【完結】投獄中の売国奴が出会ったのは、敵国の泣き虫王子だった。 ~期待された神器が"柄"ってだけで迫害を受けた~

三ツ三

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眼鏡と売国奴と王子

37.差異と行動と開錠

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 曇りの無い満天の青空。
 風は涼しさを与え、墓地にいる二人を靡かせていた。

「まさか、こんなところにまで待ち伏せていたなんて。少し非常識では無いですか」
「この遭遇は偶然。そして私にとってここは、そんなあなたの言う常識を飲み込む訳にはいかない場所です」

 国安の制服が靡く姿のケイス。そんな迷いも無いただ真っ直ぐな姿にルビヤは目を見開いた。

 鋭い瞳がルビヤ自らを突き刺す。その先を見据えているかのように。

「そうですか、でしたら僕も見っとも無い姿は見せられません」
「ならば、改めて問いましょう。ここへ・・・あなたの母上様が眠るこの地に、一体誰を連れてこようと言うのですか。私の見立てでは、やはり奴隷なのでは無いですか?」

 奴隷。
 そんな言葉が耳に入ったルビヤの顔が強張った。当然ケイスはそれを見過ごす事は無く言及をしようと目を閉じ口を動かそうとした。

「僕の大事な人です。奴隷なんかではありません」
「やはり、誰か居たのですね」
「あの人は今、公の場に顔を出す事では出来ない、それだけは認めましょう。ですが、僕達は何もやましい事はしていません」
「ふっ、公表も何も出来ないけどやましい事はしていない、ですか。ご自身でおかしな事を言っている事はご理解してますか?」

 ルビヤは何一つ嘘を付いていない。
 それはケイスもわかっていることだった。だが、見えない真相を探し出すのがケイスの仕事であり、ケイスのやるべきことであった。

 だからこそ、ルビヤは今もケイスに曇り無き瞳を持って対峙していた。

「どれだけ事があろうと・・・あの人は僕が守ります」
「・・・守る? 何から」
「全てです。そしてこれは、決してアインドルゼを裏切る行為では無いと確信を持って言えます。もし僕の判断が間違っていたとするのなら、喜んであなたに捕まりましょう、少しでもあなたの"使命"に近付けるのであれば」
「・・・・・・」

 お互いの睨み合いは止まる事はない。
 どれだけの正義を振りかざそうと、己の信じる正義のみが正しさである。

 ルビヤとケイス。
 お互いがその事を理解していることをお互い認識した。
 悪事を働く為の対峙ではない。これは本当の真相を突き止める為の行いであると。

 深く考えるケイス。そしてこの墓地を離れようと動き出した。


「私は容赦しませんよ」
「受けて立ちます」


 去り際の宣戦布告。

 ルビヤは、ふと空を見上げた。
 きっと、ケイスという人物ともこんな出会い方をしなければ肩を並べられる存在だったに違い無いと。
 彼はきっとフォーズとは違う色を持った、正しい人間のはずなのにと。

 ルビヤは思った。
 それがもし、自分が思っている事がもし・・・ケイスも同じだったらいいなと、考えるのであった。



・   ・   ・



「奴隷商の元締めを襲撃!?」
「はい、力をお借りできませんかフォーズさん」


 お墓参りに言っていた事を聞かされた事と同時の出来事だった。
 ルビヤの顔付きがとんでもなく変わっていた事に驚いた俺は、更に驚愕していた。

 こちら側の不正を暴く為とは言え、あまりにも過激な行動につい驚いてしまっていた。

「現在ルビヤ様より要請のあった、商業組合の仲介人とコンタクトを取っている最中です」
「流れとしては、僕とフォーズさんで奴隷商へ向かい全ての商売履歴をこちらで掌握し、それを第3者である商売組合に提出します」
「お前も行くのか」
「当然です。僕が居なくては話しになりませんので」

 それで俺も一緒に護衛役として付いていくということか。もう一戦交わる前提で事が進んでいるのが不思議に思ってしまった。それだけの覚悟があるということか。

 平和的に事を運びたいというルビヤの気持ちを動かした何かあったという事か。
 本来ならただこっちの無実を証明するだけでよかったはずなのに、今のルビヤはそれをただの結果だけにするつもりだ。
 経緯を重視した動き。無実の証明が奴隷商というこの国では悪であるモノを叩く為の口実となっている。


「どうですかフォーズさん。その・・・突拍子も無いことかもしれないですが」
「・・・別に俺に聞く必要はない。信じてる奴がやってほしいってお願いしているんだ。信じた奴はただ首を縦に振るうだけさ」
「ありがとうございます。本当に」


 そうしてルビヤは懐から鍵を取り出した。
 それは、この俺とルビヤを隔てている鉄格子の鍵だった。

ガシャンッ!

 固く閉ざされていた鉄格子の扉の鍵が外され、俺は姿勢を低くしてそれを潜った。

 なんだか変な気持ちが込み上げてきた。
 今まで何度もこの牢獄から出て外に出た事はある。シアマ村の時はエルターの転送魔石で、前回は違法地下への潜入の為に転送魔石を使った。

 けれど、今度は違う。
 まるで釈放されたかのような気分だ。

「ふぅ~~・・・」
「フォーズさん」

 牢獄から出た俺にルビヤが手を伸ばした。
 いつも以上に真剣な瞳で。

「また、宜しくお願いします」

 けれど、俺は・・・その手を取らなかった。
 変わりにルビヤの頭に手を乗せた。

「任せろ。お前こそ気負うなよ」
「ん~~もう・・・ふふふっ」


 俺はしっかりとした記憶があるわけでは無い。本当ならとんでもない大罪を犯したのかも知れない。それはきっとルビヤも考えている事だ。
 けれど、ルビヤはきっと俺を信じてくれているんだ。目の前に立っている俺が、人々を脅かすような存在では無い事を。

 なら俺は、ただそれに甘んじる。
 そして、決して俺は、ルビヤと主従関係になるつもりは無い。


 ずっと、今もこうしてルビヤの頭を撫でてやるような存在であり続けたい。
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