【完結】投獄中の売国奴が出会ったのは、敵国の泣き虫王子だった。 ~期待された神器が"柄"ってだけで迫害を受けた~

三ツ三

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信じたい王子と裏切られた売国奴

16.見放された存在、信じられた存在

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「あれ・・・なんだこれ?」

 久しぶりに持つ贈呈具は光り輝いていた。
 それと同時にふと変わった異変に気が付いた。

 柄頭に、穴が姿を見せたのだった。
 本来あるはずの刃とは逆に位置する場所。

 俺はふと片手に持つ結晶を中に入れようとする・・・。

「入んねぇええじゃねぇえかぁああー!!!」

 脳裏に浮かんだのは、結晶が上手くこう、すぅ~って入るイメージだったのだが。そうは上手くいかなかった。
 長い間邪険に扱っていた物に希望の光が灯ったと思ってしまい、一気に気を落としてしまった。

「それに上手くハマる物を探せばいいんですね!!?」
「え?」
「僕探します!! これだけあるんだから、きっとあります!! 待ってて下さい!!」
「え、あ、はい」

 ルビヤは一人気合いを入れて砕け散った結晶を探そうと動き出した。
 今にも倒れそうな容体なのに、こんな柄が突破口になるわけも無いのに。
 これは俺にとって不幸なアイテムなんだ、これがあったから色々と俺の人生をめちゃくちゃにした代物。
 そんな物の為に、ルビヤが身を削りながら力になろうとしている姿は、あまりにも心に来る物があった。

 それでも、無理はさせられない、そう告げようと、ルビヤを止めようとした瞬間。
 サソリがようやく起き上がり怒り狂った雄叫びをあげながらこちらへと急速に接近してきた。

「ルビヤが頑張ってくれてるんだ!!!! 邪魔すんじゃねぇえええええええ!!!!」

 つい思った事を激情した気持ちで口走ってしまいながら、俺は向かってくるサソリに応戦する。
 地面を這いつくばり、俺が見せた柄に合うサイズを探すルビヤの姿が目に映る度に力が入った。

「ふんっ!!!」

 超速で勢いを付けてサソリを蹴っ飛ばしたが、俺の攻撃を物ともしない様子で片手で防がれてしまいサソリの反撃が始まる。

 相も変わらず、巨体を振り回すだけの行動。
 そんな単調な攻撃、誰が当たるかって―――。

グチャァ・・・!!

「ぐちゃ?」

 何かが俺の顔面を横切った。
 振り返り横切った物を目にして俺は絶句した。

 何あの白いネバネバ。
 こいつ、攻撃バリエーション増やしてきやがった!?

「やばっ!」

 今まで両手で見え隠れしていた恐らく急所である顔面を前面に出し始めた。
 口から唾を吐き出すように次々と俺目掛けてありとあらゆる形の粘液を飛ばし始めた。

「ひぃ! ちょっ、マジかよ!! あぶねっ!!」

 振り回される巨体から避け続けろから今度は白い粘液を避け続けろに移行していた。
 体の動きを見極めていれば前者はあまりにも楽だったのに変わって、飛ばしてくる粘液はあまりにも不規則でちょっと辛い気持ちが押し寄せる。
 偶然なのか狙ってやってるのか、俺を狙って放たれる粘液が毎回毎回大きさも速度も角度も何もかもが違う。
 そこらの魔術師の遠距離魔術よりも性質が悪いのは、弾けないという事だ。

「うえっ、臭っ!!」

 下手に触れたら動きが制限されるに決まってる。ねちょねちょにされて終わる未来しか見えない。

 それでも何とか高速で移動しながら同じところに出来るだけ留まらないように動き続けた。
 粘液をあいつ自身に押し付けたらどうかと思ったが、足元にある粘液食ってる姿を見て無理だと一人悟っていた。

