【完結】投獄中の売国奴が出会ったのは、敵国の泣き虫王子だった。 ~期待された神器が"柄"ってだけで迫害を受けた~

三ツ三

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投獄中の売国奴と泣き虫王子の二人は、出会いから始まる。

2.食事を出された者、食事を出した者

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 発声練習に気を取られてしまい扉が開く音に気が付かなかったとは、昔の俺なら絶対にぶっ叩いていただろう。

 なんてくだらない事を考えているとあの時の彼がランタンを片手に明かり照らしながらこちらに近付いてきた。

 そして初めて俺は彼の顔をしっかりと見た。

 綺麗に整った短い金髪。
 瞳はエメラルドの鉱石に引きを取らない程の美しい翠色。

 そして健康的な肌、まだ子供の福与かさが捨てきれないがシュッとした顔立ち。

 あぁ、間違い無い天使だ。
 俺のお迎えの天使に違いない。なんか変だと思ったんだよ、急に体が動かせるようになったと思ったらそうゆう事か。

「あの、おはようございます」
「おはございまう・・あ、違う。ちょっと声、上手く」

 ここへ来て何故俺は噛んだんだ。いや違う、たった3日でよくここまで回復させたと褒めるべきだ、うん間違いない。

「・・・えっと、食事ってもう済ませました?」

 久しぶりに聞くワードに俺は一瞬意識を飛ばし掛けた。

 食事。
 その言葉を脳で受け取った瞬間、急激に全神経が食べ物を求め始めた。
 そうか、これがよく聞く、最後の晩餐って奴か。


 そして彼は恐る恐るトレーに乗せた食事を鉄格子の下からこちらに押し込んでくれた。

「これが・・・」

 出された食事へと伸びる手が震える。
 まるで自分の意思とは関係なく身体がそれを欲していた。

 パン。

 それを掴み口に運んだ瞬間、不思議な温もりが俺の凍り切った全身を溶かすかのような感覚を与えた。

 これは・・・融ける!

 最後の晩餐とはこんなにも衝撃が走る物なのか。
 訓練兵時代の地獄の1週間後の食事以上の衝撃が俺を襲っている。
 こんな物を味わったら身体が、座っていられ・・・。

「ぁ~~~・・・」
「倒れ!?えぇ!?え?え?えー!? 大丈夫ですか!? なんか変な物でも入ってましたか!?」
「あぁ・・・毒入ってた」
「そんな!? どうしようどうしようどうしよう!!」
「幸せって毒・・・入ってた」
「え・・あ、あはは、はい」

 急に声を上げたと思ったらまるで渾身のギャグを苦笑いで済まされた見たいな空気を作られてしまった。
 ギャグでも何でもないのだけれど。

 それからの俺はもはや歯止めの効かない猿型モンスターと同等の生物と化した。
 出された食事をこれでもかという程に味わい続けていたのだった。

「美味しいですか・・・って聞くまでもないですよね、ふふふふ」

 そんな俺をペットを見るかのように微笑む。それを見てもなんでか苛立ちは覚えなかった。
 こんな事で笑えるなんて変わった奴だなくらいの感想しか出なかった。

「あっ時間! ごめんなさい、食器はお昼に食事持ってくる時に取りに来ますので! ごめんなさい!!」
「あっ・・・」

 そそくさとまた彼は、ランタンも持たずに出入り口に走って行った。

「気を付け――」
「ふべっ!! いたたた・・・!」

 俺の注意があまりにも遅かったようで綺麗に転んで行ったな。
 そして立ち上がりぺこぺこと何度も頭を下げて彼は、再び部屋を後にしたのだった。

「・・・あむっ」

 出された物をまだ貪るのかというくらいに意地汚く俺は堪能していた。
 堪能しながら、一緒に発声練習を怠らなかった。

 この言葉だけは、間違えないようにする為に。

「あーあー。・・・名前は、なんて言うんだ?」


 次の挨拶はこれで決まりだ。
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