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4話
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部屋が明るくなるのを感じて、シアは目を覚ました。
時間の感覚などとうにないが、多分朝だ。
小さく伸びをしてから外に出ると、灰色の靄の中、麦わら帽子の青年が鍬を振るっているのが見えた。
「やあ、おはよう」
屈託のない笑顔の魔王に、げんなりする。
……どうやら昨日の出会いは夢ではなかったようだ。
「そっちで芋焼いてるから食べて。地獄の業火で焼いてるから、聖剣で刺して取るといいよ」
魔王の指差す『そっち』に目を向けると、こぢんまりとした青い炎の焚き火の中で三つの芋が焼かれていた。薪などの燃料もなく燃えている炎は、本当に地獄の業火なのだろう。
「あ、味が足りなかったら岩塩を削ってね。瘴気で草木が枯れてハーブとかはないんだけど、鉱物は腐らないんだよね」
魔王の声を聞きながら、シアは聖剣の刃先で焼けた芋を掻き出して、二つに割ってみた。筋ばかりの芋だが、食べられないこともなさそうだ。
(こんなことに聖剣を使っていいのかしら)
罰当たりな気分になりつつ、シアは岩塩を削る。やせ細った芋はやっぱり美味しくなかったが、腹は落ち着いた。
「どう? 今日は殺れそう?」
天気を尋ねるみたいに気楽な口調で訊かれる。
「もう少し……」
大分体力は回復したが、連日の登山で体中が痛いし、なにより……やる気が出ない。
「そっか。じゃあ、もっといっぱい休んでね。でも、あんまりここに居ると瘴気で別の病気になっちゃうから、なるべく早く」
辺りに灰色に立ち込めている靄は、アルトゥオプス山から湧く瘴気だ。瘴気は生物に害を与える悪しき気。魔王は瘴気から生まれるので、彼自身も瘴気を帯びている。
魔王に身体の心配をされるなんて、妙な感じだ。
シアは手近な岩に腰掛け、地面に鍬を突き立てる魔王を眺める。
「なにしてるの?」
ふと訊いてみると、
「花の種を蒔くんだ」
思ってもみない答えが返ってきた。
「花を?」
驚いて聞き返す。
アルトゥオプス山は不毛の地。山頂付近はどんな植物も枯れてしまう。それは魔王が一番解っているのに。
不思議そうなシアに、魔王は微笑む。
「この辺りは瘴気のせいで草木が育たないけど、魔王が死ぬと、少しだけ瘴気が弱まるんだ」
硬い岩盤を割り、土を解していく。
「その時に種を蒔いておけば、もしかしたら上手く芽が出るかもしれない。そしたら何年何十年後かには、ここは一面の花畑になってるかもしれない」
ふうっと息をつき、赤い瞳でシアを見つめる。
「十日前、僕が目覚めた時、この辺りは今と同じで殺風景でつまらなかったんだ。だから、次の魔王が生まれた時、周りが花だらけだったら、ちょっと愉快な気分になれるでしょう?」
無邪気な魔王が眩しすぎて、何故か泣きたくなる。どうして未来のない魔王が未来を語るのだろう。
時間の感覚などとうにないが、多分朝だ。
小さく伸びをしてから外に出ると、灰色の靄の中、麦わら帽子の青年が鍬を振るっているのが見えた。
「やあ、おはよう」
屈託のない笑顔の魔王に、げんなりする。
……どうやら昨日の出会いは夢ではなかったようだ。
「そっちで芋焼いてるから食べて。地獄の業火で焼いてるから、聖剣で刺して取るといいよ」
魔王の指差す『そっち』に目を向けると、こぢんまりとした青い炎の焚き火の中で三つの芋が焼かれていた。薪などの燃料もなく燃えている炎は、本当に地獄の業火なのだろう。
「あ、味が足りなかったら岩塩を削ってね。瘴気で草木が枯れてハーブとかはないんだけど、鉱物は腐らないんだよね」
魔王の声を聞きながら、シアは聖剣の刃先で焼けた芋を掻き出して、二つに割ってみた。筋ばかりの芋だが、食べられないこともなさそうだ。
(こんなことに聖剣を使っていいのかしら)
罰当たりな気分になりつつ、シアは岩塩を削る。やせ細った芋はやっぱり美味しくなかったが、腹は落ち着いた。
「どう? 今日は殺れそう?」
天気を尋ねるみたいに気楽な口調で訊かれる。
「もう少し……」
大分体力は回復したが、連日の登山で体中が痛いし、なにより……やる気が出ない。
「そっか。じゃあ、もっといっぱい休んでね。でも、あんまりここに居ると瘴気で別の病気になっちゃうから、なるべく早く」
辺りに灰色に立ち込めている靄は、アルトゥオプス山から湧く瘴気だ。瘴気は生物に害を与える悪しき気。魔王は瘴気から生まれるので、彼自身も瘴気を帯びている。
魔王に身体の心配をされるなんて、妙な感じだ。
シアは手近な岩に腰掛け、地面に鍬を突き立てる魔王を眺める。
「なにしてるの?」
ふと訊いてみると、
「花の種を蒔くんだ」
思ってもみない答えが返ってきた。
「花を?」
驚いて聞き返す。
アルトゥオプス山は不毛の地。山頂付近はどんな植物も枯れてしまう。それは魔王が一番解っているのに。
不思議そうなシアに、魔王は微笑む。
「この辺りは瘴気のせいで草木が育たないけど、魔王が死ぬと、少しだけ瘴気が弱まるんだ」
硬い岩盤を割り、土を解していく。
「その時に種を蒔いておけば、もしかしたら上手く芽が出るかもしれない。そしたら何年何十年後かには、ここは一面の花畑になってるかもしれない」
ふうっと息をつき、赤い瞳でシアを見つめる。
「十日前、僕が目覚めた時、この辺りは今と同じで殺風景でつまらなかったんだ。だから、次の魔王が生まれた時、周りが花だらけだったら、ちょっと愉快な気分になれるでしょう?」
無邪気な魔王が眩しすぎて、何故か泣きたくなる。どうして未来のない魔王が未来を語るのだろう。
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