後の調子はどうなの?」
「聞いて驚きたまえ! 現状出力は300%を超えつつもその安定感を保持しつつ、期待以上のフォルムを形成し尚且つ」
「貴女じゃないわよ」

   ルジェの言葉に肩を落とし黙って作業台へと戻る先生。そしてルジェが向けた相手であるインジュは食事を口に入れたまま驚いていた、自分の事なのかと。

「えーっと、まぁ今のところは問題無いと思います。あの後も結局魔力は使えない状態に戻ってしまいましたが。気持ちとしては晴れやかというか何というか」
「そう。でもその調子だと”記憶”の方はまだみたいね」

   インジュが感染体へと変異してから数日の時が流れ、インジュ自身大きく変わった事は無かった。正確にはインジュの身体という点だけは変わらなかったという事だ。

「貴方が感染者と呼ばれた事、この下水道で発見された事。聞けば聞くほど自分の無関心さに頭が来るわね」
「そんな! ルジェさんは別に何も」
「両方の頭、だろうよ少年」
「あ・・・すみません」

   ルジェは大きく溜息を吐き脳内を整える。
   ここ最近の王都で起きる出来事のほとんどにはインジュという存在が必ず絡んでいるのは確か、インジュ達に聞いても殆どが偶然であると口を揃えて言う、もちろん嘘なんて言ってはいない。

   しかしルジェにはただ巻き込まれただけのようには思えなかった。確かにあらゆる出来事の偶然でインジュがその場に居合わせたという事は考えられる。

「まだ、後手に回ってる。どうしたものかしら」
「あのルジェさん」
「ん? 何かしら?」
「ルジェさんは・・・どうして、その」

   はっきりとしない物言いのインジュに小さく息を吐いた。誰にもその感情を悟られる事無く、いつもの調子の自分、ルジェという人物のままルジェは口を開いた。

「良くて? 貴方は確かに魔力が使えない、世間知らず、非力の子供達と何ら変わらない、成長期なの」
「成長期・・・ですか」
「保護者があんなんだと知ったら誰だって目を配らないとって思うものよ。それに・・・」

   ルジェは食事を止め、右手のウィザライトを眺めた。
   インジュに言った言葉、全てが自分自身にも掛かっているとルジェ自身が感じている事だった。本当ならこんなことする必要も無い、これをやったところで何なるというのか。
   復讐?
   そんな事は一切考えてないと言ったら嘘になる。しかし今のルジェにはそれ以上の物があると感じていた。

   自らの身を呈する価値のある物を。

「それ・・に?」
「何でも無いわ、とりあえず貴方は貴方のやりたいようにしなさい。いざという時は、また引っ叩いてあげるわよ。さっさと食べて早く寝なさい! 明日は朝早くに本部に行くのでしょう!?」
「は、はいぃ!!」

   わかったようでわからない。そんな事は日常的に当たり前の様に混在している。
   決してルジェも無いと言い切れるものでは無い。
   ルジェ自身もまたインジュという存在を言い訳に、今は前に進んでいるという事はルジェ自身も少なからずわかっている事だが、それはまだ全面的に認めたく無い、そんな小さなせめぎ合いが今のルジェを作っているのはだけは間違い無かった。

「ご馳走様でした! ではお休みなさいッ!!」
「ちゃんと風呂は入れよー」
「はい!先生!」

   そそくさとその場を後にしたインジュ。
   先生達の作業台が一緒にあるリビングには、静寂が。ルジェがゆっくりとスープを飲む音だけが聞こえていた。

「こんなんな保護者としてはルジェ嬢が居てくれて本当に助かってる限りだよ」
「別に感謝して貰いたくてしているわけではありませんわ。それでもお礼を貰えるのでしたら、貴方の正体の1つや2つ、教えて貰いたいわね」
「がははははは、それはまた追々だね~」

   ルジェ自身がウィザライトを扱う様になってから先生と絡む数は格段に増えている。
   実際にルジェの知らない魔力関係の事やウィザライトの事は殆ど聞けば答えてくれる程には溶け込んで居た。
   しかし、ルジェが言った様な肝心なところは頑なに口を開く様子は無い。だからか、ルジェはふと思うのであった。前の自分なら実力行使で従わせる、もしくは馬鹿みたく食い下がって時間を無駄に浪費していただろうと。

「本当に感謝しているよ、あの子は任せる」
「・・・お断りよ」

   その会話だけでルジェにとっては十分だった。
   急ぎたい気持ちも大いにあるが、今はまだその時では無い。気持ちの余裕が出来ている、そんな自分に酔い痴れているからでもある。

   それは必ずも必要な事なのだとこの下水道で暮らす様になってから感じて居た。それはきっと、ルジェだけでは無く、インジュもまた同じ様に感じていたのだった・・・。



   本当なら・・・このまま緩やかに時が流れてくれればいい、と。











「救いが・・救済が、私達を・・・救い・・・!」
「だから! 何故王都アルバスへと来たのかと聞いているんです!」

   翌朝の警護団本部では事情聴取が行われていた。
   インジュとルジェも扉越しでその聴取をカルスと共に見ていた。

「見て頂いてる通りです。元感染者、しかもインジュさん達にお送りした情報の通り、殆どが帝国出身の人間達でしたが」
「まるで話にならない。虚言・・・上の空、聴き出すには骨が折れそうね」

