【完結】投獄中の売国奴が出会ったのは、敵国の泣き虫王子だった。 ~期待された神器が"柄"ってだけで迫害を受けた~

三ツ三

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絡み合う陰謀

41.気鬱するフォーズ

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 王城の一室。
 そこにはルビヤ達によって奴隷商の実情を解明されサファイナによって拘束されたイドーの姿があった。
 扉を潜ったイドーが待ち受けていたのは一人の女性だった。

「いやはや、ご尽力感謝致します。ホルテリーゼ様」

 深々と頭を下げるイドー。
 中年に近いイドーに対してホルテリーゼは美貌を持った女だった。頭を下げるイドーに対して座っていた椅子から立ち上がり大手を振るい歓迎している様子だった。

「いえいえ、何を仰るのですか。イドー様も大切な同志のお一人、欠かせる存在ではありませんよ」
「ありがたきお言葉恐縮致します。サファイナ王女に最も近いとされ、お忙しい中お手を煩わせてしまい――」
「よいのですよいのです」

 物腰が軽いような態度を取るホルテリーゼにこの部屋へ訪れるまで血相を変えていたとは思えないイドー。
 部屋の応接用のソファーに腰を掛けるホロリーゼの姿を見て安堵していた。

「それにしても、あの落ちぶれ王子が余計な事を。お陰でこちらの面子が丸つぶれに」

 怒りを何かにぶつけたい様子のイドー。
 ルビヤがやった事でイドーの名誉王族の地位はほぼ地に落ちたと言っても過言では無い。こうして今も空気を吸っていられるのは、目の前に深く腰掛けているホルテリーゼのおかげであった。

「この屈辱、何倍にもして返してやりますよ!!」
「えぇ、期待してますよ」

 笑みを浮かべるホルテリーゼは、机に一枚の封筒をイドーへと差し出した。
 その封筒が何なのか一度固まったイドーだが、すぐに手に取り中を確認した。
 開封し入っていたのはたった一枚の書類だった。

 悠々と目を通すイドーの顔は、次第に顔色を変えていったのだった。

「こ、これは一体・・・。ホルテリーゼ様!」
「少し人手が足りないと要請を受けましてね。あなたの手腕、期待しておりますよ」
「お、お待ちください!!!」

 ソファーから立ち上がるホルテリーゼに詰め寄ろうとした途端、部屋の扉がバタンッと勢いよく開き複数の騎士兵達が入ってきた。すぐさま命乞いに似た事言い続け暴れるイドーは取り押さえられ、ホルテリーゼの部屋から追い出されたのだった・・・。

「困りましたねぇ・・・王子ルビヤ、大人しく言う事を聞いてくれれば良いのに」

 仕事用のデスクに取り付けられている魔術通信具を起動した。
 1コールもしない内に応答があり、ホルテリーゼは口を開いた。

「"国安長"に繋いで下さい」






・   ・   ・






 イドーの処遇。その裏でまた何か動きがある。
 そんな事は当然俺やルビヤは知るはずも無く、通常業務としてシアマ村に訪れていた。

「あはははは、流石我等が大将!! それでこそ俺達も盗賊をやめて慎ましく暮らせるってもんだ!!」

 俺はシアマ村の居酒屋であの日の盗賊と酒を酌み交わしていた。結晶石の特許を奪おうとした男であり、ルビヤをあのエンシェントホールだがなんだかに突き飛ばした張本人。

 ドギアだ。

「何が慎ましくだ。嫁さんの尻に敷かれてるって聞いたぞお前、今日だって早めに帰らないといけないんじゃないのかよ」
「あはははは、一人物耽ってる旦那を見つけたんだ、酒の一つも奢らないとそれこそ嫁に殺されるってもんですよ」