 そんな中、一つだけやらて欲しくない事が俺の中にはあった。

 そしてそれを実行しようと、サソリが俺から目線を外したのだった。

「まずい!!」

 そうこの空間にいる、標的を変えられる事が、俺のされて一番困る事、困るレベルでは無い物だ。

「ルビヤ!!!」
「・・・っ!」

 俺の声が届きすぐに行動を移そうと動くが、損傷の激しいルビヤにはあまりにも酷な話だった。

 そして狙いを定めたサソリが粘液を容赦無く放たれた。

 サソリとルビヤの間にはそれを阻害できる物は当然なかった。
 だから俺がやる事は一つしかなかった。

「フォーズさん!!!」

 ルビヤの間に入り粘液を受ける。それが俺のやるべきこと。

「うわぁ気持ち悪ぃぃ・・・大丈夫かルビヤ」
「僕は何とも、それよりも!!」
「あぁ、両手は塞がったけど足が動ければまぁ・・・って!?」

 ほら、大丈夫と足を上げて見せようとしたのだが。一切足を動かす事が出来なかった。
 まるで岩の中に下半身ごと埋められた様な感覚。急速で固体になったってか。ここまで拘束力があるなんて聞いてないし思っても見なかった。

 流石にヤバいな。
 拘束された俺を見るや否やサソリがまるでステップをしているかのようにこちらへ向かってくる姿が目に映ってしまった。

 目線を落とすと、その先にはルビヤが居たのだった。

「何してる! お前は逃げろルビヤ!!!」
「駄目です!フォーズさんを見捨てれるわけないじゃないですか!!」
「それこそ駄目だ! 俺は死んでも大丈夫な人間だ、誰も悲しまないし誰もわからない。けどお前は違うだろう!!」

 ここへ来る途中。多くの人に見送られた。

 誰もが口を揃えて俺に言った言葉。

『ルビヤ様をどうか・・・お願いします!!』

 その言葉の意味、重さ。
 それを背負って俺はここへ来たんだ。

「もうすぐ援軍が来る。俺はそれまでの時間稼ぎだ。これはお前を救い出す為のモノなんだ、だから!!!」
「そんなの知らないです!! 嫌です!!」
「子供みたいな事を言うな!!!」
「やだぁああ!!!」

 泣きながら手に持った結晶で俺の手をこじ開けようとしていた。

 それを見て俺は言葉を失った。
 まさか、見つけたのか? 柄に収まるサイズの物を。

「やだぁあ!! フォーズさんが・・・! 死ぬのは嫌だ・・・!!」

 ガツガツと何度も何度も結晶で掘ろうとしていた。
 目指すは贈呈具。

 忌まわしい物、誰もが期待し落胆した存在、俺でさえそれがわからずにここまできた。
 何の為に生れて何の為に存在しているのか、誰も理解される事の無い贈呈具。

 俺はそれを呪った。
 これは俺を陥れる為に生まれた物だと、呪い続けた。

 薄れた記憶でも間違い無くそう思っていたに違いない。

 そんな物を、ルビヤは・・・ルビヤは。



 たった一人その価値を見出そうとしていた。




「・・・ルビヤ」
「やだぁ!! 聞きたくない!!!」
「あぁ・・・きっと大丈夫だ。大丈夫・・・」

 ルビヤが信じるなら。

 俺に暗闇から抜け出すきっかけをくれたルビヤがそう言うのであれば・・・。


「俺も・・・これを信じて見るよ」



ガツンッッ・・・!!!!!



 思いっきり打ち込んだ音が響いた瞬間だった。
 再び俺が握り締めていた贈呈具とルビヤの持つ結晶が光り輝いた。

 俺とルビヤは真っ直ぐお互いの見合い頷く。

 贈呈具を握る手に押し込まれるような感覚を感じる。結晶が入ったんだ。
 

「っ・・・!」

 その瞬間、俺の中で世界が一変したようだった。

 ありとあらゆる抱き続けた憎悪が吹き飛ぶような感覚だった。
 力を手にした。だから消えたのでは無い。

 きっとそれは、間違いなく。贈呈具、俺だけの贈呈具。

 ルビヤが、たった一人で信じてくれたから生まれた存在。

「・・・綺麗」

 俺とルビヤの二人は・・・贈呈具から出ている"青白い光"の刃に見入ってしまっていた・・・。
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