   感染者を元に戻し、住所が定かで無い者達を療養し、一先ずは警護団で預かる形をとったが、その思惑は単純明快。突如として帝国の人間達が王都に増えているという現状の解明の為の保護である。

「終戦協定・・・やっぱりゼッガさんが言っていた物と関係が?」
「そうねですわね、無関係とは言わないだろうけど。王城からの説明も無い現状・・・」

   考えを巡らせても答えは出ない。
   終戦協定。
   インジュとルジェが知ったのは、感染体インジュの騒動を終えてた次の日だった。
   突然警護団に現れたゼッガはインジュとルジェの面会を希望し、すぐさま2人は駆けつけた。
   色々言葉を重ねたい思いのあるインジュとゼッガだったが、ゼッガは要件だけを伝えすぐに立ち去った。その要件というのが帝国と王都の終戦協定だった。

「あぁーもうちょっと詳しく説明しなさいよねあの馬鹿」
「それでも、ゼッガさんが思い詰めていた原因の1つなのは間違いありませんよ。きっと何か・・・」

   帝国から終戦協定。そして突如として王都に増えた帝国民。
   この謎は必ず何処かで結び付くはず、そう2人は確信めいた物を持っていた。
   警護団の力を借り、どうにかして解明に一歩近付きたいと願っている・・・。

「もう一度お伺いします。貴方達はどうして王都へと来たのですか。貴方の言う救いとは、感染治療のお話をされているのでしょうか」
「感染・・・? 治療・・・? 治療・・治・・治治治治治治ッ!!!?」

   聴取を受けている者が大きく震え出した。

「まさかッ!!?」
「逃げろッ!!」

   すかさずカルスは扉を開け中の警護兵を呼び込む。
   そして同時にインジュとルジェは扉の中へと飛び込んだ。

「「ライゼーションッ!!」」

   ウィザライトを起動し、様子を見る2人、その後ろには逃げた警護兵とカルスが睨みを利かせていた。

「治療・・・あれは違うッ!!! 救いでは無い!!! 本当の・・・! 我々の求める物はぁあああああッ!!!」

   ガクガクと歪な動きを見せながら立ち上がる。
   息を飲む暇も無くインジュとルジェは対峙する、いつでも元に戻せる様に意識を集中していた。

「全・・て! は、・・人のッ! 世・・め・・!! 王のおぉぉおッ!!! 救済ぃぃいいいいいいいいッ!!!!」

   両手を大きくあげたその時だった。

「ッ!? これは・・・」

   インジュとルジェは、警戒を解いた。
   それもそのはずだった。目の前にいたはずの者、元感染者だった者が、消えた。

「一体何が・・・」

   呆気に取られるインジュ。
   目の前にいたはずの人間が、突然光の粒子へと変わり消滅していったのだった。

   もしかしたらと警戒していた。感染者になるのかもしれないと。
   それは隣で構えていたルジェも同じ。まさかこの状態で感染者へと変異してしまうのでは無いかと共にいたカルスでさえ感じ取っていた。
   しかしその結果に、その場に居た者達は困惑せざる終えなかった。

「・・・完全に身体だけが消えてる。カルスさん、至急他の警護兵達への情報共有」
「はいもう繋げてます! 現状、同じ事態になっているという報告は無いそうです。一先ず今後の事情聴取は取りやめる方向になると思います」

   姿を消した者の衣服を漁るルジェに即時対応を見せるカルス。通信で警護団の上層にすぐさま掛け合い現状の報告を行なっていた。
   何がきっかけでこうなったのか、当然誰もわからない。
   もしくはきっかけなど無いのかもしれない、と。考えを巡らせているインジュもルジェと一緒に衣服を覗く為に屈んだ。

「・・・これって」

   ズボンのポケットの中をインジュは弄り取り出した物。
   それは何の変哲も無いただの紙切れ。
   しかしその紙切れを見てルジェの表情は険しくなった。

「包み紙・・・」

   ルジェはインジュと同じ様にポケットを弄る。すると同じ様な紙が次々と出て来る。
   インジュにはただの紙切れに思えるだけの物だったが、ルジェはそれが何なのかすぐに気が付いた。

「西区の教会・・・龍脈信仰の教会から配られるパンの包み紙よ」
「配給の・・ですか。何でこんな・・まさかッ!」

   インジュの脳裏に嫌な記憶が蘇ってしまい、部屋の入り口を見てしまった。
   インジュと目が合ったのは、2人の会話を黙って聞いて居たカルスだった。

「まだ可能性の話だけれど、考えたくは無いわね。すぐに」

   ルジェとインジュ、2人はすぐさま立ち上がった。
   不吉な空気がまたしても2人を突き動かす。
   西区に存在する龍脈教と呼ばれる集団。そこに何かがあると。

   そしてそれは同時に起きた。
   またしても、着々と歩む2人をあざ笑うかの様に、後手に回すかの様に。

「大変です!!! 西区が・・・”竜拝”教の本部がッ!!」

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