【完結】投獄中の売国奴が出会ったのは、敵国の泣き虫王子だった。 ~期待された神器が"柄"ってだけで迫害を受けた~

三ツ三

文字の大きさ
22 / 50
日常を知る売国奴と屈しない王子

18.眠るルビヤ、整理するフォーズ

しおりを挟む

 牢獄の外での空気をしっかりと感じるのは日が落ちた時だった。

 全ての結晶の光が消え去ってからすぐ、エルター率いる救援が駆け付けた。
 ルビヤはそんなエルター達の姿を見て気を抜いたからか、俺に倒れ込むように気を失った。


「ではフォーズ殿、ルビヤ様の事を」
「あぁ、大丈夫だ。安静にさせてる」

 丁寧にお辞儀をするエルターを見送り、俺はルビヤの寝るベッドの横にある椅子に座る。
 
 白い包帯でグルグル巻きになっているルビヤ。
 付き合いはまだ浅いが、ここまでやる子とは想像も付かなかった。いや、俺の中の常識なんていう要らない歯止めがここまでやらないだろうと予想を濁らせたのだと思う。

「・・・お疲れ様。よく頑張ったな」

 布団から出ている手に軽く触れる。
 誰も言うであろう言葉を掛けるしかない。それ以上の言葉を思い至らないからである。
 どんなに取り繕ったってこの子には意味を為さないと思っているからだ。
 きっとこの子に必要なのは、心の底から想う気持ちなのだ。

「それにしても・・・色々凄かったな」

 ルビヤには劣るかもしれないが、俺も負けず劣らず色々あった。
 部屋の換気も兼ねて窓を開け村の景色を堪能しながら整理をする。

 まずは、俺がこのシアマ村に来れた事だ。
 まさか、牢獄で暇を持て余していた時に突然ぶつかった石がかなり特殊な魔石だったなんて思いもしなかった。
 ふと他の石の残骸とは違う事に気が付いて手に取った途端に脳内に声が響いたのだ。

『どうか届いて下さい、ルビヤ様の危機です。もう一度申し上げます』

 あの牢獄内で魔術が扱えるなんて思っても見なかった為、酷く驚いたが。事情が事情だけにすぐに応答すると、俺はその身一つを"転移"させられたのだった。

 目の前には初めて見る爺、エルターの姿だった。

 今いる宿屋に俺を転移させたようだった。
 何をどうすればこんな事が出来たのか問い詰めたい気持ちを抑えてすぐさま事情を聞いた。というところだった。

「そして、これか・・・贈呈具」

 手に持つ贈呈具に目を向ける。
 エルターには簡単に報告をするとまるでわかっていたような反応を見せた。何かしらあの爺知ってる気がするが、今は一先ず良い。

 まさか、ここまでとんでもない力を持ってるなんて、これを手にした時に誰が想像しただろうか。
 この柄には、魔石の力を増幅させる力あるようだった。

 そしてあの結晶、あの魔物が居た空間にのみ生まれていた結晶には自然が生み出した魔力を濃厚に取り込んでいた。
 
「そうか・・・まさか、エルター爺わかってて」

 実際に柄に入れなくても俺が手にする事で魔石の能力を飛躍的に向上させる可能性があるのかも知れない。
 であれば、最初に俺が牢獄で手にしたあの魔石は恐らく通信物、誰でも遠くでの通信が可能になる簡易的な物。それが転移させる代物へと変化させたとなると、一応は辻褄が合うか。
 当然のようにその後俺が手にしてた魔石とエルターが持っている魔石は砕け散ったが。

「贈呈具を手にした者には、物のみならずそれ相応の物を身体に宿す事もある。これがその力って事か」

 あまり物に頼るのが苦手な俺としては、魔石に触れる機会なんて早々なかったから気付くはずもなかったという事か。

 いや、待てよ。
 そう考えると色々な事がわかる気がした。

 俺があの牢獄で飲まず食わずで生きていた理由にも納得がいくな。
 魔術遮断の石で作られた牢獄・・・まさか俺はそこから魔力を少なからず摂取していた?
 可能性はあるが、何とも一気に胡散臭く感じてしまうな。

「何にしてもこれからやること、確認する事は山積み・・・これも一緒に」

 俺は再びルビヤのベッドへと歩く。
 そしてルビヤの枕下に置いたとある物に触れる。

「痛っ! なんだよ」

 それは、何なのかよくわからない物。
 ルビヤがあの戦いで最後に言った「何か出て来た」の正体。

 卵?鉱石?結晶の塊?

 嫌な予感しかしないそれをルビヤは気絶をしながらも強く抱きしめていた。
 流石に抱き締めたまま治療は出来ない為、すぐ近くに置かせて貰ったが。俺が触ると何かよくわからないビリッとした痛みに襲われる。

 睨むようにその卵?を眺める。
 もしこれが本当に卵なのであれば、本当に嫌な予感しか俺は居ないのだが・・・。

「・・・フォーズ、さん」
「おっ・・起きたか? ルビヤ」

 俺の状況整理は、ルビヤの目覚めによって終わりを告げた・・・。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

元商社マンの俺、異世界と日本を行き来できるチートをゲットしたので、のんびり貿易商でも始めます~現代の便利グッズは異世界では最強でした~

黒崎隼人
ファンタジー
「もう限界だ……」 過労で商社を辞めた俺、白石悠斗(28)が次に目覚めた場所は、魔物が闊歩する異世界だった!? 絶体絶命のピンチに発現したのは、現代日本と異世界を自由に行き来できる【往還の門】と、なんでも収納できる【次元倉庫】というとんでもないチートスキル! 「これ、最強すぎないか?」 試しにコンビニのレトルトカレーを村人に振る舞えば「神の食べ物!」と崇められ、百均のカッターナイフが高級品として売れる始末。 元商社マンの知識と現代日本の物資を武器に、俺は異世界で商売を始めることを決意する。 食文化、技術、物流――全てが未発達なこの世界で、現代知識は無双の力を発揮する! 辺境の村から成り上がり、やがては世界経済を、そして二つの世界の運命をも動かしていく。 元サラリーマンの、異世界成り上がり交易ファンタジー、ここに開店!

処理中です...