 相変わらず鬱陶しい野郎だ。
 俺とルビヤは久しぶりにシアマ村の視察に来た。特にこちらから用事があるわけでは無いのはいつもの事ではあるが、今回に至っては違う。

 あれから気を落としまくっているルビヤを心配してのエルターの提案。
 単純な話し息抜きだ。そして俺もその息抜きを一人でさせて貰っているという事だ。

「いいんですかい旦那、大将は一応お仕事されているんでしょう? こんなところで一人でサボって」
「別に四六時中ルビヤと一緒に居ないといけないといけないんだ」
「あっ! 知ってますよ。倦怠期って奴ですね!!」
「ぶっ殺すぞお前」

 本当に鬱陶しいこいつ。最初目にした時は驚いて声も出なかったが、どうやらここ等辺に屯っていた盗賊共は挙ってシアマ村に移住する事になったらしい。話しによれば餓死寸前だったドギアを今の嫁さんが見つけシアマ村で面倒を見た事が事の発端だったらしい。
 それから恩を返すとかなんとかでシアマ村の自警団として村の為に働く事になり、元盗賊達もドギアに続くようにシアマ村に下り立ったということらしい。


「ルビヤの大将はもちろん、フォーズの旦那には感謝してるんですよ」

 急に湿っぽい空気を作ってどうした。
 ルビヤはわかるが、なんで俺も? なんて顔をしているとドギアは酒がもう回ったのか勝手に語り出す。

「落ちぶれ王子ルビヤ。風の噂程度しか俺は知らなかったから興味も無かったんですがね。落ちぶれ王子ルビヤ、折角王族として生まれたのにも関わらずやらされる仕事と言ったら名誉王族共の雑用、この村を筆頭に細かいめんどくさい仕事を押し付けられ続け、話しによれば王城でのイジメ、名誉王族共が酷かったらしいじゃないですか」

「・・・らしいな」

 俺はその辺の事は詳しくない。というよりも聞かないようにしていたが何となく察していた。
 だってそんなのどうでも良いとつい最近まで思っていたからだ。
 俺にとってルビヤがどれだけの嫉妬を抱かれそれで生まれる軋轢があろうと構わなかった。
 何故ならルビヤはそんなくだらない事に屈するような奴じゃないと知っていたからだ。もし本当に命に関わるような事が起きれば、俺は全力でそれを阻止するし、邪魔者を殺すことなんて厭わない。

 そうつい最近まではの話だ。

「この村じゃあ誰もが言ってますよ。王子が変わった、あのフォーズという男のおかげじゃないのかって、みんな口を揃えて言うんですよ」
「どうだか、俺にはあれが元々のルビヤだと思ってたから実感は無いな」

 最初に出会った時のルビヤは今でも鮮明に覚えている。
 忘れる事の無い、忘れる訳が無い俺にとっての出会い。

「まぁ俺にはわかりますがね、少なくても村の人間よりも旦那の事は」
「俺の何がわかるってんだ、気持ち悪い」
「剣を交えた者同士にしかわからない物、で十分ですよ旦那」

 酒の入った瓶を差し出される。

 剣を交えた・・・臭いな。
 昔の俺ならきっと作り笑顔で喜んでいただろう。
 ドギアも村の人達もみんな俺のおかげなんて口を揃えて言うが、本当の所はその真逆だ。

 今こうしてこんな元盗賊の輩と酒を酌み交わす事の出来るのは全てルビヤのおかげなのだから。

「フォーズさんじゃないっすかぁああ!!!」
「ちぃいいいぃいっす!!」
「あっ!!! ドギアさん抜け駆けかよ!!」
「俺達も呼んでくれればよかったのに!!」

 ドギアの酒を貰おうとした時だった。
 鉱山での仕事を終えたのか元盗賊一同の面々がごちゃごちゃと酒場へと入ってきた。よく見たら中には盗賊だけでなく、村の同じ労働者の人も交じっていた。
 次々とカウンターで酒瓶を買うと、ドギアと同じように瓶を差し出してくる。自分にも注がせろと声を荒げながら。

 俺はそんな光景を目の当たりにして言葉を失った。

 あまりにも・・・。


「鬱陶しいな・・・本当に」


 俺はただ、手に持っているコップを差し出したのだった・・・。


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