【完結】投獄中の売国奴が出会ったのは、敵国の泣き虫王子だった。 ~期待された神器が"柄"ってだけで迫害を受けた~

三ツ三

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日常を知る売国奴と屈しない王子

19.曖昧なフォーズ、曖昧なエルター

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 自分の痛みに耐えながらも俺の事を見ようと体を動かすルビヤ。

 下手に動けない事を悟り、首だけを横へ向けると俺と一緒に卵?がルビヤの目に映った。

「あぁ、よかった。これも無事だったんですね」
「これが何かわかるか?」
「多分・・・生まれ変わり、だと」

 うわぁ、嫌な予感が的中したよ。
 つまり、ここから別のサソリが生まれるって事か。大丈夫なのだろうか。

「きっと大丈夫ですよ、実はあの魔物も本当は悪い魔物じゃなかったみたいだし」
「そんな身体にされてもか?」
「あはは、そうですね」

 溜息がつい出てしまう。
 お人好しのレベルを超えているとしか思えないな。

「今エルターの爺さん呼んでくるから」
「あっ・・」

 立ち上がった途端ルビヤは小さく呟く。
 なんだかかんだ子供なんだなこいつは。俺は仕方なく手を伸ばす。

「大丈夫だ、当分は傍に入れると思うから。心配するな」
「・・・はい」

 頭を撫でると物凄く喜んだ顔を見せられた。たったこれだけでそんなに喜ばれるとこっちまでなんか嬉しくなるな。

 それからは、宿屋の待合室でルビヤの目覚めを待ちながら話し合いをしている場所へと向かった。
 話し合いとは言っても、誰もがルビヤの安否が気になっている様子だった為に会話という会話は行われていなかった。

 そんな中で俺がルビヤが目を覚ました事を告げた途端の歓声はヤバい物だった。

 我先にとルビヤの部屋へ突撃しだそうとする奴等を止めるのに大変だった。エルターの爺はそんな様子を楽しそうに見ていたのだけは覚えてるからな。

「本当にありがとうございました!! 従者さん!!」

 ん?従者?

「こんなにもお強い方がルビヤ様のお傍に居れば私達も肩の荷が降りるという物です!!」
「これで怖い物無しですね、いやー流石ルビヤ様です」
「は、はぁ・・・どうも」

 なんだろうか、色々ツッコみたい所はある。けれど、なんか変な気分だ。

 あ、そうか。ここまで称賛された事って俺無かったのかな。
 オリオセージの騎士団に居た時なんて俺の功績はほとんど将軍かそれに準ずる上の人間だった。
 更に言えば、俺はそうゆう物だと解釈していた。だからこういった真に受ける機会なんてほとんど無かったようにも思える。

 流石ルビヤ様か。その通りだな。

「ではでは、村長殿とフォーズ殿と私で向かいましょう。ルビヤ様は完治しているわけではございません故、皆様どうかご理解くださいませ」

 深々と頭を下げるエルター爺さんに、村の人々はならば仕方ないとさっきまでの勢いが嘘のように宿屋の出口へと帰って行った。
 一時の感情ってやつなのか。まぁそれだけルビヤが心配で仕方無かったということか。

 そうして俺と村長、そしてエルター爺さんの3人でルビヤの下へと向かったのだった。

「おぉー!! ルビヤ様! ご無事で何よりです!!」
「村長さん、すみません。心配をおかけしたようで」
「何を言いますか! と言いたいところですが、物凄く心配してしまいましたよ!」

 ルビヤの復活に感極まり泣き出す村長。
 そんな村長を励ますルビヤ、一体どっちが子供でどっちが大人なのか。

「では、ルビヤ様。軽く飲み物でもお持ちしたいと思いますので、フォーズ殿をお借り致します」
「え、俺も?」
「うん、わかった」

 俺の了承も聞かずにグッと腕を引っ張られて部屋のキッチンへと向かう事になった。

 簡易的ではあるが、しっかりとしたキッチンに俺は引き込まれた。エルターは手慣れた手付きで次々と飲み物の用意をしていた。俺いるのか?

「改めて、あなたには感謝しておりますフォーズ殿」
「まさか、それを言う為だけにか? 違うだろ」

 ここからは村長と会話をしていることもありルビヤにはこちらの声は聞こえないだろう。
 つまり、ルビヤには聞かれたくない事を俺に話したいと予想出来る。

 そしてそれはきっと・・・。

「俺出自・・・牢獄に入る前の事は、言わない方が良いって奴か?」
「察しが良くて助かります。当然私も出来る限りの事はするつもりです・・・だから」
「従者になれ、ってか?」

 俺の言葉にエルターは動きを止めた。
 気に障った事を言ったからでは無い、エルターは静かに虚空を見つめ考え、そして目を閉じ、口にする言葉を決めた。

「それは・・・あなた様にお任せします」

 意味有り気な間を作って出た言葉がそれか、他力本願にもほどがあるだろう。
 一体俺はそれをどう受け取ればいいんだか・・・。

「んじゃあとりあえず、任された。で、いいか?」
「はい、素晴らしいご返答でございます」

 本当にそう思ってるのだろうか、やや不安ではある。だが少なくとも俺がルビヤに敵対する事が無い限りこの執事から牙を向けられる事はないだろう。
 そして、俺がルビヤに剣を向けるなんて事は無い。これだけは断言できる。

 そんな事があるくらいなら、黙って身を引いて長い時間を掛けてでも忘れるようにする。

 当然、そんなことになる予定は微塵も無いがな。

「では、早速こちらを、お運び下さい」
「は? 別に俺はあんたの部下になった覚えは」
「お運び、頂けますかな?」
「・・・・・・」

 曖昧の言葉に対して曖昧な言葉で返された腹いせでも受けているのかと思ってしまった。

 けれど、一応言う事は聞いておいてやると思い用意されたティーセットが乗ったトレーを持ってルビヤ達の居る寝室へと向かった。

 凄く驚きながらも喜んだルビヤの顔を見せられた。

 これが狙いだったのかと、俺は疑ったのだった・・・。
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