【完結】投獄中の売国奴が出会ったのは、敵国の泣き虫王子だった。 ~期待された神器が"柄"ってだけで迫害を受けた~

三ツ三

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信じたい王子と裏切られた売国奴

14.弄ぶ魔物、立ち上がるルビヤ

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 あまりにも大きな巨体と人間では到底出す事のできない雄叫びが空間を掌握していた。

 誰もがその存在に立ち向かう事を躊躇している中、ルビヤは一人その存在、サソリの魔物から逃げていた。

「っ!! 視界はあまり良くないように見えるけど、追い付かれたら終わりだ」

 多くある障害物、ルビヤよりも大きい結晶や岩壁を巧みに使い、とにかく視界から逃れようとしていた。
 魔物は多くある障害物を次々と破壊しながら逃げ惑うルビヤを追い続ける。
 だが、壊せば壊すほど、障害物は増えて行き小さいルビヤにとっては逃げる先が増して行く事になる。

 それでもルビヤにとっては好機という訳では無い。
 どれだけ逃げようとも、この場から帰れる術が無いからである。当然、襲い掛かる敵を倒そうなんて思えるはずも無く、今はただ逃げの一手に徹するほか無かった。


「はぁ・・・はぁはぁ・・・ふぅ」

 物影に隠れ荒い息を整える。
 恐らく下手に物音を立てては気付かれてしまう可能性もある、こうして時間を潰して少しでも体を休ませなくては、ただでさえ勝機が無いというのにジリ貧になっては元も子もない。

 魔物の様子を物影から見ようと、バレないように頭だけを出した時だった。

 巨体の身体に火球が直撃した。

「見たか魔物!! これが私の力だ!!」

 それは、パーズの放った魔術だった。
 ルビヤはその光景に驚きを見せた、一番最初に攻撃を仕掛けたのがパーズ出会った事に。


「何をしている貴様等! 私に続け、こんな魔物など私の魔術で倒し―――っ!」

 まるでパーズに言葉を喋らせまいと敵の刃尾がパーズ達のいる出入り口を斬り付けた。

「ぐあぁあああ!!! あぁあああああああ!!!!」

 不運にもサソリの攻撃に逃げ遅れた盗賊が一人が呆気なく殺されたのだった。
 血飛沫を上げ、その場一辺を自らの血で汚し尽した。
 その血は他の生存している者達にも降り注ぐ。
 
 そしてパーズにも当然、現実を突き付けるかのようにその光景を脳裏に刻んだのだった。

「な、なな・・・なんだこれは、何をしている貴様等、は、早く!!」
「ま、また来るぞ!!!」

 敵が再び刃尾を大きく振り上げた。
 今度は出入り口を切り裂くのでは無く・・・貫く為に。

「っ! お前!一体何を!!」
「雇い主は私だ!! 私を守るのが当然だろう!!」
「離せ! やめろ!」

 盗賊の一人を羽交い絞めにし、攻撃が来ると同時に蹴っ飛ばす。簡単な作業、手慣れた物だった。
 出入り口全体を隙間無く襲い掛かる刃尾、パーズの手によって逃げ遅れた男の末路は誰も予想出来る物だった。

「助け―――」

 全身を巨大な刃が貫き殺し、サソリの魔物は獲物をようやく捕えた。

 刃尾を出入り口から引き抜き、自らの刃に付いた死体を口元に運んだ。


(食ってる・・・人間を、食べた!?)

 遠くから隠れて眺めていたルビヤにとってはあまりにも衝撃的な光景だった。
 人間の骨が噛み砕かれる音、肉片がすり潰されるような音が空間内に広がる。

 それを聞いたのはルビヤだけでは無かった。自分達に起こった事と見えない光景から音だけが耳に入った者達。
 何が起こっているのか、不愉快にも思えるこの音の正体は何なのか。

「駄目だ、に、逃げろぉぉおおお!!!」
「出入り口を壊せ!! 火球魔術だ!!」
「何を勝手に指示を出している!! 貴様!!」

 パーズの言葉を無視しルビヤを投げ捨てた大男が盗賊達に指示を出す。
 すぐに皆が魔術を唱え全員で一気に出入り口へ向けて魔術を放ち、出入り口を壊そうと試みる。
 思惑通りに次々と目の前の通路は崩れ落ちて行き、盗賊達は引きながら魔術を使い出入り口から自分達の道の殆どを崩壊させた。

 これでもう、魔物は追って来れない。あの空間に封じ込めれた。

 ルビヤ一人を取り残して・・・。


(出入り口を封鎖したのか・・・。でも、あんなのが野に放たれたらシアマ村は壊滅していた。そう考えよう)

 これで完全に逃げ道を失ってしまった。もしかしたらまだ何処かにここから逃げ出せる道があるのかも知れない。
 けれど、目の前の魔物から逃げながらそれを探すのは容易なことでは無い。
 手段はもはや限られていた。

「そう・・・ですよね」

 限られているのならば、それに尽力するだけだった。
 諦める訳では無い。

 そんな事はしたくない。何故なら彼ならきっと諦めないだろうと、勝手に想像していたからだ。

 自分は信じたのだから、彼の言葉。
 数多の戦場を生き抜いてきた事、それが事実ならばきっと本当の英雄のような存在。

 いや、ルビヤにとっては英雄以上の存在にもうなっていた。 

「知らないからこそ輝いて見えた。あんな暗闇しか無い世界で、あの人は輝いて見えたんだ」

 初めて出会った時は、逃げてしまった。
 けれど、それが常に心残りだった。彼は一体何なんだろうと、好奇心と共に何かを見出していたように思えた。
 だから、再びあの暗闇の中に足を運んだ、もう一度確認する為に・・・。

「だから・・・あの時と、同じだ」

 ルビヤは意を決し、地面に落ちている砕かれた結晶を握りしめる。

「踏み込め・・・同じように!!」

 震える足に喝を入れる。あの時、牢獄の出入り口に立った時と同じように。

 ルビヤは一歩を・・・踏み出した。

「僕が・・・僕がお前を倒す!!!」

 握られた結晶を短剣に見立て両手で持ち魔物へと駆け抜ける。

 だが、ルビヤの存在に気付いた瞬間咆哮が響き渡り、走るルビヤを吹き飛ばす。

 地面へと叩き付けられて顔を切ってしまい血を垂らしながらもルビヤは立ち上がった。
 ゆっくりと近付く巨体の敵に対して退く事を捨て立ちはだかる。

 脳裏に浮かぶのはシアマ村の人達。
 出入り口が無くなったからと言ってこんな所に放置している訳にはいかない。
 もしかしたら冒険者を準備する前に村が襲われるかもしれない。そんな事、認める訳にはいかない。

 だから、ここで立ち上がらなくてはいけない、退く訳にはいかない。


 巨大なサソリが目の前まで姿を見せる。


「・・・はぁああああああ!!!!」

 咆哮に劣る声を上げながら突撃する。

 だが、片手間の如くルビヤは薙ぎ払われた。
 吹き飛ばされ激突した結晶が砕け散る程の衝撃がルビヤの全身へ響き渡る。

 もはや痛みを感じているのかどうか、神経がおかしくなってしまっている事がわかるほどにルビヤの身体は一撃でボロボロにさせられていた。

 それでも・・・ルビヤは立ち上がった。


「僕、僕は・・・うああああああああ!!!」

 それでもルビヤは、足を前へ前へと推し進めた。

「ぐはぁっ!!!」

 弄ばれるように次から次へと吹き飛ばされ続ける。
 地面に叩きつけられ、生える結晶を貫通させられ、玉遊びをするように向かうルビヤを薙ぎ払っていった。

「ぅ・・ぁ・・・! ぐぅ!!」

 全身が血塗れになろうとも、片腕の骨が折れようとも。握っていた結晶がもう持つことすら出来なくとも。

 ルビヤは、何度も、立ちはだかった。

 最後まで諦めなかった。

「はぁはぁ・・・はぁ」

 立ち上がったルビヤを吹き飛ばしていたサソリの動きが変わった。

 それは、終わりを告げる物だった。
 自慢の刃尾をルビヤに見せびらかすように高く掲げられた。

 この一撃で終わり。これでもうルビヤの体はあの盗賊のように食われておしまいなのだ。

 それでも、ルビヤは全身から力を抜く事を止めなかった。

 最後の最後まで、諦めたくないから。

 もう、多くから逃げてきた自分ではないのだから。


「・・・っ!」


 それでも・・・それでも刃尾が動き出した瞬間、目を瞑ってしまった。
 抗えない本能。死ぬ覚悟が出来ていたとしても、それは逆らえるモノではなかった。

 最後の最後に情けない自分を出してしまった事に嫌気が差した。

 あの時偶然だったとしても、泣いている姿を見せてしまった時のように・・・・・・。

























「よく・・・頑張ったな、本当に、本当に・・・ルビヤ」


「・・・フォーズ・・・さん?」


 全身血まみれの姿に涙する者。

 泣いている姿が、自分へと向けられるそのフォーズの涙がカッコよく思えたルビヤだった・・・。
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